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シグネチャーカクテル ー 思い出のあるカクテルや強いこだわりをもつカクテル
若い頃からホテルのバー通い。
カクテルもよく飲んだ。
その中で思い出のあるカクテル、というと、
● ジン・フィズ
1979年2月22日(木)
絵美の椅子を引いて座らせ、ぼくも向かい側に座った。「さて、何を食べようか?」とぼくはメニューを見た。絵美もメニューを開いて、「このコースの料理長推薦料理にしよううかしら?」「じゃあ、ぼくは同じものだと面白くないから季節のディナーにしよう。おいしそうだったらシェアすればいい」「それがいいわね」「飲み物は?」「私のメインはビーフなのね。じゃあ、赤ワインをいただこうかしら?」「ぼくは・・・ジンフィズをもらおう」「あ!ずるい!私もそっちにする!」「ワインをよして?」「ジンフィズ、おいしそうじゃない?」「ぼくのはシロップをいれないんだよ」「私もそれをいただくわ。甘いのダメなの」「了解。じゃあ、注文しよう」
1977年
彼女は、飲み会で甘いお酒を飲んでいたはずだな。梅酒とかも飲んでいた。ワインクーラーとかも。う~ん、ジン・フィズにしようか?ボーイさんに「ジン・フィズを彼女に」と言うと、「ジンはどの銘柄ですか?」と聞くので「タンカレーありますか?」と聞いた。「ございますよ」と言うので、「じゃあ、タンカレーベースでジン・フィズ。僕には、マティーニをダブルでオンザ・ロックにして。ドライで。料理とおつまみはメニューを見て後から頼みます」と。
「ねえ、フランク、ジン・フィズって?」
「ジンにシロップ、レモンジュースを加えて、ソーダで割ったお酒だよ」
「じゃあ、タンカレーって何?」
「イギリスのジンの銘柄の一つ。味はドライなんだ」
「マティーニって?」
「ジェームズ・ボンドの好きなお酒。ジンにベルモット、ビタースを加えて、オリーブをあしらう。本当はカクテル・グラスなんだけど、面倒なので、ジンをダブルにして、ウィスキーグラスでオンザロックにしてもらったんだ」
「無機化学の実験みたいね?」
「まさにそうだね。真理子は面白いことを言うね」
● ピンクジン
A piece of rum raisin 第12章 新橋第一ホテル(3)
アマネさんとフロアを見てよそ見していた私に、急に「ピンクジンを頂戴、タンカリー、ダブルで」とカウンターから注文が来た。いつの間にきたのか、チェアを引く音が聞こえなかった。「いらっしゃいませ。ピンクジン、タンカリーベースでダブルですね」と私はカウンターに目を戻して復唱した。待ち人が来た。私にとっては彼女と会うのは8年ぶりである。それもむこうで39才の彼女と会ったのが最後だった。
ミキシンググラスにロックアイスを入れ、タンカリーのダブルを注ぐ。ちゃんとメジャーグラスで計って注いでから、ちょっとハーフをグラスから足し増す。このおまけが客には重要だ。売り上げが上がる。
中指と薬指を折り、親指と人差し指、小指でミキシングスプーンを支えて、軽くステアする。アンゴスチュラ・ビターズを数滴。ミントの葉を2枚。ピンクジンの出来上がり。彼女の前にコースターをだし、グラスをそっとおく。我ながら流れるような作業だ。
「おいしいわ」と彼女。私もつられてニコッと笑う。
A piece of rum raisin 第15章 新橋第一ホテル(5)
時間は11時半になっていた。だいぶ客が引いてくる。終電も間近だ。フロアの方はどうかな?と私は右手のテーブルフロアの方を見ていた。
急に「ピンクジンをいただける?タンカリー、ダブルで」とカウンターから注文が来た。いつの間にきたのか、チェアを引く音が聞こえなかった。「いらっしゃいませ。ピンクジン、タンカリーダブルですね」と復唱してカウンターの方を向いた。彼女がいた。
「久しぶりね?」と、彼女が微笑む。
「昨年のクリスマスイブ以来でしょうか?」と私は何食わぬ顔で言った。
「あら、覚えていてくれたのね?」と、彼女がニヤリとする。
「あのときも、ピンクジンをご注文なされましたね?」
「クリュッグもルームサービスでとったわ」
「ああ、そうでしたね」
「このホテルのルームサービスは気が利いているわ。私、気に入ったのよ」と、彼女はチェシャ猫のようにニタニタ笑った。
「お気に入り下さってありがとうございます」と私は答えた。
洋子だ。今日、彼女はラフな格好をしている。ブルーのボタンダウンのシャツ、ジーンズ、チルデンセーターを背中で羽織って、首の下で軽く結んでいる。
● マンハッタン
フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス ー 雅子(Ⅰ)
「カクテルの材料が揃ってるの?」
「ええ、シンクの上の棚にお酒が入っているわ」
「もしよかったら、僕がカクテル作ってあげようか?」
「フランク、カクテルできるの?」
「たいがいは。雅子はどういうカクテルがお好み?甘いの?辛いの?強いの?弱いの?ジュースみたいなの?どれでもご要望にお答えするよ。なんのお酒があるかによるけど」
「自信ありそうね?」
「プロじゃないけどね」
「じゃあねえ、パパがよく作ってくれるのがマンハッタンなの」
「ふ~ん、バーボンとベルモット、ビタースはあるってことだね?」
「マンハッタンをオンザロックで飲みたいわ」
「お安い御用で。シンクの棚、開けていいよね?」
「どうぞ」
フランクは、棚からメーカーズマークとチンザノ、アンゴスチュラビターズの瓶を取った。私は、冷凍庫から氷を取り出し、ミキシンググラスとバースプーンをフランクに渡した。大ぶりのウィスキーグラス二個に氷をたっぷり入れた。彼は手慣れた手付きで、バーボンをドボッと入れて、ベルモットは少なめ、ビターズを八滴ミキシンググラスに入れてステアした。「ストレーナーは?」と私が聞くと、「別にジュースは使っていないからね」とミキシンググラスを傾けて、バースプーンで氷を止めながら、グラスに注いだ。「ベルモット少なめだから、ほぼウィスキーのオンザロックだけどね」と言いながら私にグラスを渡した。「また、乾杯、雅子」「乾杯、フランク。でも、おつまみないね?何か作ろうか?」
フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス、薫(Ⅰ)
「変なヤツ」と彼女が言った。
「誰が?」
「フランクが。。。」
「なんで?」
「ふつう、女の子に酒を奢ったら、アリクイみたいに『横の席に座ってもいいですか?』なんてきくけど、フランクは動かないわよ」
「だって、面倒くさいじゃないか?」
「わけ、わかんない。。。」
ま、そういうわけで、何かわけありの安西カオルと飲む羽目になった。ピートがニタニタしてグラスを磨いている。
カオルは関内の企業に勤めるOL。男性関係が錯綜していて、悩んでいるとか言っている。「ピート、お代わりだよ、お代わり。僕には17年、彼女は。。。ああ、マンハッタンね」「ラジャー!」
【シグネチャーカクテル】
映画を観たら、バーの扉を開いてみよう!
渋谷・恵比寿の人気 BAR で楽しむ
フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス、目次 Rev. 3
フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス
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