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君の呼ぶ声【本編無料】

2024年新作です


登場人物

アイ(20代) 会社員
タクヤ(20代) アイの恋人
スカジャン 登山者
小屋番 


本編


〇黒い画面
タクヤの声「アイちゃん」

〇ファミレス(夜)
向かい合って座っている男女カップル。

アイ「ん、何?」

アイはパフェをもりもり食べている。
対するタクヤは猫背でくたびれており、彼の前にはコーヒーが1杯だけ。

タクヤ「仕事やめたよ」
アイ「えっ」

食事の手を止めるアイ。

アイ「よかったねー、あんなとこやめて正解だよ! どんどん痩せて心配だったんだから!」
タクヤ「しばらく休むよ。ちょっと自分を見つめ直してくる」
アイ「どっか行くの?」
タクヤ「うん。山に行こうと思うんだ」

と、弱々しく微笑む。

〇山道
木が生い茂る山道。
道幅も広くまだ裾の方であることが窺える。
新品のリュックを背負い、新品の服と靴で歩くアイ。
アイは山道をひとりで歩いている。

〇タイトル『君の呼ぶ声』

年配の夫婦とすれ違うアイ。

年配夫婦「こんにちは」
アイ「こんにちはー」

アイ、山を下る年配夫婦の背中を見る。
彼らの仲睦まじい姿に目を細める。

   ×   ×   ×

川沿いに出るアイ。
スマホを取り出す。
スマホの待ち受け、アイと血色がいい頃のタクヤのツーショット写真。
タップしてカメラに切り換え、川を背にした自分を撮影する。
   
   ×   ×   ×

黙々と登山を続けるアイ。
ベンチがあるだけの簡易的な休憩所にたどり着く。
リュックを下ろしてベンチに座り、リュックからお弁当を取り出す。
おにぎり弁当。
中腹からの景色を眺めながら、おにぎりをモグモグ食べるアイ。

スカジャン(OFF)「おひとりですか?」
アイ「!」

いつの間にか、隣のベンチに和柄の刺繍が入ったスカジャンの男が座っている。
ビーチサンダルに黒マスク。手荷物はペットボトルひとつ。

アイ「(愛想笑い)ええ、まぁ」
スカジャン「登山がご趣味で?」
アイ「そんなところです」
スカジャン「それにしては、服も靴もおろしたてのようですね」

スカジャン、アイの全身を観察するような視線。
アイ、男の視線に気がつき警戒する。

アイ「これから趣味にしようとしてるんです……そちらこそ、凄い格好ですね。登山らしくないというか」
スカジャン「ちょっとフラッと寄ったものですから」
アイ「地元の方ですか?」
スカジャン「いえ、ちょっと気になることがありまして。ほら、この山は(アイを横目で見たまま)出るっていうじゃないですか」
アイ「出る……?」
スカジャン「幽霊かはたまた妖怪か……とにかく不思議な何か。おいしいネタがありそうです」
アイ「(呆れ)……はぁ、そうですか。見つかるといいですね」
スカジャン「そのためにはもう少し先へ進まないといけないようです。あなたもこの先へ?」
アイ「そのつもりです」
スカジャン「ということは、今夜は山小屋に?」
アイ「(マズいな、という顔)……私、もう行きますね」

アイ、身の危険を感じたのか、急いでお弁当箱をリュックにしまう。
代わりにリュックの中から痴漢撃退スプレーを取り出して、スカジャンから見えないようにソレを上着のポケットにしまう。

アイ「それじゃあ」

アイ、リュックを背負って立ち上がり、スカジャンに一礼して歩き出す。

スカジャン「お気をつけて」
 
   ×   ×   ×

やや早足で、何度も後ろを確認しながら山道を歩くアイ。

男の声「アイちゃん」

木々の合間から男の声。
アイ、思わず立ち止まって声がした方を見る。
誰もいない。

アイ「…………」

〇山小屋・外観(夜)
山林に囲まれた山小屋。

〇同・食堂(夜)
小さな食堂スペース。壁には山林の写真やカレンダー、食事のメニューなどたくさん貼られている。(さりげなく「心のSOSホットライン」などの貼り紙もある)
登山客が何人か食事をとっている。
隅っこの席に座って食事をしているアイ。

小屋番「お客さん、大丈夫?」

近くの席を片づけていた小屋番の男性がアイを見ている。

アイ「え?」
小屋番「無理したらダメだよ。山は心も体も健康な時に登らないと危ないから。何かあったら、すぐに言ってね」
アイ「……ありがとうございます」

〇同・トイレ前(夜)
手洗い場で顔を洗うアイ。
鏡に映る自分の顔を見る。
疲れ切った顔。
そのアイの様子を陰から見ているスカジャン。

〇同・客室(夜)
簡易的な仕切りのみで雑魚寝するタイプの客室。
ひとつの布団の上であおむけに寝てスマホを見ているアイ。
  
   ×   ×   ×
タクヤとの過去のチャット画面。
アイ「そっち晴れてる?」(午前9:45)
タクヤ「晴れてるよ」(午前9:55)
アイ「よかったね!」(午前9:56)
タクヤ「川きれい」(午前10:01)
タクヤから川とタクヤの自撮り画像(午前10:01)。今日アイが撮っていた川の写真と似た構図。
アイの指、スマホ画面を下にスクロール。
翌日の日付表示。
タクヤ「アイちゃん」(午前6:33)
タクヤ「元気でね」(午前6:33)
タクヤから山林の写真(午前6:33)。壇の様な形の岩とその手前に生えている木。
アイ「え 何?」(午前9:27)
アイ「タッくんどうしたの?」(午前9:27)
アイからの電話「キャンセル」(午前9:28)
アイからの電話「キャンセル」(午前9:29)
突如、タクヤからの着信画面に切り替わる。
   ×   ×   ×

アイ「……」

スマホにタクヤからの着信が表示されて動揺するアイ。
上半身を起こして通話ボタンを押す。
おそるおそるスマホを耳にあてる。

アイ「もしもし……タッくん?」
女の声「アイさんですか?」
アイ「……はい」
女の声「突然ごめんなさい。タクヤの母です」
アイ「……」

アイ、ギュッと目をつむる。

女の声「あなたと頻繁に連絡をとっていたようだから、きっと仲が良かったんだろうと思って……」

〇アイの部屋(回想)
ベッドに座り、スマホを耳にあてているアイ。

女の声「あの子は……タクヤは山の中で首を――」

〇山小屋・大部屋(早朝)
アイ「!!」

汗だくで目を覚ますアイ。
スマホをしっかりと握り締めている。
スマホのサイドボタンを押して待ち受け画面を見る。
タクヤとのツーショット写真。
アイ、涙ぐむ。

〇山道(早朝)
まだ空が暗い早朝に登山を再開するアイ。
アイ、スマホを確認する。
登山アプリで自分の現在地を確認。
続いてギャラリーを開き、位置情報共有サービスのスクリーンショット(午前9:45)で当時のタクヤがいた位置を確認。登山アプリで確認した現在地から、少し離れた右手側にタクヤのアイコンが表示されている。

男の声「アイちゃん」
アイ「(右を見て)!」

アイの右側は鬱蒼とした木の茂み。

アイ「タッくん……」

アイ、道から外れて茂みの中へ。

〇山林(早朝)
道なき道を進むアイ。
進むにつれて疲労の色が濃くなっていく。

男の声「アイちゃん」
男の声「アイちゃん」

声につられるように歩き続けるアイ。
朝にもかかわらず、どんどん周囲が暗くなっていく。

アイ「!」

壇のような岩とその手前の木を発見する。
スマホを取り出し、タクヤから送られてきた木と岩の写真と照らし合わせる。
目の前の光景は、写真と同じ。

アイ「ここだ……」

アイ、写真と同じ木に歩み寄り、その場に座る。

アイ「タッくん、遅くなってごめんね」

アイ、リュックから箱を取り出す。
更に箱から花を取り出して、木の根元に供える。
両手を合わせるアイ。

男の声「アイちゃん」

アイ、顔を上げる。
花を供えた木の陰からタクヤが顔を出している。

タクヤ「アイちゃん」
アイ「……タッくん」
タクヤ「アイちゃん」
アイ「うん……」

アイ、涙を流す。

タクヤ「アイちゃん、さびしいよ」
アイ「私もだよ」
タクヤ「アイちゃん、一緒になろうよ」
アイ「一緒にって……」

タクヤ、上を見る。
アイもつられて木を見上げる。
木の枝には首吊り用の縄がさがっている。

アイ「…………(どんどん虚ろに)」
タクヤ「アイちゃん、一緒になろうよ」
アイ「(幸せそうに)……うん」

アイ、壇の様な岩によじ登って木に下がる縄を掴む。
木と岩の隙間にいるタクヤを見下ろす。
タクヤは優しく微笑んでいる。

アイ「今行くからね」

と、首に縄をかけて足場の岩から降りようとする。

タクヤの声「アイちゃん」

タクヤの声が真横から聞こえる。
アイの隣にはタクヤの首吊り死体がぶら下がっている。

アイ「!?」

アイ、思わず首にかけていた縄を外して岩の上で尻餅をつく。

アイ「(上を見て)タッくん!!」

首吊り死体のタクヤはもういない。

タクヤ(OFF)「アイちゃん」
アイ「(ハッと正面を見る)」

岩と木の隙間にいる方のタクヤがアイを見ている。

タクヤ「アイちゃん、一緒になろうよ」
アイ「……違う。タッくんは『元気でね』って……」
タクヤ「…………」
アイ「アンタ誰なの!?」

タクヤ、ゆっくりと岩を登ってアイに近づく。
アイ、上着のポケットから痴漢撃退スプレーを取り出し、タクヤの顔に吹きかける。
スプレーを吹きかけられたタクヤの顔、溶けて真っ黒になる。

アイ「!!」

怯えたアイは逃げようとするが、今いる岩以外の周囲が真っ暗闇になっていて身動きが取れない。

タクヤ?「アイちゃん」

タクヤ?が近づいてくる。

タクヤ?「アイちゃん」

タクヤ?、アイに黒い手を伸ばす。

アイ「来ないで! やめて、来ないで!!」

黒い手、ピタリと固まる。

アイ「?」

遠くから「ウー」という音が聞こえる。サイレンの音。
音と共に見える小さな光。

アイ「何あれ……」

どんどんサイレンの音が大きくなり、光も強くなる。音と光が暗闇を侵食するように近づいてくる。

タクヤ?「アイちゃん」
アイ「!」
タクヤ?「アイちゃん……」

身動きができずに固まっているタクヤ?、白い光に浸食されて霧散する。
アイ、大きな音と眩しさに目を閉じて耳を塞ぐ。
全てが真っ白に包まれる。
しばらくして、徐々に光が弱まっていく。
アイ、おそるおそる目を開ける。
周囲は朝の山林に戻っており、アイがいる岩の前にはスカジャンが立っている。黒マスクをつけておらず、ほのかに体が光を帯びている。
スカジャン、アイに手を差し伸べる。

スカジャン「すみません。僕では彼らをおびき寄せられなかったんです。だからあなたの後をつけました」

と、話す頃にはスカジャンの体の光も消えている。
唖然とするアイ。
日の出を迎えた空は明るくなっている。

〇山小屋・外観(朝)

〇同・食堂(朝)
コーヒーを飲むアイ。

小屋番「戻ってきて正解だよ。お姉さん、危なそうだったから」

小屋番、少し離れた席からアイを見ている。

小屋番「山はね、心も体も健康じゃないと危ないんだよ。持ってかれちゃうからね」

〇同・外観(朝)
外に出るアイ。
テラス席にスカジャンがいる。
スカジャンに近寄るアイ。

スカジャン「落ち着きましたか?」
アイ「はい。あの、アレは……何だったんでしょう」
スカジャン「詳細を知らない方がいいですよ。戻れなくなりますから」
アイ「……あなたの名前は聞いても大丈夫ですか?」
スカジャン「サイレンです」

一瞬驚くも、何かを悟ったように頷くアイ。

アイ「私はアイです」
スカジャン「では、アイさん。僕は美味しいネタをいただけたので、そろそろ山を下ります」

と、席を立つスカジャン。ペットボトルをポケットに突っ込む。

アイ「山頂へは行かないんですか?」
スカジャン「ええ、山を舐めた格好で来てしまったものですから」
アイ「それは本当にそうだと思います」
スカジャン「アイさん」
アイ「はい?」
スカジャン「(去り際に)どうかお元気で」

アイ、その言葉を受け止めて

アイ「はい」

と、微笑む。

おわり





キャラクタービジュアル


今作は思い付きでパッと書いた何用でもないシナリオなため、特にデザイナーさんに描いていただくことを想定しておりません。なので、なんとなく自分でキャラクターのビジュアルイメージを描いてみました。
シナリオを読むにあたって参考にしたいという方は、よろしければご覧ください。ただし下書きポンチ絵ですので、心とお財布にゆとりのある方推奨です。

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読んでくださってありがとうございます。 これからも作品を公開できるよう頑張ります!