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【単行本】遠藤正二朗 著 「秘密結社をつくろう!」 ─1巻・上─第1話〜4話

まえがき

 はじめまして、遠藤正二朗と申します。平成の初めのころからゲーム業界で出たり消えたりしている者です。
 さて、本書は『Beep21』誌において連載中のコメディ小説『秘密結社をつくろう!』の第一話から第七話までを取り纏めた単行本となっております。また、登場人物たちのエピソードを掘り下げた外伝も新たに掲載しております。
 ゲーム脚本を生業としてきた私といたしましては、本作は初の小説となります。小説におきましてはゲームの脚本とは作法も違い、当方といたしましては手探りな部分もあり、お見苦しい点などあるかと思われますが、面白いものが書けている、などといった自信がふてぶてしいほどありますので、興味の入口として無料公開版から入っていただくのもよいかと思います。

 この物語では二人の青年が、もがき、あわてふためき、友誼ゆうぎを結び、人生の逆転を目論もくろみ、手に入れた規格外の異能いのうで立ちはだかるイリーガルやトラブルに立ち向かっていきます。対照的な社会的地位と、パーソナリティーが異なる二人が手を組んで、社会にいどんでいきます。

 二人はしくじりを頻発ひんぱつします。それでも確実に前進はしていきます。彼らをおろかさに突っ込むのもよし、愚直ぐちょくさを応援するのもよし、楽しみ方についてはいくつかの多面性をもたせたつもりなので、皆様なりのアプローチでご賞味下さいませ。


第1話 ─変身!正義のヒーローになろう!

Chapter1

 エプロンが波を打つ。小さく、時には大きく。それはそうだと納得できるほど、彼は落ち着きを取り戻そうとしていた。つい先ほどまでふるえるほどおびえ、落涙らくるいし、ショックでらしてしまうほどだったというのに。
 建物の屋上で助走をつけ、走り幅跳びの要領ようりょうあかりの海をぶ。すると、身に付けていた血まみれのエプロンが波を打つ。
 段々とわかってきた。踏み込む力に対する跳躍の距離というものが。青年は、貴金属買い取り店の看板が設置された七階建ての屋上に降り立った。跳躍の頂点は10メートルほどで、本来なら着地にともなう衝撃により無事では済まない落差である。しかし息は荒いものの、その身体はなにひとつ損傷を負っていなかった。
 看板は四方を板で囲んだがらんどうであり、その中に降りてしまった青年はすっかり視界をふさがれてしまった。
 天然パーマのちりちり頭を右手でひとかきした彼は、途方とほうれていた。周囲を見渡しても板の裏側だ。こういった様式の看板の屋上に跳ぶのはけなければ。彼は、かつて誰もしたことない禁止事項を自らにした。
 青年の左手には金庫が抱えられていた。大きさは1立方メートル足らずの金属製、それを片手でかかえられるほど身長170センチ足らずの彼は屈強な体格ではなかった。それでも自身の体重の数倍はあるはずの金庫を抱えたまま、彼は垂直に軽く跳ね、右手で看板のふちつかむと次の屋上へと水平に跳んだ。
 ここまではすぐ隣の屋上を目的地としていたが、強く踏み込めばもっと遠くへ跳ぶことができるはずだ。ならば、次は全力でやってみよう。幾度いくどかの経験で、青年はそのような手応てごたえを得ていた。このまま総武線沿いに東へと跳んでいけばいいはずだが、安心できる場所はまだまだ遠い。体力が持つのか不安だったが、そもそもこの奇妙な力の限界というものがわからない。だから彼は、ただ次の着地先を探すしかなかった。

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