ベイビーシアターの錬金術でアートとコミュニティがもっと輝く 〜なはーとベイビーシアタープロジェクトをふり返って〜
── BEBERICAにとって沖縄は初めての開催地だったそうですが、今回のプロジェクトへの参加はどのように決まったのでしょうか。
弓井:プロジェクトの企画を担当していらっしゃる那覇文化芸術劇場なはーと の平岡あみさんに声をかけていただいたのが参加のきっかけです。平岡さんは以前からBEBERICAの活動に非常に関心を寄せてくださっていて、これまでのBEBERICAの公演やワークショップにも足を運んでいただいていました。
今回はBEBERICAのイベントだけでなく、なはーとベイビーシアタープロジェクトをどんなプロジェクトにしていくか、というところも含め、微力ながら一緒に考えさせてもらいました。今回開催したベイビーシアター講座とワークショップは、開催時期の関係もあり、プロジェクトのスタートダッシュを担うような形になりました。
なはーとベイビーシアタープロジェクトは、BEBERICAが講師を務めたもの以外にもさまざまなジャンルの講師によるイベントやワークショップを経て、最終的に津波 博美さん 、平良 亜弥さんという、2名の沖縄のアーティストと市民の方々でベイビーシアターを作って上演するという計画で進んでいます。アーティストと現役であかちゃんを育てている方達が集まって、市民の力でベイビーシアターを作る…、これはかなり新しい挑戦だと思いますよ。
ちなみに沖縄はまだBEBERICAを始める前、2015年に「りっかりっか*フェスタ」(国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ)でイタリア人の演出家の方と一緒に児童演劇を作った場所です。私が児童演劇に興味を持ったきっかけでもあるので、実はとても思い入れのある土地なんです。「りっかりっか*フェスタ」での経験がなければ、BEBERICAもなかったと言っても過言ではありません。なので、ようやく沖縄に戻ってくることができたな、という嬉しい思いもありました。
── 1日目のベイビーシアター講座、2日目のレクチャー&ワークショップは両日共に満員御礼だったとか!
弓井:はい、ありがたいことにキャンセル待ちが出るほどでした。親子向けで開催したベイビーシアター講座は、会場が那覇市の樋川みらいこども園だったのですが、そこには地域子育て支援センターが併設されていて、コミュニティや繋がりがすでにある場所で行えたことが大きな要因かなと思います。
なはーとベイビーシアタープロジェクトの全体の事務局となっているNPO法人1万人井戸端会議さんは那覇市内で公民館の運営をなさっていて、私もその一つである那覇市繁多川公民館にお邪魔させていただいたんです。そこは年齢や国籍問わず色々な方が集っていて、とても素敵な空気感に満ちていました。1万人井戸端会議さんの公民館事業を見たエジプトの方が大変感銘を受けて、エジプトにも日本の公民館モデルを取り入れようとする動きもあるそうですよ!
今回のワークショップは、子育て支援センターのような、みんなの「居場所」でベイビーシアターを実施することによって、「あかちゃんを育てる人たちとの繋がりや新しい関係性を作っていきたい」というプロジェクトの思いに応えたいと思って取り組みました。
── 2日目のベイビーシアターのレクチャー&ワークショップの内容について教えてください。
弓井:前半は参加者の自己紹介とベイビーシアターに関するレクチャー、それからプチベイビーシアターの体験ですね。プチベイビーシアターは、あかちゃんがお腹の中で過ごす十月十日についてのテキストを私が読み、加えて照明や楽器、触覚に働きかけるための布などを使って、参加者の皆さんに実際にベイビーシアターを体験してもらうというものです。
後半は、ながやさんが担当する身体を動かすワークから始まり、それらを踏まえて3グループに分かれてベイビーシアターを創作してもらいました。5分間くらいの短いものを想定して、小道具や楽器などはこちらが用意したものや参加者の皆さんの持ち物など、何でも使っていいですよ、という感じです。
当日は、俳優さんや保育士さんをはじめ、子ども向け演劇ワークショップを開催されている方、創作ミュージカルに携わっている方、アフリカの音楽を研究されている方…などなど、ほんとうにさまざまな方々が参加してくださいました。
みなさんとても積極的に取り組んでくださいました!
── 身体を使ったワークは主にながやさんが担当をしたそうですが、参加者の方々とワークを行ってみて、何か感想などありますか?
ながや:事前に予想していたよりも多様なバックグラウンドの方達が参加していたので、どのくらいベイビーシアターの本質的なところを理解してもらえるのか少し心配でした。ですが、事前のレクチャーのおかげももちろんあると思うのですが、実際にやってみるとみなさんワークの内容をしっかり自分の中に落とし込もうとしているように見えました。
例えばワークの一つに、人(他者)の動きを真似してみよう、というものがあります。ここで単純に人の動きを真似するだけだと、遊びの方向に寄ってしまうことがあるんです。でも今回はみなさんがこちらが少しガイドをしただけで、人の動きを真似るという行為の先にある、相手の感覚を見たり探ったりする狙いをしっかり捉えてくれていました。すごく感度の高い方々が集まっていたな、と。僕にとってはそれが一番印象的でしたね。
弓井:それで言うとレクチャーの段階からみなさんが非常に興味を持ってベイビーシアターについて理解しようとしているのが感じられて、その後の身体を動かすワークでもあまり躊躇がないというか、ながやさんの仰っているように、しっかり正面から取り組んでいただいているなと思いました。
ベイビーシアターでは「触知」、字の通り「触って知る」という部分が非常に重要で、自分が触るだけではなく、誰かに触れられたりすることはもちろん、手以外のところも感覚を受け取る場所になるんだ、というようなことを、体感していただけたと思います。
── 近年のBEBERICAでは、今回のようにベイビーシアターのレクチャーやワークショップを通して作り手へのアプローチも行っていますね。
弓井:いわゆる座学での「ベイビーシアター講座」みたいなものは2020年頃から少しずつ開催していたのですが、実践編として創作の活動は2023年に福島県のいわきアリオス(いわき芸術文化交流館)で行った「『物語を旅する 〜お空のせかい〜』関連企画ベイビーシアターをつくってみるワークショップ」が最初です。
BEBERICAが発足した2016年から、ベイビーシアターというものをいつまで継続できるのか、という部分は常に不安要素ではあります。この数年間で興味関心を持ってくださる方は着実に増えていると感じていますが、作り手や担い手となると、まだまだ数が多くないのが現状です。
しかしベイビーシアターは必ずしも演劇に関わる人だけでなく、今回のワークショップの参加者の方々のように保育に携わる人はもちろん、子育てをしている人や身近にあかちゃんのいる人たちなどが、何らかの担い手になるかもしれない可能性があると感じるんです。
ベイビーシアターには、あかちゃんや子育てに対する認識はもちろんのこと、人間観や人生観が変わったり、コミュニティの関係性を変えたりする力がある。ベイビーシアターに取り組む人の手によって、まるで錬金術のように何か新しいものが生み出されることがあるんじゃないかと思うんです。
私たちが2022年2月の大阪の茨木クリエイトセンターで公演した『What’s Heaven Like?』では保育士さんに出演していただき協働することで、新たな作品作りの幅が広がり、よりベイビーシアターの今後の発展を感じることができました。ベイビーシアターは新しい分野だからこそ、この先どんな展開があるのかが未知数ですし、今後も様々な作品や活動が生まれてくれたら嬉しいですね。
ですので、今はどんどん種を蒔いて、色々な方々がベイビーシアターに取り組んでもらえたらいいな、とささやかなお手伝いをしている感じです。
── 振付師や演出家としてBEBERICAの活動に数多く参加しているながやさんですが、作り手の当事者として、ベイビーシアターに関してどのような思いを持っていますか。
ながや:僕は元々子供が好きだったり子育てというものに興味があったりする中でベイビーシアターに関心を抱いたんですが、BEBERICAと本格的に携わっていくうちにベイビーシアターにはとにかく発見が多いことに気づきました。観客であるあかちゃんからのフィードバックで、その度に新しい発見が生まれるんです。あかちゃんの反応は、演者や周囲にいる親御さん、それ以外の大人たちにも影響します。公演を続けるうちに、社会的にこういった場が求められている実感もあり、今でもベイビーシアターの活動を続けていますね。
それから、俳優やダンサーに限らず、舞台芸術に携わる人たちにとってベイビーシアターに関わることには非常に利点が多いと感じています。本番の舞台をどういう風に成立させるか、さらにその時々の本番によって変化する観客との関わりにどう対応していくか、かなり繊細な意識を持つ必要があります。そういったスキルは、それぞれの方の持つフィールドで確実に役立つはずなので、ぜひ今後も様々な人たちにベイビーシアターを体験してもらいたいと思います。
── 担い手が増えベイビーシアターの上演がより各地に増えていくことで、その地域のコミュニティの活性化も期待できるとか。
弓井:冒頭でお話した「なはーとベイビーシアタープロジェクト」でも少し触れましたが、ベイビーシアターはあかちゃんと大人に舞台芸術に触れてもらうだけでなく、時にはスタッフや観客の隔たりをも超えて、子育てに関わる人たちの新しい繋がりの場にもなる可能性を秘めているんです。
実は全国の劇場だけでなく公共の文化施設などからもそういった声が上がってきていて、今後はもしかしたらそれぞれの地域にいるコラボレーターさんが、その土地に合ったベイビーシアターを展開していく未来もあるんじゃないかな、と。今回のなはーとのように、那覇ではアーティストさんと子育て中の方々が一緒になって制作して、別の土地ではまた違ったコラボがあって…という風にそれぞれの場所でそれぞれに適した形で根付いていったら素敵だなと思います。
そのためにBEBERICAがお手伝いできることがあればぜひ声をかけていただけたら嬉しいです。
おわりに
「作品の芸術性を追い求めながらも、裾野を広げていくことで地域社会の発展も担える。ベイビーシアターって、とてもユニークなジャンルの舞台芸術だと思います。」と仰っていた弓井さん。なはーとベイビーシアタープロジェクトをはじめ、全国各地のベイビーシアターが作っていく、あかちゃんと一緒に社会と芸術が繋がる未来。もしかしたら、今よりもっとベイビーシアターが身近に感じられる時代がすぐそこまで来ているのかもしれませんね!
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【開催レポート ベイビーシアタープロジェクト、はじまりの巻】/那覇文化芸術劇場 なはーと 公式FBより
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