[判例紹介:刑法]強制わいせつ罪における「性的意図」
1.事案
[裁判年月日]最判平成29年11月29日
[判断事項]強制わいせつ罪における「性的意図」の要否
[結論]強制わいせつ罪における「性的意図」は不要である。
[関連法規]刑法176条
[司法試験重要度ランク]B+
2.事案
甲が、インターネットで知り合った人物Xから金銭を借りる目的で、同人の要求に応 じて、当時7歳の女児Aに対し、甲の陰茎を触らせ、口にくわえさせ、Aの陰部を触るなどの行為をし、その様子をスマートフォンで撮影するなどして児童ポルノを製造し、そのデータをXに送信して提供した事案。甲は行為時Aに対して自己の性欲を満たすという意味での性的意図はなかった(強制わいせつ罪の成立に性的意図を要求した最判昭和45年1月29日に従えば甲の行為は強制わいせつ罪に該当しないことになる)。
3.判旨
(1)「性的意図」の要否
個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし、そのような場合があるとしても、故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく、昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。
(2)あてはめ
被告人の行為は、当該行為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから、その他の事情を考慮するまでもなく、性的な意味の強い行為として、 客観的にわいせつな行為であることが明らかである。
(3)結論
性的意図がなくとも、強制わいせつ罪が成立する(上告棄却)。
4.解説
本判決は、強制わいせつ罪における性的意図を不要としたものである。
もっとも、強制わいせつ罪の成否が問題となる事案で、およそ性的意図の検討が不要となるわけではない。本件のように、行為の外形自体から直ちに性的意味が明らかな行為については(以下、「第1類型」という。)、少なくとも性的意図を検討をする必要がないことを示してる。性交類似行為がこの類型に当たる。
他方で、行為の外形自体だけでは、性的意味があるかどうかを直ちに判断できない行為(以下、「第2類型」という。)や行為そのものが持っている性的性質がないか、あるとしても非常に希薄な行為(以下、「第3類型」という。)についてはどうか。第2類型の例としては、幼児の裸の写真の撮影、キスがあげられる。第3類型の例としては、性的関心で手に触れる、衣類を着けた者の撮影があげられる。
第2類型については、それだけでわいせつ行為該当性の判断がつかない場合には、行為そのものが持ち得る性的性質の程度を踏まえた上で、当該行為が行われた際の具体的状況等(行為者と被害者の関係性、行為者及び被害者の各属性等、行為に及ぶ経緯、周囲の状況等)の諸般の事情をも加えて判断していくことになる。中には、行為者がどのような目的でその行為をしたのかという主観的事情(性的意図等)を総合判断の一要素として考慮せざるを得ない場面もありうる。第3類型については、迷惑防止条例違反とはなりえても、いかに行為者が主観的に性的意図を込めて行ったものであったとしても、この程度の行為までわいせつな行為とするのは妥当性を欠く。
司法試験等で強制わいせつ罪に当たるかの検討を要求された場合には、上記のどの類型にあたり、性的意図まで考慮が必要なのか否かを見極めたうえで、必要であれば性的意図の有無を考慮することになろう。
強制わいせつ罪の成否の検討においておよそ性的意図を不要としたわけではない点に注意が必要である。