みつばちの助っ人、天に昇る
清里から横浜の自宅へ戻った私は、ひと家族を実家の畑に居候させることにした。
父は、
「手は出さないけど、いいぞ」と言った。
でも、元来生き物が大好きな父は、どうしたって気になってきてしまったらしい(笑)
「おい、寒いのに今日も飛んでるぞ!」
とか、
「(箱を春に敷地内の広い場所に移動させて)引越し後も、元の場所に飛んできて死んでるぞ。可哀想に」
ちょくちょくラインで連絡が来ていた。
「ほら、気温が重要なんだろう?これ箱の中に入れておいてやって」
この頃から、本格的にみつばちに興味を持ったようだった。
それでも、作業は基本的に私1人。
父は重いものを持つとか、そういうことをする気はない。ただ、口を出したいという感じだった。なんとなく、参加しているし、気にしてくれているのはひしひしと感じるんだけどね(笑)
私は場所を提供してもらえるだけで、ありがたかった。
住宅街で、近所からの苦情を気にしていた時も、
「大丈夫だよ、苦情が来たら、その時考えよう」と言ってくれた。
夏場。箱の中を見ていて、大きな蛾が巣箱の中に死んでいたことがあった。
驚くような大きさの蛾である。私は蛾が大嫌い。
ぎゃーと声にならない叫びと同時に、
「おとーさーーん!」と助けを求めていた。
弱気で、(3歳から20歳まで反抗期と呼ばれた私が父に対して)無防備な私に驚いた父が、「なんだ、なんだ?」と、飛び出してきてくれた。
状況説明をすると、「そんなことか」と、すぐにツール(養蜂するときにミツロウでくっついた部分をうごかスノに使う道具)の先に蛾を引っ掛けて箱の外に出してくれた。本当に、いてくれてよかった!と思った。
その頃から、積極的に勉強をし始め、アマゾンで続々とみつばち関連書籍が届くようになった。
「読んでないなら、持っていっていいぞ」と得意げに渡してくれた。
たまに、「あの本に書いてあったじゃん」と私がいうと
「わしゃ、読んでも覚えてられなくなった」と言っていましたが。
夏に、最初の採蜜をした時は、それはそれは嬉しそうに
「こりゃあ本当に、美味しいなぁ。うちで採れたんだもんなぁ、すごいなぁ」と喜んでくれた。
はちみつにも本格的にハマり、ポチポチとここでもアマゾンでキルギスの白はちみつやら、ドイツのオーガニックはちみつの大瓶などを購入し、価格に対しての量や表記についても何やら研究をしていた。
夏の終わりから、秋は一撃必殺を誇るオオスズメバチ退治の名人となった。
「ほら、きた!」
「あいつら後ろからも来るからな」と後ろに昆虫界最強でオオスズメバチも避けると言われるオニヤンマの模型をつけた白いキャップをさっと被り、
玄関にスタンバイしてあった虫取り網を握って、出ていく。
その後ろ姿は、夏に蝉とりに出かけていく小学生の姿のように嬉々としていて、童心に返っていたと思う。癌で、一進一退を繰り返していた父が、オオスズメバチ退治に夢中になった。
「俺が窓際に立つと、さっと逃げていくんだぞ」と自慢げに話す父の満面の笑は忘れられない。
そして、「何時に何匹きたぞ」と
統計まで取り始めたのだ。
データ集めは、父がビジネスマンの頃からの習性だ。
大体、9時ごろから来て、日中11時から13時はほとんど来ない。
また夕方15時から16時くらいにまた戻ってくる。
というのが、父のまとめた大体の結果だ。
やりたくても、なかなかできなかったことが、父のおかげでサクサクと進んだ。
スズメバチ捕獲機を取り付けた時のこと。
みつばちがとても出入りしにくそうで、捕獲機に捕まったオオスズメバチが網を通り抜けようとするみつばちを噛み殺してしまうことに、父は心を痛めていた。
みつばちがギリギリ通れる網目ではあるのだが、オタオタしていると、逃げられないオオスズメバチのイライラにとばっちりを受けるのだ。
私が説明すると、
「要は、捕獲されたオオスズメバチをそのカゴから出せばいいんだろ。隣にペットボトルか何かで誘導して、そこにオオスズメバチが入ったら出られないようにすれば、いいじゃないか」と、提案してきた。
「言っていることはわかるけどさー」
工作が得意でない私には、かなりのハードルだ。
「夫に頼んでみるわー」とお茶を濁してその日は帰宅した。
次の日行ってみたら、その装置が完成していて驚いた。(写真参照)
よほど、みつばちのことを気にしてくれていたのがわかる出来事だった。
10月の終わりに父は検査入院をした。毎日スズメバチ退治をしていてくれたので留守中、気が気ではなかった。
「お父さん、みつばちが心配だから早く退院して!」と大真面目に言ったら、「俺の心配じゃなくて、みつばちか」と笑っていた。
その父が天に帰った。本当に、突然だった。
来年のみつばち増員のためのクラファンのコンサルをしてくれた翌々日。
もっと、ビジネスについて教えてもらいたいのに。
来年のスズメバチはどうすればいいんだろう、と途方に暮れている。
クラウドファンディング「みつばち、ありがとう」詳細は下記より
https://www.reservestock.jp/shared_projects/index/995