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1歳で小児ガンになった娘・かりんから教えてもらったこと。

こんにちは、「あかちゃんと一緒にせかいをつくる」をテーマに、あかちゃんに向けたパフォーマンス作品=ベイビーシアターを制作するBEBERICAです。
2020年8月に開催したオンライン講演会を記事に書き起こしました。


介護福祉士の父【たけちゃーんす】さんに、命のこと、家族のことを聞く。

京都にお住まいの介護福祉士【たけチャーンス】さん。娘さんが1歳のときに小児がんであると告げられました。
体が曲がってしまうかもしれない手術、世間の目、幼稚園や小学校への進学など、親である自分たちに一つ一つが委ねられることに、悩み葛藤し、時には現実から逃げてしまうこともあったそうです。

その中でも、小児がんという病気を通して、娘のかりんちゃんから多くのことを教わりました。子どもが持っている可能性の広がり、周囲からの暖かい支え、そして家族との繋がり。
かりんちゃんのお父さん【たけチャーンスさん】にその学びのお話しをじっくり1時間伺いました。

娘が小児がんと告げられる。

かりんは小学2年生で、上に小学6年生の咲太郎という男の子がいます。
かりんが一歳で、つかまり立ちの時期でした。立てていたはずのかりんが、座ることが多くなってきて、それが頻繁になっていました。
小児科では「成長の過程かな」と言われましたが、日に日に立つことが減っていました。排便を見ると全然出ていないですし、紹介状を書いて貰い、総合病院で検査入院することになりました。

その日の夕方に病院に行くと、先生から「この立てない原因は、小児がんです」と告げられます。考えてもみなかったことでした。

先生から症状を聞いて、本当にもう、命が大丈夫なのかっていうね。
僕は小学3年生のときに乳がんで母を亡くしているので、がんと聞いて「命は大丈夫ですか」とやっぱり聞きました。先生も、大丈夫ですとは言い切れなくて、結果が出るまでの2ヶ月は本当に気が気じゃありませんでした。

腫瘍は左肺の後ろあたりで、大人の拳ぐらいの大きさです。それが背骨をまたがって神経を圧迫しているので、お腹から下が麻痺の状態だったんですね。
その日から入院して、抗がん剤治療をすることになりました。妻とかりんは病院で、僕と上のお兄ちゃんは家で待って、一気に家族が離れ離れになりました。

3ヶ月ぐらいで抗癌剤が効いてきて、腫瘍はみるみる小さくなりました。
足が全く動かなかったのが、指先が動いたとか、足首が動いたとか、次に膝が動いて太ももが動いて、徐々に足全体が動くようなり、あれよあれよと立てるところまできました。それがもう、泣きそうなほど嬉しかったのを覚えています。

「小児がん」と聞いてまず命のことが第一で、足が動くかなんて二の次三の次でしたが、3ヶ月で歩けるようになったことは、二度目の成長のように感じました。
一度目は、つかまり立ちなどごく自然の成長で、二度目の成長は、腫瘍が小さくなって神経が通って、歩けるようになったときのことです。

遠のく退院、体が曲がる可能性がある手術を選べない。

いよいよ退院という段階で、かりんの立つ頻度がまた減ってきていました。
腫瘍マーカーは数値的に良くなったのに、腫瘍が線維化され、背中の後ろで大きくなっていることが原因でした。
病院でも様々に見解があり、「腫瘍の数値は良くなっているが、歩くのは難しいかもしれない」「大きくなった成長の過程で歩けるんじゃないか」など、結論の出ないところでした。

そこで、東京の慶應義塾大学でセカンドオピニオンを受けました。
状況を伝えると、先生は「すぐにでも手術してください」と言い、手術では背骨を割って腫瘍を取り除くそうで、それによって体が曲がってしまう可能性があると言われました。

「はいそうですか、やります。」とは言えないですよね。
かりんは女の子なので、体が曲がるのは絶対に嫌です。やってもすぐ治るかわかりませんし、大きな手術で命に関わります。
どうするか夫婦でずっと話しをするんですけど、現実逃避になるんですね。
かりんは当時二歳だったので、判断するのは親の僕らです。
この子が大きくなったときに、「なんでこんな手術したん?」「そんなことしたから背骨が曲がっちゃったんだ」なんて言われたらどうしようとか、手術が失敗したらと考えてしまって、ずっと選べませんでした。

あたりまえの幸せ

東京で手術のために3ヶ月ほど滞在しました。保険会社が運営するファミリーサポートセンターというシェアハウスを利用して、同じ当事者のお母さん方とそこで出会いました。
互いに助け合える、助け合う場所の存在が、自分にとってすごく良かったなと思います。お母さんたちと話す機会を持てたことで、心が救われました。

「その(執刀医の)先生は本当に素敵な方で、大丈夫だから安心して臨んでね」と言ってくださった方がいて、その言葉に本当に心が励まされて、手術を迎えることができました。
そのご恩を返したいと思って、こういった活動を続けています。

手術は成功しましたが、神経に当たっていたダメージは大きく、麻痺の状態が残りました。

それまでの幸せって、どこかに旅行に行って「なんか楽しかったー」とか、「いい景色だなー」とか、そういうことを幸せと思っていました。
手術が終わって、僕と上のお兄ちゃんと妻とかりん、一緒に一つ屋根の下で過ごせる当たり前の空間で、これを幸せというんだなと感じました。

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車椅子がもたらした意外な可能性

かりんはお腹から下が不随で、両脇を抱えて体を揺らすと足がぷらんと揺れてしまって、お人形さんみたいな状態になるんです。その娘が車椅子を手に入れたら、自力でバーッ!と漕ぐんですよ。
この上ない最高の笑顔を見せて、生き生きとしているんですね。
車椅子を漕ぐようになって肺活量も上がって、ちょっとした風邪で年に3-4回は入院していたのがここ5年ぐらいはそれもありません。
ただの移動手段だと思っていた車椅子が、気持ちの面での自立や、行動の幅を広げてくれて、色んな可能性に繋がっていきました。

高さのある椅子にも自分から登るようになり、「パパちゃん見て!こんなんできたよ!」と、色んなチャレンジをするようになりました。
「あ、この子立つな」と、親の自分たちも可能性を感じられるまでに変わりました。
かりんの気持ちが前向きになり、彼女自身が変わったと思ったんですけど、そうじゃなくて、僕ら夫婦も変わったんですね。

かりんには、できることがたくさんあった。

当時は幼稚園に行かせないとか、嫌だとか言いながら、夫婦で悶々と話をしていた時期がありました。
「かりんちゃんなんで立てないの?」「かわいそう」という声を聞きたくなくて、免疫力の低下もあり感染症が怖かったのですが、一番大きな要因は人の目でした。

かりんが幼稚園に通いだすと、年少の園児たちが「かりんちゃんこの椅子持ってきたよー」と、気を遣うでもなく自然に言ってくれたり、「かりんちゃん歩けへん動きやから、私たちもハイハイして鬼ごっこしよう」と合わせてくれました。
運動会では、「かりんちゃんがどうやったらみんなと一緒にかけっこできるか」とは幼稚園も特段しないんですね。
できるところに合わせてくれて、インクルーシブという、包括的に皆が入っていける環境をどう作っていくかという目線がその幼稚園にはあったなと、すごく勉強になりました。

「ここできひんからどうしよう」と僕は思っていたのが、実はかりんにはできることがたくさんあったんですね。その時はまだまだ受け入れられてなかったんです。

「いや、もうただ歩けへんだけやん。」
そう思えて、ようやく全部受け入れられました。本当に、人生を180度変えてもらったと思います。

体は大分良くなったんですけど、ちょっとした風邪でも命取りです。このコロナなんて本当にやばいんですけど。
かりんがニコニコと笑っている写真があって、そのニコニコっとしていた30分後に入院していたりするんですね。
ちょっとした病気でも命取りなんだから、もし何かあったときに、今この瞬間を後悔しないように、今に全力で向かい合おうと決めました。

そういう視点に変えてから、今を楽しもう、今できること、今しかないと学ばせて貰ったように思います。


「親が教えなきゃ」と感じることが多いけど、実は子供が教えてくれることがすごくあります。
親は信じるだけ、温かい目を向けるだけで、子供はすくすく伸びるのだということを感じました。

周りと比べることもあると思うんですけど、周りは周りでいいと。
普通なんか全くないと思います。
もしそういうことにぶつかったら、自分でもなく周りの目でもなく、子供にフォーカスをあてれば、その選択肢が全て100%OKだと思います。

親が信じなかったら、子供は絶対に伸びないと思うんです。
ちゃんと子供は成長します。命さえあれば、本当に何でもできると感じさせられました。

今改めて、家族の素晴らしさを学ばせてもらっています。子供と向き合う、その人と向き合う、その人の全てに関心を持って関わっていくことを大切にしていきたいですね。(了)


こちらのオンライン講演会は、BEBERICAが運営するベイビーシアター・オンラインサークルで行いました。

■ベイビーシアター・オンラインサークルって?
ベイビーシアターファンが交流し、学び、ともに楽しむ場として月3~4で行うオンラインワークショップや講演会に不定期のオフ会、子育てについてのコラム他、情報交換や会員同士のしゃべり場をメインとしたコミュニティを運営しています。
乳幼児向けの演劇「ベイビーシアター」が好き、或いはその取り組みに興味があるお父さんやお母さん、自分たちが作る側として携わる保育士さん、子どもたち向けのコンテンツを実演するパフォーマーや企画者の方も。
https://peraichi.com/landing_pages/view/babytheatreonline

昨年の秋に立ち上げたばかりでβ版として現在ゆるゆる運用中です。ご興味ある方、参加したい方を現在も募集中です!ぜひいらしてください。


文、編集:細貝由衣


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