3作目 お腹はすっからかん、胸は張り裂けそうに、ぱんぱん。
朝、何となく目が覚めた。日の光だろうか、今日の体にとってもう睡眠が必要ないから起きたのだろうか。ゆっくりと起き上がり、カーテンを開け秋のどんよりとした光を受ける。「今日はバイトの面接の日だ。嫌だな。」
嫌な気持を振り払うようにポッドでお湯を沸かす。その間、今日はベルトに縛られたくない気分だったので、緩めの服に着替える。カチッと、ただボタンが元に戻ることだけでお湯が沸いたことを静かに伝えてくれるポッドに優しさを感じる。そのポッド君にお茶をついでもらって、椅子に座る。猫舌なのでしばらくお茶は飲めない。その間にノートに適当に書いていく。そうこうするうちに、準備しなければいけない時間帯になった。
あ、そうだ朝ご飯を食べなければ。今さらご飯を食っていないことに気づき、急激にお腹のすっからかんを感じる。冷凍ご飯を温め、卵かけご飯を作り、ニンジンのサラダをだして、昨日の夕飯の残りを温めていざ実食。
飯を食おうとしたその時、突然胸が、そう胸が張り裂けそうになった。自分でもびっくりしたが、とりあえず自分のためにお腹いっぱいにしてあげようと箸を卵かけご飯に伸ばした。箸で卵が絡んだ米を口に運ぼうとしたとき、体が硬直し、胸がさらにぱんぱんになり、涙が流れた。
つるつると頬を伝った涙であった。
初めての体験であった。頭の中では腹がすっからかんで、目の前の卵かけご飯を食いたいと思っているのに、胸がいっぱいで体が食べることを拒否し、涙まで流して強い拒否反応を出させた感じであった。頭と体のやっていることが合わない違和感と言いようのない不安。このまま、ご飯が食べられないのではないか。
ご飯はいったん置いて、私の好きなニンジンサラダをだべることにした。卵かけご飯はそんなに好きじゃないし、朝にしてはヘビーだ。食えない日だってあるだろう。じゃあ好物を食えばいい。
一枚のニンジンを口に運ぶのは至難の業で箸が、いつも使っている箸が、ひどく重く感じた。だが、ようやく口に入れられた。味付けは濃いはずなのだが、今の私にとってほとんど味を感じられなかった。昨日食べたニンジンの味とは別物すぎて悲しくなった。
でも、ニンジンのぱりぱりとした食感だけは感じ取れた。私がニンジンを好きな理由の一つである。とりあえず、食感に集中しようと次から次へとニンジンを口に放り込んだ。口いっぱいのニンジンの食感、歯ざわりを楽しんだ。
そうしたら自然と、野菜と昨日の晩飯の残りを食べることができた。味は少しだけ感じれたような気がする。とりあえず、もういいかと思って片付ける。残った卵かけご飯を忘れ去るように生ごみに捨て、出かける準備をして家を出た。