「コレクティブ 国家の嘘」と「はりぼて」をやっと見ましたよ
『コレクティブ 国家の嘘』(2019年、アレクサンダー・ナナウ監督作品)Amazonプライムビデオで。
ルーマニアのナイトクラブ「コレクティブ」でバンドのライブ中に火災が発生し27人死亡180人が負傷するという惨事が起こってしまう。不幸な事故。しかしそれを発端として、生き延びて病院に運ばれた人たち37人までも次々に亡くなっていき、遺族も疑念を持ち始める。医療機関は「欧州基準で最高峰の適切な医療を施した」というのだが…。
地元のスポーツ(タブロイド)紙がこれを追うのだけど、そこには基準値より薄められた消毒液を納品する製薬会社、それを黙認する医療機関やお墨付きを与える国。賄賂や口利きなど長きにわたる癒着と利権の構造。事件をきっかけに医療従事者からの告発があり、そんな医療体制の末に患者によっては患部に虫が湧いてしまったりなど不適切な医療行為で感染症で次々に亡くなったということがわかってくる。ひえー。
ちょうど同じアマプラで「はりぼて」(五百旗頭幸男, 砂沢智史監督)を見たばかり。富山市議会の不正をローカルテレビ局が地道に追ってその詳細を報じたことで、結果的に刑事事件などにも発展していき10数名のドミノ辞任に誘発していったというドキュメンタリー映画。
「はりぼて」はところどころクスっとさせられたり、序盤はとくにコミカルなテイストで進んでいくなかで中盤以降とくにラストはどうにも笑えない現実と向き合わされるのだけど、これもフィクションじゃなくドキュメンタリーだということを強く思い知らされる。
「コレクティブ」政治と業界と大手グループとの利権構造そしてそれを守ろうとする人たち、報道することを良しとしない勢力、たとえばそこに関わるマフィアの噂まで出てくる。ジャーナリズムへのあからさまな挑戦、口を閉ざそうとする脅迫。
新しく就任したリベラル派でアクティビストの保健省の大臣もその波に飲み込まれる。現場との対話を図りながら改革をしようとするのだけど、テレビ番組などのネガティブキャンペーンで「妨害」を受けることになる。無力感、あまりの腐敗に「この国は30年は目覚めないだろう、希望のかけらもない」と失笑するのが虚しさを助長する場面だ(一方でそれでもそこが視聴者にとっては数少ない希望の場面でもある)。
「はりぼて」のチューリップテレビや「コレクティブ」のガゼッタ紙のように、大手じゃないメディアがそのジャーナリズムを発揮することで、慣例のように行われてきた不正・腐敗の構造を可視化することは大変な成果だったと思うんだけど、あとはそれを見た国民・視聴者がどこまでそれを正すべき改善すべきと思えるかなんだろうなあ…、ということを思ったけど、そもそも日本においては、その前段階でのジャーナリズムの部分がここ数年かなりヤバめなことになってるのでルーマニアどころじゃなくマジで本当に地獄だよねーという感想しか持てないのが悲しい。忖度抜きで報じてるメディアはほとんどないだろうしねえ。
「はりぼて」「コレクティブ」のラスト。それぞれ詳細な説明はされていないのだけど、それぞれに「嗚呼…」と溜息が漏れてしまう。どちらも救いのないというか胸がギュっとなる終わり方なのが本当にねぇ。これは間違いなく暮らしと密接なものだよなあ。私たちはいま現在こういう社会に生きてるんだなということを否応なしに見せつけられるドキュメンタリー映画でした。
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