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ある日、ハズレ。
2022.10.12(水曜日) I lost
カフェ活動はハズレだった。
それまでは足音が響くくらい静かな店内に適度な音量でBGMにボサノヴァが流れていてた。私を含めそこに居合わせた数人の人々は束の間の安らぎを、あるいは脳の沈静化を感じていたに違いない。
そこに、
「キャハハハハ…」「わかるわかる。キャハハハハハハ...」
というびっくりするような大きな声の笑い声とともに5人のご婦人方が入ってきた。今までそこに居合わせた人全員の目が入り口の方に注がれる。
注文カウンターでも「私が奢るわよ」「いいわよ私が奢る」と言い合ったあと、中央の席を寄せ集めて座った彼女らは、
「息子がさぁ」
「でもさぁ」
「あの人さぁ」
「悪い人じゃないだけどね」
「言い方がねぇ」
「それはないわ」
「キャハハハハハハ....」
という声が響き渡る。
お客は私の他に若い女子とサラリーマンの二人組。
若い女子は本を読んでいた。サラリーマン二人はパソコンを挟んで打ち合わせをしているようだ。それぞれがそれぞれのテリトリーの中で過ごしていたのだけど、今までの世界が崩壊して一気にご婦人方の世界へと否応なしに誘われる。
BGMのボサノヴァが冷蔵庫のモーター音のごとく小さな唸り声のように聞こえる。
「ハズレ」
私は小さい声で言ってみるが、大きな声で言っても差し支えないほど彼女らの方がはるかに優勢だった。
街で起こる一場面はハズレの時もあればアタリの時もあるのが当たり前で、それは時間のいたずらという巡り合わせみたいなもんだろう。
1時間ほど時間がずれていればまた違った巡り合わせがあったはずだ。
それは時には「大アタリ」にもなり「大ハズレ」にもなるが、とにかく今日はハズレだ。
前に書いた小説「短い時間の長い瞬間」もそれがテーマだったとふと思い出した。それを思うと彼女らとの巡り合わせも一概にハズレだと断定するには尚早だ。彼女らの中の誰かが私の将来に何か良いことをもたらす人物として再登場するかもしれない。そう思いながら彼女らの顔をひとりひとりじっくりと見た。
でも、いつもお代わりするお茶は一杯で終わりにし、1時間を30分に切り上げてカフェを出た。
短い時間の長い瞬間がいつか訪れたとしても、私はうるさいのは嫌いだ。
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