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気がついてしまうことのうっすらとした後悔

2021.6.18(金曜日) a young couple

若いふたりを見つめる。

病院の消化器内科の待合室に、若い夫婦が並んで座っている。肩を寄せ合いひとつのスマホの画面をふたりで見ている。まだ20代前半くらいだろうか、奥様はお腹に赤ちゃんがいるようで両手でお腹を庇うように座っている。ふたりが見ているのはマンション情報みたいだ。『ここ駅から近いよ』『でもちょっと家賃が高いかな』『この子のための部屋も確保できるようなところがいいよ』などという会話から、子供が生まれた時のために引っ越しを考えているのだろうと思った。まだ子供のような顔をした可愛らしい夫婦だ。

私は、このごろ胃が重いと感じていた。元々、バレット食道(逆流性食道炎の一種)を持病として持っていて、それは食道癌になる確率が高いということで少し異変を感じたらすぐに診てもらうことにしている。予約なしで来たものだからもう1時間以上待たされている。私の消化器内科の主治医は明るい話好きの女医さんで、患者とコミニケーションを取りすぎるために診察時間が長くなる。待つ方は大変だ。消化器内科の待合室は比較的に年配者が多いが、私のような中途半端な年齢の人もちらほら...このふたりのような若い人は珍しい。私は本を読みながら時折隣から聞こえてくる若夫婦の会話を微笑ましく聞いていた。

私より先にその若夫婦の旦那様が診察室に入っていった。私の主治医とは違う部長先生の診察室だ。奥様は心配そうにベンチに座って一点を見つめていた。長い診察だった。旦那様が出てきた時に看護師も一緒に出てきて『これからのことを相談いたしますので別室の方へご案内します』と言ってふたりを連れて行った。

さっさと歩く看護師の後に旦那様、少し離れてお腹を庇いながらゆっくり歩く奥様。私は見知らぬ若い夫婦の後ろ姿を見ながら、大事でなければいいがと思う。

彼らが角を曲がって見えなくなるまで見ていた。

彼らに会わなければよかったと思う。この沈んだ気持ちは誰のため?

それから30分待って私が呼ばれた。

主治医は「最近、多いのよ。胃もたれする人。季節的なものがほとんどよ」ということでそれ用の薬を処方してもらって様子をみることにした。帰宅して薬を飲んだら、スッキリ。軽い、軽い。

あの若夫婦の旦那様も薬を飲んだら『スッキリ、元気、元気』になればいいのになと思った。

午後3時、窓を開けていると石焼き芋売りの声がする。こんな暑い日に珍しい。真夏になるとわらび餅売りが来る。大阪って変わった街だ。こんなビルの谷間にも「石焼き芋」や「わらび餅」の販売車が来る。今はリモートワークで会社員も少ないから買う人も少ないかもしれない。私は長年ここに住んでいるけど1階まで降りて行くのが面倒で1度も買ったことはない。とうもろこし売りが来たら買うかもしれないな。とうもろこしは好き。

ジメジメとした雨が断続的に降っている。






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イトカズ
読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。

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