全話見てからのスティーブン・ユニバース(番外編)「もう一つの地球」("an alternate Earth")としてのSU
2020年3月27日、アメリカでスティーブン・ユニバースが完結しました。
それから、ひと月が経つものの、私の心は整理がついていません。
私はスティーブン・ユニバースの感想を見るのが好きです。色んな方の初見時の感想を見るたびに、自分もこのときこう思っていたな、と体験を振り返ることができます。そしてそれ以上に、エピソードをある程度見終わってから見直した際の感想も好きです。過去と未来のエピソードが常に相互補完されていく物語の中では、初見時には思ってもみない視点が加わっていくからです。
『Steven Universe』『Steven Universe:The Movie』『Steven Universe Future』全てを見終わった今(日本未放送分は北米iTunes等でリージョンフリーの配信をしています)、心の整理をするため、全話見終わってからの視点で、いくつかのエピソードで気づいたことを書いていこうと思います。
が、今回はエピソードの感想ではありません。SUの世界観についてです。
------以下、全話のネタバレを含みます-------
◇SUにおけるアメフトとバスケ
Redditで面白いスレッドがありました。話題となっていたのはTumblrに投稿された下記の画像です。
内容を補足しながらまとめてみましょう。
SUF#1"Little Homeschool"で、スティーブンが鳥の巣をバブルで包み、バスケのシュートを決めた時、なぜか彼は「タッチダウン!」と声を出します。タッチダウンはアメフト用語です。彼がスポーツに詳しくないから、と冗談も言えますが、もしかするとSUの世界ではバスケットボールにタッチダウンがあるのかもしれない。なぜなら、SUの世界と我々の世界は異なる歴史があるからだ。SUF#6"A Very Special Episode"を見てみると、TVを見るガーネットが「(モーションスムージングは)アメフトをみるのには最高だ。」と答えた時に、TVから鳴り響くのはバスケットボールのブザー音。つまり、SU世界ではバスケとアメフトがフュージョンした競技があるんじゃないだろうか。
◇もう一つの地球("an alternate Earth")
こうした解釈の背景には、SUに「もう一つの地球("an alternate Earth")」という公式設定があるからです。SUのエピソードをつぶさに見ていくと、我々の知っている世界との差異が見えてきます。
いくつか代表例をあげましょう。
・スティーブンの住む州はDelmarva州(SU#151「Reunited」で言及)
⇔実在のDelaware州 Maryland州 Virginia州を組み合わせた名前
(その他の地名関係)
・ジャージー州⇔ニュージャージー州
・エンパイアステート⇔ニューヨーク州
・キーストーン州⇔ペンシルベニア州
・スティーブンの住むアメリカ(?)の州の数は39(SUF#20"Future"で言及)
⇔実際のアメリカの州の数は50
・ハリウッド(?)がカンザス州にある(SU#56"Love Letter"で言及)
⇔実際のハリウッドはカリフォルニア州
・世界地図の形が異なる(SU#76"It could've Been Great"で図示)
・カナダ(?)国旗が異なる(SU#78"Log Date 7 15 2")
SUはファンタジー作品です。当然、現実世界を舞台にしているわけではありませんが、空想的設定を、ただ現実の世界につけ足しているのではなく、「もしも地球が6千年前に高度な文明を持つジェムズに植民地化されていたら、今の地球とは必ずどこか異なっているはずだ」そんな発想で世界が構築されています。そして、その示唆はまったくと言っていいほど、これみよがしでありません。見ていくうちに、少しずつそれを視聴者は理解していき、実はこの世界の全容を何も知らなかったことに気付くのです。スティーブンがゲームキューブで遊ぶ姿に感じる世界の地続き感とあわさって、非常に不思議で独特な感覚です。
◇"I want all of that complexity, but I also want that simplicity at the same time."
このことについて、2019年のPolygonのインタビューで、『アドベンチャータイム』とSUの世界観の構築方法の違いについて問われたレベッカ・シュガーが語っています。
現実の世界、その未来を描いた『アドベンチャー・タイム』と異なり、SUでは「もう一つの現在」を作りたかったこと、(結果的に作品内で触れられるかは別として)そのための大量の設定が自分の頭にあること、誰もが当然と思うところに小さな違いを見せたかったこと(ハリウッドがカンザスにあるのは、ディズニーの初期スタジオがカンザスを離れなかったから。)等々が語られています。最も興味深いのはSUの世界観の膨大で複雑極まりないアイディアを『モンスターホテル』のゲンディ・タルタコフスキー監督に投げかけていた当時の述懐です。
… I think I’ve never quite stopped since getting this advice from him, taking this macro micro approach to everything. I want all of that complexity, but I also want that simplicity at the same time.And once I was looking at it from that lens, I started to just strip away all of the complicated things that weren’t informing the simple thing. So it’s like you can get as complicated as you like. You can add so much complexity to something, but if it’s not reinforcing your point, it’s slowing you down. So I was just enhancing the things that did enhance the simple version and removing all the things that were complicating the simple version. That was so helpful for me.
...彼からのアドバイスを受けてから、何に対しても、常にマクロ・ミクロのアプローチを続けてきました。(自分が考え付いた)複雑さを全部表現したい一方で、シンプルさも表現したかった。その観点から見ていくと、シンプルな表現に邪魔な複雑さをすべて取り除くようになりました。好きなだけ複雑にしていい。ただ、何かを複雑にすることはできても、表現したいことに効果的でなければ、その複雑さはアダになる。だから、シンプルさを優先して、複雑さを取り除いた。それがとても役に立った。
膨大な情報量がある複雑な世界観を考え抜いた後に、どんどんと削ぎ落して最終的な表現をシンプルにするレベッカ・シュガーのアプローチ。私が思うに、これは世界観の構築のみならず、SUの演出すべてに言えることだと思います。
(SU#45「Rose's Scabbard」スティーブンにふと目を落とすパール)
SUでは、一瞬のキャラクターの表情、仕草、言葉遣いが、ふっと鋭く視聴者の胸を打つ瞬間が数多くあります。それは、まさしくシンプルな最終形の背後に膨大な文脈が構築されているからにほかなりません。
思えば11分という放送形態こそが、その最たるものでしょう。#52「Jail Break」のようなエピソードは何度見ても11分と思えません。あまりに密度が濃いためか、時間の感覚が不思議となり、「Stronger Than you」が流れ終わった後に、マラカイト戦が始まることに驚いてしまいます。
緻密に構築した世界観、キャラクターの心情を徹底的に簡素化して表現をして見せる。SUの魅力的な余白は、物語が終わった今でも視聴者の余韻となっています。
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