ねぇあなた、逢魔が時に逢いましょう
2021.2.24(水曜日) dusk
夕暮れ時が好きになる。
以前は夜が嫌いだった。それにも増して夕暮れ時が嫌いだった。理由は特になく、子供が「にんじん嫌い」と言うのと同じようなもので、意味もなく嫌いだった。会社勤めをしている頃、夕陽を見つめて安っぽいドラマのヒロインのようなアンニュイな表情を浮かべ、悦に入る同僚である女友達を見ては「あぁ、また始まった」とシラけた感じになっていた。その女友達は「夕陽って見てるだけで涙がこぼれるね」なんて私に言ってくる。私は「はぁ?」となるが、人が何かの主人公になろうとする時、それは夕暮れ時なのだろうとその時に確信した。そもそも夕暮れ時はその昔「逢魔が時(おうまがとき)」と言われていて、徐々にあたりが暗くなって魔物や妖怪などに遭遇する怪しい時刻とされたようだ。今もこの時間帯には交通事故などが多いと聞いている。魔物や妖怪には会ったことはないが私をシラけさせるこの女友達はきっと魔物に取り憑かれていたのかもしれないと思う。現在はその女友達も、やれ子供がどうした、義母がどうした、何やっても痩せないなどと愚痴をこぼす当たり前におばさんになっていて、魔物からは離脱したのだなと思い私は安堵している。
ただ、私はあんなにシラけていた夕暮れ時が最近好きになった。アンニュイな感情が理解できたわけではない(たぶんそんなもんは一生理解できない)夕暮れ時になると変に気持ちが落ち着くようになってきた。きっとそれは年齢によるものだろうと思う。人の一生は1日に例えられることが多い。たぶんだけど、何の根拠もないけど、何の医学的知識もないけど、誰かに洗脳されたわけでもないけど、私のライフステージは夕暮れ時に入ってきたのではないかと思うのだ。
爽やかな朝は「おお、来たか」とやり過ごし、キラキラの昼間は「とにかく頑張ろう」と叱咤激励し、徐々に暗くなると自然とリラックスしてくる。本当に不思議な現象だ。そう思えるようになったのは昨年の誕生日を迎えた頃からだった。だからといって生活の何かが変わるわけでもない。ただ落ち着く、しっくりくるという感覚を味わうだけだ。そしてその感覚の中でお酒を飲むのはまことに愉快なわけだ。
夕方5時半頃が絶好調だ。
単なる酒飲みというなかれ。
いつか逢魔が時に逢いましょう。
うふふっ。