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一撃で打ちのめされる
2022.5.24(火曜日) Lucia Berlin
来世は汗なき世界に生まれたし。
「今日は暑くなりそうですね」と、何度語りかけたことだろう。
いつものカフェに着くまでに、管理人と住人と数人の顔見知りと出会った。どの人物もそれほど親しいわけではないが、無視して通り過ぎるほど私は無情な人間ではないことを示すためににこやかに挨拶を交わす。
そうカッコつけて書いてみたが、実際に暑くなりそうなのは事実で、もうすでに暑いと言っても過言ではなく、誰かとそのことを共有したいという気持ちがないわけでもない。
メガネのノーズパッドに汗がたまる。
いよいよ夏だなと思う。
カフェに置いてあるナプキンを取って眼鏡についた汗を拭う。
もう一枚取って自分の鼻の周りの汗も拭う。
汗がひくのを待って読書を始める。
今はルシア・ベルリンの作品を読んでいる。
物語を書く能力は卓越していると思う。
読んでいると物語の匂いまでしてくる。
その物語の匂いや悲しみややるせなさが、こんな稚拙な読み手である私にさえ感じ取れるくらいだ。
最後まで読むのがもったいないくらいだが読もう。
読んでヒリヒリとした爪の先の痛みや、頬をつたう生温かい涙を少しでも感じようと私は必死だ。
多少の火傷は覚悟の上だ。
1時間すごす。
11時になった。
周りの店が開き始める。
街が賑わい始める。
*
それを合図に、私はとぼとぼと帰路につく。
帰りは誰とも会わなかった。
さて、主婦業の始まりだ。
今夜は豚肉の生姜焼きを作る。
まぁなんて主婦らしいメニューではないか。
と、自分で可笑しくなって自分を笑う。
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