第一章 奈々(絵美)と明彦、第四話 デート
バスルームで奈々さん、せつなそうにしたので、バスタブの中で、シャワーの方の壁に手をつけて、後ろからやられてしまった・・・ハイ、交代。
その頃、第一ユニバースではいたずら好きのメグミさんが悪巧みを。
――――――――――――――――――――――――――――
第二ユニバース
第一章 奈々(絵美)と明彦
第四話 デート
1986年10月11日(土)
ホテルから国鉄の高架橋の下をくぐって、銀座八丁目に出た。ナナが、いや、絵美が腕を組んですがりついてくる。胸をぼくの腕にこすりつけてくる。「絵美、キミらしくないぞ。なんでそんなにベタァ~とするの?」
「あら?奈々がね、こうすると男は喜ぶって。どう?うれしい?私よりも胸が大きいでしょ?ポヨンポヨンして気持ちいいでしょ?」
「口調を聞いていると絵美だし、でも、絵美よりもちょっと背は低くて、グラマーでハスキーボイスの巻毛だし。調子狂うなあ」
「私も慣れていないのよ。親友と言っても、女性同士の話であって、その女性がどう男性に対応するのか、なんて知ることはないのよね。当人が話さない限り。ふ~ん、体の特性で人格の一部が形成されることもあるのかもしれないわ。あら?やだ、この体!」
「どうしたの?」
「明彦に触っているだけで、ジンジンしてきて、明彦が欲しくなってくるわ。どうなってるの?明彦、もうこの体、濡れてるわ」
「ナナの体って、そんなに敏感なの?」
「そうみたい。これじゃあ、淡白ってわけにもいかないわね。え?人の体の秘密をアキヒコに言うなって?うん、内緒にしておいてあげる。だけど、エッチな体だこと。生理前はムラムラするですって?奈々、あなた獣ね?え、アキヒコに耳たぶを触ってもらえって?ねえ、明彦、耳たぶを触ってくれない?ちょっと捻ってみて、だって」
「こうかな?」
「イヤン・・・」
「え?」
「全身に電流が走ったみたい。これはいけないぞ」
「キミ、というか、絵美、『イヤン』なんてキミから一回も聞いたことがないぞ」
「それは私の体の話であって、この体は違うのよ。ああ、ビックリした。感じちゃったわ。え?私も感じたって?早く、部屋に戻りましょう、だって?ダメよ。少し、この状態に関して、通訳抜きで明彦に話しがあるんですから」
「体は二つなのに、複雑な三角関係に陥っているような気がする」
「気がする、じゃなくて、事実、そうなっているのよ、私たち」
銀座五丁目を過ぎて、右に曲がってみゆき通りに行った。有名店じゃなくていいから、お寿司が食べたい、と絵美が言う。ニューヨークでおいしい寿司屋なんてないのよ、ということだった。裏通りで、ちょっと汚い店があった。ここでいい、と絵美が言う。土曜の昼少し前だったので、店は空いていた。ランチメニューは、にぎり、上にぎり、海鮮丼、上海鮮丼。
「あ!決めた!上海鮮丼と上にぎり!」
「キミ、そんなに食べたっけ?」
「この体は、お腹がすぐ空くみたい。バクバク食べられそうよ」
「なるほどなあ、体が違うと、行動タイプも違ってくるんだね」
絵美は、上海鮮丼と上にぎりをペロッと平らげ、ビールも二人で大瓶三本を飲んでしまう。いつもお酒はチビチビ飲んだ絵美なのに、豪快にビールを飲んでしまう。「すごいね、絵美。キミじゃないみたいだ・・・いや、体はもちろんキミじゃないけど」
「そうよね。チビチビ飲むな、とか言ってるし。こちらは体を借りているから、彼女の意志を尊重しているのよ」
寿司屋を出て、珈琲店に入った。「さて、まずね、明彦に聞いてみたいことは、私が死んじゃった後、何があったか?ということ。私のこの記憶は死亡する1985年12月6日以前の、たぶん12月4日までの記憶だから、死ぬ瞬間はもちろん、その後なにがあったのか、知らないのよ」
ぼくは、絵美のママから連絡があってから、モンペリエの洋子に助けをお願いしたこと、ノーマンとドクター・マーガレットの話、絵美の作成したファイルVolume 06、08、11を見つけたこと、Volume 06には、マンソン・ファミリーとシャロン・テート殺害事件の資料がファイリングされており、Volume 08にはジョン・ヒンクリー、ブッシュファミリーとCIA、FBI、ピンカートン社の資料があり、Volume 11には、FBIのNCAVC(国立暴力犯罪分析センター)と凶暴犯逮捕プログラム、プロファイリングの技術資料があったこと、ノーマンのなぜ絵美が殺害されたのかの推理、それから、FBIからの捜査妨害、という話を全部した。正直に洋子と寝たことも話した。洋子が『私もね、妹を亡くしたみたいな心境だわ』という話も。
「まあ、しょうがないか。もしも、洋子が同じ目にあったら私も同じことをしたでしょうね。洋子は悪い人じゃない。ただ、好きになった相手が私と同じだった、ということ。それは許そう」
「言い逃れはしないよ」
「いいわよ、気にしないわ。だって、その時は私は既に死んじゃっているんだから。それよりも、ジョン・ヒンクリー、ブッシュファミリーとピンカートン社なのよね。ひっかかるのは。レーガン暗殺未遂でジョン・ヒンクリーが精神異常が理由で無罪となったことと、ジョージ・ブッシュが元CIA長官で、当時は副大統領だったこと、ジョン・ヒンクリーとブッシュファミリーの関係が引っかかったのよ。だから、FBIも宿敵CIAが噛んでいそうだから、ジョン・ヒンクリーとブッシュファミリーの関係を洗っていたのよ。ファイリングはしていなかったけど、ブッシュの背後に新世界秩序という組織があることまでわかった。それをFBIに報告して、その後、バンってなったのね」と絵美は、ピストルで自分の頭を打つ真似をした。
「じゃあ、やっぱり、ノーマンの言うように、キミはFBIのアシスタントかなにかをしていたってこと?」
「うん、下っ端の下っ端だけど、大学院の論文もあったので、独自捜査を少々していたってわけ」
「じゃあ、キミが殺害されたのも、ブッシュやその新世界秩序という組織?と関連があるのか?」
「それはわからないんだけどね。本当なら、ニューヨークに戻って、調査したいのはやまやま。でも、この体じゃあねえ・・・え?奈々もニューヨークに行ってみたいって?観光じゃないんですからね。まったく」
「まあ、今のこの状況では動きようがないよ」
「そうね。この問題はホールドしておきましょう。ところで、明彦、買い物付き合ってくれない?」
「何を買うの?」
「下着よ。特に、パンティー。もう、この体、パンティーをグショグショにしているの。それから、奈々の好みのパンティーって、少し小さいみたい。私のお尻にピッタリ張り付いて、実はね、あそこに食い込んでいるのよ。それで、よけいに感じちゃうの。だから、もっとゆるいショーツみたいなのが欲しいのよ」
「絵美、すごい話をしているよ」
「人の体だから、平気で話せるみたい。え?よけいなことを言うな!ですって?奈々が抗議しているわ。まあ、とにかく、ランジェリーショップに行きましょう。奈々のお金を使っては悪いから、明彦、買ってね」
「了解だよ。しかし、なんて体だ」
「だから、男は誰もが奈々を欲しがるのね?え?安売りはしてません!だって。でもね、可哀想ね。私がいる限り、もう明彦以外相手させませんからね。え?それでも良いって?もう諦めましたって。奈々、なかなか可愛いところあるじゃない?明彦も諦めなさい。もう奈々と結婚するしかないわね。ついでに、私とも結婚できるから・・・」
「三角関係と一夫多妻制を押し付けられている気分だよ」
「だって、そのまま、その通りじゃない?」
――――――――――――――――――――――――――――
第一ユニバース
第一ユニバースの森絵美が「研一、もう直接私の脳から必要データを転送しましょう。それで、向こうの個体と絵美の記憶を三年間くらい吸い上げましょうよ」と絵美は記憶転移装置に自分から入って、横になってしまった。
「絵美、大丈夫かい?」
「第三から第一に一回やっているでしょう?それにあれは全記憶データ転送だったけど、今回は部分記憶転送と吸い上げなんだから、リスクは少ないわよ。設定して」
「記憶域があちこち飛んでいるけど、前のデータが残っているから、補足データだけ脳から取り出すよ。向こうの記憶はざっくりと三年だな。データの上限を設けておけば過剰な転送にはならないだろう」
二十分経って、準備ができた。「絵美、準備完了。やっていいかい?」「問題なしよ。始めて」
記憶転移装置は、チェレンコフ光のような青白い輝きを帯びた。
その時、加藤恵美博士が部屋に入ってきた。「湯澤くん、何やってるの?ありゃ、絵美はまた記憶転送しているの?え?どこに転送しているのかなあ?湯澤くん、私に説明したまえ」と湯澤を問い詰めた。それで、湯澤は、森絵美の提案で、現在行っている実験の経緯をメグミに説明した。
しばらくメグミは腕組みして考えていた。「ふ~ん、面白い実験よね。それで、湯澤くん、私の類似体は第二にいるの?」「ああ、それは補足した。キミだけじゃなくて、小平先生もぼくも洋子も向こうにいる。絵美だけが死亡していないだけだ」
「そう・・・つまり、この絵美の部分記憶転送がうまくいけば、向こうの赤の他人に入っていると思われる絵美と、彼女から說明を受ける宮部くんが、第一、第三と第二の状況は理解できる、ってことね?でも、たった二人よね?新世界秩序の調査には足りないわね?」とニタリと笑った。
「恵美、何を考えているんだ?また、いつもの悪知恵を思いついたなんて言わないでくれよ」
「悪知恵じゃないわよ。向こうの宮部くんと絵美が二人じゃ荷が重いかもしれないってこと。だから、」
「だから?」
「だから、絵美と同じような部分記憶を私から取り出して、向こうの私の類似体に転送すれば、状況を理解している人間が三人に増えるじゃない?」
「いや、それは、話がややこしくなるだけなんじゃないか?」
「絵美の場合、赤の他人の体の中にいる自分の記憶域に部分転送をかけているんでしょう?私の場合は、自分の類似体に転送するのだから、絵美が今やっていることよりもリスクは少ないはずじゃない?絵美が目覚めて、向こうの状況がわかったら、絵美に相談してみましょうよ。明彦は学会だから今いないけど、彼の部分記憶も転送させよう。こういう面白そうな事態で、このメグミちゃんを外しちゃダメよ」
「そうそう、それから、この第一には明彦の築き上げたファウンデーションがあるから、活動資金は潤沢だけど、向こうの第二にはそういうバックボーンがないわよね?動こうにも動けない。向こうにビル・ゲイツの類似体がいたら、新世界秩序に対抗するパートナーになってくれるかも?湯澤くん、その関連の情報もお忘れなく。絵美は素直だからそこまで知恵が回らないけど、私が噛めば鬼に金棒よ。洋子はフランスのCERN(セルン)だから、今、転送できないけど、洋子がここに来たら、洋子にも同じ転送をさせればいいのよ」
数分経って、絵美の横たわっている転送装置が止まった。絵美が起き上がりコネクターを外そうとすると、メグミが「絵美、コネクターは外さなくていいわ。もう一回、記憶を送りましょう」と言った。
「恵美、なんでここにいるの?」
「面白い話に混ぜてもらおうと思ってね」と湯澤に説明したアイデアを絵美に話した。
「う~ん、向こうはややこしい状態なの」と奈々の体に死亡した自分の記憶が偶発的に転送された第二の状況を説明した。
「だから、私が今同じような部分記憶を転送して、向こうのメンバーを増やす。明彦も学会が終わってココに来たら同じことをする。向こうの洋子の状態はわからないけど、どこにいるのかハッキリしたら同じことをする。それで、メンバーが四人、いや、奈々さんて人を含めれば五人になるじゃない?ね?リスクは少ない。やってみましょう。この私のアイデアを今もう一回向こうに送るのよ」
「一夫多妻制の五角関係になるような気がする・・・」と絵美が心配そうに言う。
「いいじゃない?試してみましょうよ」と気楽な恵美。
「まあ、状況が悪くなるわけじゃない。やろうか?」と絵美が決心した。
「これ、小平先生に相談しなくて大丈夫?」と湯澤。
「小平先生だって、この状況は膠着状態ってわかってくれるわよ。それより、湯澤くんも第二に類似体がいるんでしょ?私たちと混ざらない?湯澤くんの記憶も送っちゃえば?そうしたら、その奈々って女性の体が、明彦以外でも人格交代が起きるか、実験できるわ」とニタニタ恵美が笑って言う。
「メグミ!なんてことを!奈々の中に私も入っているんですからね!私が許しません!」と絵美。
「だって、第一のあなたの話じゃないんだよ?第二の奈々と死んじゃった第二の絵美の問題なんだから。湯澤くんに混ざってもらって実験を・・・」とメグミが言うと、
「メグミ、ぼくは遠慮しておくよ。そういう多夫多妻制は想像を絶する。止めておくよ」と湯澤。
「面白そうなのになあ・・・」とメグミ。
「まさか、あなた、この関係に向こうのメグミも参加させようとしていないこと?」と絵美。
「だって、絵美、送るのは私の部分記憶だから、第二での行動は向こうのメグミちゃん次第だよ。私の責任じゃありません」とメグミ。
「し、心配になってきたわ。どうしようかしら?」と絵美。
「気にしないでよろしい。膠着状態の打破をするのよ。さあ、絵美、また装置に入った、入った。私はもう一台で転送するからね。絵美、第二の明彦と奈々は新橋の第一ホテルにいるのね?わかった。向こうの恵美からホテルに連絡すると向こうの絵美に言ってね。言ってねって、その記憶が転送されるのか。ややこしい」
「仕方ないわね。湯澤くん、もう一回お願いね」と絵美。
「大丈夫かなあ・・・」と湯澤。
「たぶん、大丈夫よ。さあ、やって」と恵美。
湯澤は、再度絵美の装置をセットして、転送を行った。恵美も装置に横たわって、準備した。転送する記憶を選定して、第二の恵美から吸い取る記憶も設定した。恵美の転送も始まった。
二台の記憶転移装置が、チェレンコフ光のような青白い輝きを帯びた。
サポートしていただき、感謝、感激!