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【感想:M1決勝】俺たちのニューヨーク〜「6.9世代」漫才師の矜持

「すべてぶっ壊す。」

嶋佐さんがプロレスを演じた台詞だ。しかし皮肉にも、2020年のM-1グランプリ決勝は突如として異種格闘技戦と化し、しゃべくり漫才で勝負したニューヨークの夢は文字通りぶっ壊されてしまった。

結果はもちろん残念だが、一方でニューヨークの「良いところしか出なかった」大会となったことは間違いないと思う。

以下はほんの一部分ではあるが、彼らの発揮した良いところを書いていきたい。

⒈お題に忠実な姿勢

「漫才頂上決戦」と銘打たれた大会に、しゃべくり漫才で挑む。

「漫才とは何か」を外野が定義する必要もないほどオーソドックスで洗練された「漫才師」として頂点を目指す矜持がニューヨークにはあった。

これは賞レースに限ったことではなく、例えば相席食堂のロケ1グランプリ(スパイダーマン)優勝、歌ネタ番組(ワラリズムのラップネタ)優勝、映画エレパレ(珠玉のドキュメンタリー)など、それぞれジャンルの異なる土俵で、それぞれのお題に沿った質の高い笑い(商品)を提供するのがニューヨークの真骨頂だと考えている。

一見、ネタの視点から、かっこつけて斜に構えているように見られがちだが、実は彼らこそ、相手の求めに真摯に応じる誠実な好青年なのである。それが徐々にお笑いの血が薄い人たちにも広がり始めているのではないか。

⒉ダークヒーロー

偏見、毒舌、性格が悪い・・・などダーティな言葉で表現されがちで、「傷つけない笑い」を標榜する第7世代芸人の敵役として語られることも多いニューヨーク。

しかし、ニューヨーカーとして彼らのYoutubeの企画やニューラジオを見ればみるほど、彼らは至って普通の感覚を持った地に足が着いた社会人であり、先輩後輩に関係なく裏方にも目の行き届くサラリーマンなら確実に出世する人たちだとわかってくる。

M-1ネタも、「チケットの転売」「自転車の飲酒運転」「傘の不法投棄」など、人として「やってはいけないこと」を堂々とやるボケに対してツッコミを入れているのであって、まさに社会の暗部を照らした時事ネタであり、市民の目線で皮肉っぽく正義を説く姿は、まさにダークヒーローなのである。

⒊ストーリー性

2019年M-1決勝での「最悪や」によって、史上最高と称された大会のMVPと賞賛されたニューヨーク。

前回大会から今回大会に至るまで、ニューヨーク対ダウンタウン松本さん、ニューヨーク対第7世代のプロレスをありとあらゆる場所で繰り広げ、嶋佐さんが好きなWWEで言うところの最大の祭典レッスルマニアに相当する2020年M-1決勝という大舞台までファンのテンションを右肩上がりに上昇させ続けてきたことがすごい。

今回ネタ終わりの審査員とのやり取りも、その場限りの「点」で終わらせるのではなく、松本さんの高評価によって過去の酷評(笑うな)を覆す歓喜によるカタルシスのすぐ後に、未来(怒るな)を予感させる新たなストーリー(無表情)を短時間で構築したところは圧巻。

ニューヨーク≒パク・セロイ、松っちゃん≒長家会長の梨泰院クラスは今もまだ続いているのであり、最終章は来年のキングオブコントとM-1グランプリに持ち越された。

なお、彼らはYoutube内のニューラジオや30分トークの中で、芸人仲間の学生時代や結成秘話を必ずと言っていいほど興味津々に聞き取り、それをしっかりと自分の言葉にして大切にしている。

瞬間風速で決まる勝負だけでなく、芸人になった経緯からの紆余曲折、それぞれのストーリーを大事にする彼らだからこそ、自分たちのストーリーを描くこともまた達者なのだと考えている。

最後に

今回は出順という運としか言いようがない要素(と少しの緊張)によりトロフィーを逃したニューヨーク。

しかし、彼らは一発逆転ではなく、小さな成功を1つ1つ積み上げることによってこそ大成功するストーリーの途上にある。

「ネクストブレイク芸人」から悲願の「売れっ子芸人」として、活躍の場はますます広がる一方だと思うが、やはりニューヨーカーとしては、M-1決勝で「俺たちのニューヨーク」の優勝を願って止まないのである。

以上




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