追悼 ジェフベック
先日ジェフベックさんが亡くなりました。髄膜炎との事。ご冥福をお祈りします。
私が初めてジェフベック(以下敬称略)の音楽に触れたのは中学生の時、FMラジオで聴いた「People get ready」でした。まだ中学生だったので小遣いでレコードを買う事も出来ず、ラジオからmaxellのカセットテープに録音してソニーのウォークマンに入れ、テープの巻き戻しは手動で行い(カセットテープに鉛筆を突っ込んでグルグル回す)、乾電池を節約しながら毎日聴いていた事を覚えています。
当時はこの曲がカーティスメイフィールドの曲のカバーだった事は知らず、また歌詞も読まず(読めず)、ただメロディだけを追いかけていました。買ったばかりのアリアプロの2万円のエレキギターで頑張ってコピーしてみたものの、ジェフベックのような音にならず、「ジェフベックと同じフェンダーのストラトキャスターで弾けばきっと同じ音になるのでは」と浅はかなアイデアが浮かんだりしました(すぐに現実に気がつきましたが)。
高校に進学し、音楽にのめり込んでいくに従って、ジェフベックのアルバムを順番に勉強していきました。ジェフベックの曲には、ジミ・ヘンドリックスと同じく、どんなに聴き込んでも、いつまでも本質には辿り着けないような、何処か突き放されたような感覚が常にありました。何が分からないかすらも分からない自分に悩み、ある種のコンプレックスを感じ始めたのもこの頃だったと思います。
ある時、本屋で雑誌を立ち読みしていたらジェフベックのインタビューが載っていました。そこに書かれていた彼の言葉はあまりにも衝撃的で、思わず本を閉じて、そのままレジに持って行きました。
「やっとギターの弾き方がわかってきた」
ジェフベックはインタビューの中で、確かにそのような事を言っていました。「ジェフベックともあろうギタリストが、こんな発言をする。恐らく謙遜などではなく、まさにこれが真実なんだ。」と直観した事をいまでもはっきりと覚えています。
私はいま52歳ですが、歳を重ね、様々な人生経験をしてゆくに従って、毎年感じる事があります。それは「やっと人生のスタートラインに着いた」という感覚です。「自分が何がわかっていなかったのかがやっとわかった」という感覚は毎年上書きされ、いつまで経っても次のステップに進む事ができません。「ああ、なるほど。そういう事だったのか」と何か一つでも掴める事ができる日がいつかやってくるものなのでしょうか。
ジェフベックというミュージシャンは、私にとっていまでも人生の本質を教えてくる先生です。
安らかに。