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第二章十二話 高校三年順子、証拠

終わった!終わりだ!疲れた!

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性同一性障害と勘違いして悩む
義理の妹に悩むぼくの物語
第二章十二話 高校三年順子、証拠

 智子と女子大生が打たれたS(スピード、覚醒剤)の主要成分はメタンフェタミンである。お菓子のグミや栄養剤として与えず、注射器を使って首筋に打たれた。なぜ針の跡が残る注射器を使ったのか、動機は不明だ。既に紗栄子から通報をされたと思って、殺害を念頭にてっとり早く殺そうと考えたのかもしれない。康夫の証言によると四本打ったらしい。

 四本打たれたので、智子と女子大生は覚醒剤急性中毒となった。病院のICUで、体内で中毒を引き起こしている覚醒剤の成分を体外に排出させるために、胃洗浄をまず行った。下剤、利尿剤も併用する。強制的にその成分の排出を促そうとした。また、時間が経っている。康夫たちに打たれてから、病院に搬送されるまで一時間。覚醒剤の成分が患者の血液中に吸収されてしまっている。それで、血液浄化装置を利用した。
 
 覚醒剤の致死量は0.5グラムから1g程度。智子が常用していた栄養剤二十本分に当たる。康夫たちは注射器一本を栄養剤四本に仕込んだので、ほぼ智子と女子大生は致死量近くを打たれたようだ。智子と女子大生が楓たちに発見され、救急隊員が到着したときには、彼女らの瞳孔は開きっぱなしになっており、失禁してよだれを垂れ流していた。既に、中枢神経、循環器系に影響がでていた。

 しかし、比較的発見が早かったこと、血液浄化装置を利用したこと、タケシたちの献血もあって、血液を交換したことなどで、どうにか一命をとりとめた。

 紗栄子の場合は、三人組による暴行での内臓破裂だった。腹部、両足と左膝部に擦過傷。一時バイタルサインが安定していた。意識もあった。しかし、医師はWBC(白血球)の異常高値から組織挫滅の可能性、GOT、GPT、LDHの異常から肝損傷、筋挫滅を疑った。医師は緊急開腹手術を決断。なんとか、手術は成功した。
 
 タケシたちは病院のICUから分銅屋に戻ってきた。タケシと美久、楓、節子と佳子。自衛隊組。分銅屋の女将さん。「なんとか助かったが、まだ余談を許さないし、康夫たちと順子の証言もあるものなあ」とタケシはポツリと言った。美久が「これから、どうなっちゃうの」と言う。
 
 羽生二佐が「う~ん、やつらは20才未満だが、これはたぶん殺人未遂と扱われる。殺人にもいろいろあるんだ。故意というのは『犯罪を行う意思を持ってした』殺人、確定的殺意というのは『殺そうと思って、殺した』という殺人、未必の殺意とは『必ず殺してやろうと思ったわけではないが、死んでしまうならそれも仕方がないと思って、殺した』という殺人、認識ある過失とは『死んでもかまわないと思ったわけではないけれども、危険を知りながら殺した』という殺人。検事がどう判断するか、だな。ヤツラの弁護士は『認識ある過失』を主張するだろうけどな」と言う。

 楓が「羽生さん、よくご存知ですね」と言うと南禅が「羽生くんは一時期自衛隊の法務官の補佐をしていたことがあるのよ。法務を掌る自衛官。法曹資格はないんだけど、自衛官の犯罪などで担当していたから知っているのよ。自衛官の採用年齢の下限は18才以上だから、ときたまこういうケースと似たケースが発生するのよ」と言った。
 
 羽生が続けて「今回は成人と同じく逮捕されたね。それで、逮捕から48時間以内に警察官から取り調べを受け、検察庁へ送致される。その後24時間以内に検察官から取り調べを受ける。今、この段階だな」
 
 羽生の說明では、検察官は引き続き少年の身柄を拘束して捜査する必要があると判断すると、裁判官へ勾留を請求する。裁判官が勾留を認めると、原則10日間、身柄を拘束される。未成年は勾留に代わる観護措置がとられる場合がありる。ただ、状況が状況だから、観護措置はとられないだろうと。
 
 もしも、殺人未遂事件で観護措置が決定した場合、少年鑑別所に送致されるケースが多い。検察官は少年をどのような処分にするべきかの意見書をつけて、事件を家庭裁判所へ送致、家庭裁判所は審判を開始するかどうかを判断する。
 
 家庭裁判所が刑事処分にするべきと判断した場合は、検察庁へ送り返される。これを送致の逆の『逆送』という。殺人事件を起こした未成年は逆送される可能性が高いんだ。
 
 故意に被害者を殺人未遂させたと判断された16歳以上の未成年は、原則として逆送されることが法律で定められている。検察庁に逆送された未成年は、原則として起訴される。起訴されると、未成年も成人と同じ公開の法廷で刑事裁判を受ける。
 
 裁判で有罪が確定して実刑となった場合、16歳以上の者は少年刑務所へ、16歳未満の者は16歳になるまで少年院で刑の執行を受ける。その後、仮釈放となれば保護観察所で社会復帰のための指導・支援がおこなわれる。

 美久が心配そうに「羽生さん、後藤順子はどうなってしまうのですか?」と羽生に訊く。「実際、手を下しちゃいないし、本人は刑事に康夫たちを止めようとしたと言っているんだろう?紗栄子は意識不明で証言できないけど、紗栄子の動画に残っていた紗栄子との会話証拠もある」

「でも、康夫たちは、順子が囃し立てて覚醒剤を打たして暴行を促した、と証言している。いい加減なヤツラだ。肝心の紗栄子の意識は戻っていないし。康夫の証言が認められれば、順子は殺人未遂の幇助に当たる。これは幇助犯と呼ばれるが、幇助の意思と因果関係が重要なんだな。順子の主張が認められず、康夫たちの主張が認められた場合、順子は量刑の多寡にもよるけど、最初は少年鑑別所に送致されて、少年院送りになるか、運が悪けりゃ、少年刑務所送りだな。康夫たちは、少年刑務所送りだろう。順子は、少年院送りで済めばめっけもんだよ」
 
 美久が必死で言う。「羽生さん、順子はそんな悪い子じゃない。康夫たちがウソを言っているに決まってます。順子は康夫たちを止めようとしたに決まってます。私は順子をよく知ってるんです。根はいい子なんです」と言う。羽生は「それが刑事を納得させて、検察に回った時どうなるか?状況証拠と証言だけで、あの事務所の中で起こった映像や音声証拠があるわけでもないからなあ。両者の証言のどちらかが採用されるかだよ。それに順子は、売春斡旋、薬物所持なんかがあるからなあ」と言う。

 美久はしょんぼりとうなだれた。節子が「ネエさん、こっちは紗栄子と智子を殺されかけたんですぜ!元はと言えば順子が起こしたことなんだ」と言う。佳子もうんうんうなずく。しかし、美久は「わかってるよ。だけど、節子だって、佳子だって、順子が殺しの行為をほっとくほど悪い子じゃないのは知っているだろう?私は順子を信じたい!」と言った。

 分銅屋に戻って、彼らの会話を聞きながらノーパソをいじっていた楓が「お兄、美久お姉さま、なんとかなるかもしれない、羽生さん、事務所の中で起こったことの音声証拠があればいいんでしょ?」とノーパソを見ながら叫んだ。「なんだ、どう、なんとかなるんだ?」とタケシが楓に聞いた。
 
「それほどまでに、美久さんが順子を信じて、紗栄子さんと智子さんを殺しかけた過剰暴力と過剰摂取に加担していない、あれは康夫たちが勝手にやった、順子は止めていたということが事実だったら、その場面の音声データがあればいいのよね?」と楓が言う。

「そんなものあるわけないだろう?カメラとかマイクとかあの場面でぼくらがデータ入手できるデバイスはないだろ?」とタケシが言うと「あのね、私、みんなに渡したリアルタイムトラッカーのインダラな中国製の回路図を読んだのよ。そうしたら、使われていない振動子が基板上にあって、それがマイクの役割をすることに気づいたの。でも、アプリは振動子のデータを拾っていない」

「だから、アプリのAPIをハックして、振動子のデータも拾うようにアプリを改変したの。データをアップするクラウドに対して、バックドアを仕掛けて、振動子のデータも拾えるようにしたのよ。みんなに教えてなかったけれど、改変したアプリをみんなのアイフォンに仕掛けたの。だって、音声まで拾えたらみんな怯えるでしょう?だから、内緒。もしもの時の保険でね。もちろん、私は聞いていません!」

「クラウドのデータは一定期間で消えちゃうけど、このパソコンに圧縮データを生のパケットデータでDLするように設定しておいたの。今、DLした。それを結合、解凍して、復元すれば、音声データのレゾリューションはどうだかわかんないけど、音声が振動子で拾えていたら、順子が無実か有罪かハッキリするわ。お兄、警官か刑事を呼んできて。警官か刑事の前でその作業をします。警官か刑事が証人よ。クッソォ、康夫ちゃん、このカエデちゃんが地獄送りにしてやるわ!」

 美久が心配そうに楓のパソコンをのぞき込んで言う「楓さん、そんなことができるの?」「美久お姉さま、まっかせなさい!カエデ、この分野で天才よ!」
 
「楓さん、お願い、順子を殺人幇助にさせないで!」「それは、美久お姉さま、音声データを見てみないとわかんないけど、順子が美久お姉さまの言うような人間なら、音声データが証明してくれるわ!」

「よし、警官か刑事を探してここに連れてくるぞ、カエデ!」「それまで、このパソコンは触らないからね。早くしてね!お兄!たぶん微弱な音声データでしょうから、増幅作業して、エンコードして、フィルタリングかけないといけないしね。もしかしたら、科捜研にデータ提出の必要があるかもね」

(あれ?このノーパソ、証拠品で没収されちゃうかも?・・・やばい!パックンとかゴックンの履歴、消さないと!)

 慌ててノーパソを操作し始めた楓に美久が「楓さん、慌ててなにしてるの?」と天真爛漫に聞いた。(この天然!あなたのパックンとゴックンで私人格疑われるじゃん!)「美久お姉さま、このパソコン、証拠品提出になるかもしれないでしょ?だから、わたしの関係ない検索履歴を消去してます」「え?なんの検索履歴?」「あなたの『パックン』と『ゴックン』に関する検索履歴!」美久は真っ赤になった。

 数日後、美久と楓、節子と佳子が鑑別所に行った。順子に面会するためだ。面会は原則として三親等以内の親族、学校の先生などに限られるのだが、順子の事件の当事者であること、楓が順子の音声データを見つけたことなどで、刑事から便宜をはかってもらったのだ。立会人として北千住の美久の知り合いの警察官がついた。特別なはからいだ。面会時間は十五分と定められていた。

 恭子、敏子、恵美子はそれほどの罪には問われていなかった。あの恭子を取り逃がしたのは痛かったが、仕方がない。彼女らはすぐ出所してくるだろう。警察もそれほどヒマじゃない。恭子、敏子、恵美子程度では警察も時間をとられたくない様子だ。売りをやらされていた少女たちもことを荒立てられたくないのだ。もちろん、順子の言っていたオジサマたちは逃げ延びる。これが世の中だ。
 
 彼女らが接見室で待っていると、紺色の鑑別所の制服を着た順子が連れてこられた。(うっほぉ~、映画にあるような接見室なのね)と楓は思った。順子が正面に座る。後ろに鑑別所職員が立った。「接見は15分だからね」と無表情に言う。美久が「順子!」と呼んだ。順子が無表情に美久を見た。
 
「これはこれは美久ネエさん、お久しぶりです。今日はなんすか?鑑別に入れられた私の見学?あれ?この前鉄パイプをわたしてくれたお嬢さんだ。美久ネエさんの彼氏の妹ってやつ?弁護士先生が説明してくれたよ。私が止めたって音声データを提出してくれたんだってね。まあ、お礼はいわなきゃね。ありがとよ」とボソッと言う。

 節子と佳子が順子を睨む。「この野郎、いけしゃあしゃあと。このくそったれ。智子をよくも・・・」と節子が言いかけるが、美久が止めた。「鑑別で乱暴な口をきくんじゃないよ、節子。おとなしくしな。順子、まあよかったと私は思ってる。私はおまえを信じていたからね」

「美久ネエさん、お涙頂戴ですか?止めてくれよ」
「なんでもいいな。おまえは、順子、聞く耳を持たないかもしれないけど、私はおまえを信じていたんだ。おまえはそんなに悪い子じゃなかった。昔はわたしら仲良かったじゃないか。私はずっとおまえを信じる、信じている。刑がどうなるかはわからない。でも、どうなってもちゃんとお勤めを果たして、出てくるんだ。そうして、私ともっとお話するんだ。これでおしまいじゃない。これからも人生は続くんだ、順子」

「ケッ、綺麗事を。まあ、私の身から出たサビだかんな」
「順子、思い出してよ。おまえが万引の犯人に仕立て上げられそうになった時だって、私はおまえを助けたよ。まあ、いいよ。恩になんかきせないよ。じゃあな・・・」こういって、美久は立ち上がる素振りを見せた。

 しばらく下を向いていた順子が「美久ネエさん・・・」と言った。「なんだい?」「あ、ありがとうございます、ありがとうございます・・・ゴメンナサイ」と言って泣き出した。節子も佳子も驚く。あの凶悪な順子が泣くのか?

 美久も涙目になって「泣くな、順子。また面会に来るよ。また来る。じゃあな、楓さん、節子、佳子、帰ろう。もっといると私泣いちゃうよ。警察のみなさん、ありがとうございました」とお辞儀した。振り返らずに接見室を出てしまう。楓と節子と佳子が後を追う。警官が鑑別所員に敬礼をして接見室を出た。順子が美久の後ろ姿に「美久ネエさん、また」と語りかけた。
 
 帰り道で節子がボソッ「ネエさんも人がいいや。順子も鑑別所の職員の心象をよくしたろうね。あの順子がそうそう泣くかい」と言うと、美久が「節子、おだまり。それならそうでいいじゃないか。わたしは相手がどうこうじゃない。自分の信じていることが正しいと思っているだけさ。順子も変わるよ。出てきたら、オマエラはどうでも、私は受け入れてやる」と言った。
 
(美久さん、こういう場面では人格変わって迫力あるじゃん?私の将来の義理のお姉さまは面白い人だこと)と楓は思った。


 紗栄子は、数日の間危なかったが、手術が成功して、持ち直した。回復してきて、ICUを出て一般病棟に移った。面会できる状態になった。早速、節子と佳子がやってきた。

 病室に着くとちょうど刑事が出てくるところだった。例のお巡りさんも一緒だ。「お巡りさん、事情聴取ですか?」と節子が聞くと、「節子と佳子か。おはよう。今日はね、あの順子のマンションを出てから彼女が暴行を受けるまでの間、何が起こったのか、兵藤楓さんの音声記憶もあるんだが、紗栄子から直接事情を聞いたんだ。これでハッキリしたよ。小川康夫と他の連中も相応の罪に問える」

「ふ~ん、後藤順子はどうなります?」と節子。
「なんとも言えないがね。他の罪状はあるが、今回の紗栄子と智子と女子大生の件に関しては、康夫たちを阻止しようとして紗栄子と一緒に尽力したのは明白になったよ。美久の妹分だったし、悪い子じゃないって思ってたがなあ。どこかで道を踏み外したんだろう。人間、運ってことだな。それにしても・・・」とお巡りさんは上から下まで節子と佳子をジロジロみて、「節子と佳子、和服とアメカジか?北千住じゃコスプレが流行っているのか?ヤンキーが和服とアメカジに化けて、世も末なのか、いいことなのか。やれやれ。まあ、キミらもご苦労さんでした」と敬礼をして行ってしまった。

「みんな、私らのこと、コスプレとか七五三とか言っちゃって、失礼しちゃうわ」と佳子が言った。
 
 病室に入ると、紗栄子が半身を起こしてお菓子を食っている。不二家 の贅沢グミ。節子が「おいおい、紗栄子、それ、覚醒剤入ってないよな?」と言うと「馬鹿言っちゃあいけない。病院の売店でクスリ入りのグミなんて売ってねえよ」という。
 
「元気そうじゃねえか?」と佳子が背中に当てた枕を直してやる。「もう、あちこち痛えや。歯もガタガタだよ。グミくらいしか食えねえよ。あんたらもご活躍だったみたいだな?お巡りに聞いたよ。八人に対して七人だって?」と紗栄子。「いや、八人だよ。順子が加勢したからな」と節子。「ああ、順子ネエさんが加勢してくれたのか。やっぱりな。順子ネエさんも昔に戻れればいいんだ」

「だけど、紗栄子、順子は、智子や他の女の子に恭子を使って、クスリでおとして、売りやらせてたんだぜ」と佳子。
「ああ、それはそうだ。だがね、同情の余地もあるよ。美久ネエさんのキラキラで頭がぶっ飛んじまったんだな。私らと真反対の方向にぶっ飛んじまったんだよ」と紗栄子。
「なんだい?キラキラとか、ぶっ飛ぶとか?」と節子が聞くと、紗栄子は順子を探してからのことを一部始終、節子と佳子に説明しだした。


 しばらく経ったある日の土曜日。タケシと美久は東京メトロに乗っていた。タケシの神泉の家に向かっている。またまた、ドアの横で美久がタケシの服の袖を引っ張っている。

「タケシさん、私の格好、大丈夫かなあ?この格好でいい?」
「もちろん、大丈夫だよ。フォーマルすぎず、カジュアルすぎず」
「タケシさんのご両親は私のことどう思うかな。元ヤンだとか、印象悪いよね?」
「カエデがうまく説明してくれてるさ。心配しないで、美久」
「心配だよう。彼氏さんの実家に挨拶なんて、生まれて初めてだもん。ドキドキしてきた」
「え、どれどれ?」とぼくは美久の胸を触る。
「タ、タケシさん、最近、遠慮なくなってきてない?」
「カエデと美久の約束はあるけど、ぼくが美久にこれしちゃだめだ、と約束したことはありません。彼氏が彼女の胸を触ってなにが悪い?」
「いや、そのね、電車の中だよ」
「あれ?美久さん?電車の中じゃなかったらいいんですか?」
「そういう話じゃない!」と腕をバンバンぶたれる。

 神泉の家。ドアフォンを鳴らす。玄関には楓と両親が迎えに出てきた。「美久さん、いらっしゃいませ」と楓の母が言う。「まま、入って入って。美久さん、上がって下さい」とタケシの父が言う。五人でリビングのソファーに座った。正面にはタケシの父と母。対面で美久を真ん中にタケシと楓。

 美久がおどおどとタケシの両親にお辞儀をする。「田中美久と申します。タケシさんとお付き合いをさせていただいています。よろしくお願いいたします」両親も「こちらこそ、よろしく」と言う。

 楓が美久の肩を抱えて「じゃあ、私も紹介するね。こちらは田中美久さん。パパ、ママ、私の将来の義理のお姉さまになる人だよ」と言った。「カ、カエデ、当事者の兄を差し置いて。お父さん、お母さん、ぼくは美久さんと結婚を前提にお付き合いしたと思います。お許しをお願いいたします」とタケシは言った。

 タケシの父が「去年、再婚したと思ったら、もう、新しい家族ができる。こんなうれしいことはありません。美久さん、こちらこそよろしく」と言った。美久はもう涙目。
 
「お姉さま、すぐ泣くんだから。これで、元ヤンの元総長だからねぇ~」と楓。
「か、楓さん、その話は・・・」と美久が言うと、タケシの母が「楓から聞いていますよ、美久さん。この家の将来のお嫁さんは、元ヤンの元総長で、お茶の水女子大の理学部在学で、楓の先輩になるかもしれないのね。面白いわ。人間の肩書なんて関係ないもの。タケシくんはどうでも、この気難しい楓が『お姉さま』なんて呼ぶ人なんだから、大丈夫。美久さん、もう、籍入れちゃって、うちにくれば?」とぼくと美久がのけぞるようなことを言う。

「お母さん、気が早い!」とタケシ。「ママ、それは止めて!今、この二人にこの家でベタベタされたら、私は欲求不満で死んじゃうよ。お兄が私の相手を見つけてくれて、決まったら、そうして!」

「お父様、お母様、楓さん、ありがとうございます」と美久はハンカチを取り出しておんおん泣いている。楓は美久の肩を抱きしめている。

 タケシの父が「こりゃあ、お祝いしないとな。寿司でも取ろう。鰻でもいいかな?そうそう、バランタインの30年、開けちゃおう!」と言った。

 美久とタケシが声を揃えて「バランタインの30年はおやめ下さい!」と言った。

 小さな声で楓が「じゃあ、『神泉いちのや』の上うな重、夜露死苦。追加で肝焼きと骨せんべいも」と言った。


 
(了)
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・

って、終わっちゃうの?え?終わっちゃうの?楓、出たりないんですけど?出番少ないじゃん?スピン・オフか何かで書いてよ。私が主人公の話を!



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フランク・ロイド
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