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第三章 NY & NWO、第五話 銃撃

皆様、あけましておめでとうございます。年が明けたのに、何の因果か、同じ続き物。心霊現象の話を書きたいのですが、こっちもあるので、仕方なし。「第三章 NY & NWO、第四話 探偵」の続き。やっとニューヨークに送れました。

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第二ユニバース
第三章 NY & NWO
第五話 銃撃

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第ニユニバース
ニューヨーク、アメリカ
1986年11月11日(火)

 ケネディー国際空港に洋子とジョン、ハワードが迎えに行った。ジョンとハワードでヴァンを二台運転してきた。到着ゲート前で彼らは待っていた。まず、明彦がやれやれと頭をフリフリしてトロリーを押して出てきた。大型スーツケースが四個山積みになっていた。メグミもニ個のスーツケースを押している。奈々が出てきた。彼女も二個。
 
 明彦はビジネススーツ姿だ。メグミは、洋子と同じようなセーターとジーンズ姿。明彦は去年会ったが、メグミとは第一でしか会っていない。第一のメグミは五十七才だが、ここでは二十八才。彼女、若い時はこんなに可愛かったのね、と感心する。
 
 問題は奈々。これは絶対に絵美ではあるまい。奈々だ、と洋子は思った。あれほど地味にと言ったのに。洋子は額に手をやった。頭が痛い。奈々は、トナカイのはねているセーター、黄色のパンツにロングブーツ、ミンクのハーフコートを着ている。ただでさえグラマラスな奈々の体型が服装で目立った。彼女はニューヨークでも目立つのだ。あ~、頭が痛い。明彦のバカは、なんで奈々と絵美を交代させなかったんだろう?

 洋子はまず明彦を抱きしめた。「昨年以来ね。待ってたわ」と言う。次に、メグミを抱きしめる。「ここ第二では初めてね」と言うと、「洋子、若いじゃない?何才だっけ?」と聞く。「三十四才よ」と答えた。そして、奈々に向かって、

「あなた、絶対に奈々ね?初めまして」と言った。
「洋子さん、私はそうだけど、絵美が久しぶりね、と言っているわ」
「う~ん、この多重人格ってわかんないなあ。奈々、絵美、あなた方、頭の中で会話しているの?」
「ええ、アキヒコは内部会話って呼んでいるけど。え?絵美、何?洋子をハグしてだって?洋子さん、絵美がハグして欲しいって」
「なんか調子狂うなあ。まあ、いいわ。奈々、絵美、いらっしゃい。待っていたわ」

 ジョンが「俺達は車を取ってくるからな、ヨウコ」と言った。「なあ、ハワード、言っただろう?日本人女性は、モンローみたいに洋服を山積みに持ってくるんだ。だから、ヴァンが二台いるって言ったろ?」「ああ、わかったよ。しかし、あの目立つ女性、すごいな。ソフィー・マルソーにモンローの胸と尻をくっつけたみたいだ」「地味な服装って言ったんだがな・・・」

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 奈々をハグしながら、耳元で「絵美、奈々に釘を刺しておいてね。内部会話は日本語だけ。英語でしちゃいけないって。マリーって女性がいるけど、日本語が少しわかるから、彼女の前では注意するのよって。それから、地味な服装ね、地味な、地味な、地味な。奈々、言うことを聞かないと、つねるわよ」と囁く。
 
 奈々が「了解。わかりました」とおとなしく答えた。「あのね、洋子さん、絵美がね、奈々をつねっても無駄よ、よろこんじゃうからと言ってるの」「やれやれ。奈々、これは命令よ。ホテルにチェックインしたら、真っ先に明彦の部屋に行って、やってもらって。失礼だけど、今、必要なのは絵美だから」と言って奈々を離した。
 
「明彦、スーツケース八個って多くない?」と明彦に向かって言った。
「いや、ぼくのが一個で、メグミが三個、奈々と絵美は二個ずつという話でさ・・・」
「あ~あ・・・あのね、今、奈々に言ったけど、ホテルにチェックインしたら、キミの部屋でも奈々の部屋でも構わない、絵美をだしてちょうだい!申し訳ないけど、絵美が必要なのよ。なんで、出国前に交代しちゃったの?」
「いや、また、奈々に誤魔化されて・・・」と明彦。
「ちょっと、洋子、ニューヨークに来て早々、さっそく交代劇を二人に、いや、三人にさせるつもり?!」とメグミが文句を言う。
「仕方ないじゃない。絵美が出ないと、内部会話になってしまって、バレるわ。それにNWOの話ができないじゃない?」
「もう、奈々は夜だけ出てもらって、昼間はひっこんでもらいましょう」とメグミ。
「ええ~、昼間に出れないって?なんなの?ニューヨークに来て!」と奈々。
「仕事よ!観光じゃありません!」と洋子とメグミが同時に言った。

 ホテルのエントランスで洋子が「じゃあ、ハワード、明日は八時に迎えに来て。念の為、ヴァン二台で行きましょうよ。バイバイ」と言ってハワードと別れた。三人がチェックインしている間に、洋子はエントランスホールのソファーに座ってジョンに言った。「夕食まで時間があるけど、メグミと私と私の部屋でいっぱい飲まない?」と聞いた。「俺はいいけど」「じゃあ、シャワーでも浴びたら私の部屋に来てちょうだい」
 
「メグミ、荷物をおいたら私の部屋に来て。ジョンと打合せをするから」とメグミに言った。「明彦と奈々も、あれ?絵美か、すませたら、私の部屋に来てちょうだい」と指示する。

 洋子は、部屋に戻ると、ルームサービスにアイスとロックグラス五個、ショットグラス一個、ミネラルウォーター、適当なツマミを注文した。数分経つと、メグミが来た。

「メグミ、この奈々、絵美の二重人格の話だけでも、ジョンにしておかないといけないと思う」と洋子。
「それはまずいんじゃない?第一、信用しないよ」
「ジョンは口の固い男よ。信用しなくとも、どうであれ、秘密は守る。第一、ニューヨークに初めて来た奈々が、地理をよく知っていたり、絵美の調査を知っているのは変でしょう?ここは正直に、奈々と絵美の話だけはしておこう?」
「う~ん、まあ、確かにそうね」
「しかし、メグミ?これは、私たちに勝ち目はないわね・・・」
「今、気がついた?もう、あのコンビに私たちは勝てないのよ」

 ルームサービスが帰って、入れ違いにジョンが来た。重そうなショルダーバッグを担いできた。「ジョン、ワイルドターキーでいいわよね?ストレート?それともロック?」と二種類のグラスをひらひらさせて、洋子が彼に聞く。「ストレート」とジョンが言う。「ヤンキーはこれだから。ショットグラス頼んで正解だわ」「あのな、ヨウコ、俺はアイダホの生まれで、ヤンキーじゃないぜ。ポテトの取れるところさ」「ハイハイ、乾杯!」と三人は乾杯した。

「ところで、ジョン、拳銃は手に入れてくれたの?」と洋子。
「え?拳銃?誰の?何に使うの?」とメグミが言う。
「メグミ、護身用よ。みんな念の為持っていればいいわ。ただでさえニューヨークは物騒でしょ?絵美だって、射殺されたのよ。それに今回の調査で私たちも狙われるかもしれない。絵美を殺した組織に」
「私も?」
「もちろん、メグミも」
「洋子はスミス&ウェッソンM&P9が使い慣れている。だから、他の三人も同じスミス&ウェッソンを用意した。マガジンも共有化できるからな。登録はハワードの探偵社にしておいた。これが洋子の銃」と洋子に一丁わたす。「これがメグミの分」とメグミにも一丁わたした。「注意してくれよ、メグミ。このタイプにはセイフティー(安全装置)はないので、引き金を引けば撃てちまう。これが予備のマガジン(弾倉)二つずつだ。七発装填してある。合計二十一発。使わないことを祈ろう。明日時間があればマリーと射撃場に行って撃ち方を習うといい」
「あら?ジョン、意外と軽いのね?」
「ワンポンドちょっと。五百グラムだ。バター一箱ぐらいの重さだよ。ハンドバッグにいれておけばいい。引き金はわざと重くしてある。誤射されちゃあ困るからな。それから、これだが」とショルダーバッグからサブマシンガンを取り出した。「これはヘックラー&コッホMP5Kというマシンガンだ。スミス&ウェッソンと同じ9x19mmパラベラム弾を使用する。マガジンの装弾数は二十発。重量約三キロ。多少重い。これはどうしようか?」
「明彦と相談してみるわ。彼が持ったほうがいいけど、扱えるかどうかは別だから」と洋子が答えた。

 ジョンがメグミに拳銃の操作方法を教えだした。このタイプはオートマチック・ピストルと言う。まず、マガジン(弾倉)の交換方法。遊底の引き方。薬室に残莢があるかないかの確認。ハンドバックにいれて持ち歩くとき、薬室に弾を装填するかしないか。薬室に弾を装填しない場合、イザという場合すぐ発射できない。しかし、何かに引っ掛けて誤射するリスクもない。薬室に弾を装填しない場合は、撃つ前に遊底を引いて、マガジンから弾を薬室に装填する動作が必要だ。まあ、いつも薬室に弾を装填している状態で扱うのが無難だ。何事にも慎重になる。

「空のマガジンで練習してみよう。マガジンリリースボタンを押す、マガジンが排出される。次に、銃把を右手で持って、左手の掌にマガジンの底をあてて、パンっ、これで装着できた。リリース、装着、リリース、装着。よし、うまいぞ。七発全弾撃ち尽くしたら、すぐ、リリースして、装着しないと相手にやられるぞ。装着したら、遊底を引く。薬室に弾を入れる。そして、バンっだ。明日マリーに教えてもらうといい。撃った後、薬莢が飛び出す。それを驚かないようになれないといけない。洋子、メグミはスジがいいぞ。もう飲み込んだよ」とジョン。
「これを使わないことを祈るわ」と洋子。
「ヘックラー&コッホもマリーに教えさせるよ。後で説明するが、私やハワード、ニック、マリーが突き回すと、誰だかわからない向こうから私たちに接触してくる可能性が高いからな。もちろん、私たち四人の誰かがキミらにつくので、キミら日本人だけが対処することはないが、念の為だ」

 そうこうしている内に明彦と絵美が部屋に来た。「ちゃんと交代した?今度は絵美ね?」と洋子が聞く。「ええ、絵美よ。格好でわかるでしょ?」と日本語で受け答えした。
 
 確かに、奈々のしていた昼間の目立つ服装じゃなくなっている。グレイのスゥエターに黒のジーンズ。髪はポニーテールに後ろでまとめて、化粧はほとんどしていない。目が落ち着いている。動作に奈々の蓮っ葉さがない。優雅で自信に満ち溢れているのがわかる。人格が代わると、体は同じなのにこうも雰囲気が違うものなのか?と洋子は思った。確かに、私が勝てなかった森絵美がいるわ。

「明彦、絵美、メグミと相談したの。ジョンには奈々と絵美の人格の話をしておこうと思って」と洋子。
「仕方ないな。洋子はジョンと長い付き合いなのか?」
「ええ、去年フランスに帰ってから、護身術を彼に習ったから。大丈夫。私が太鼓判を押すわ。口は非常に固い」
「オッケー、わかった」
「じゃあ、今から、日本語はなし。英語だけよ。ジョン、これからいろいろなことを話すけれど、質問は最後に。黙って聞いていて。あなたにこれだけは話さないといけないことがあるの。私たちのメンバーのことで。奈々の話よ。」と洋子。「隠し事の話だな?」とジョン。「その一部ね。まず、私たちは奈々を絵美と呼ぶけれど驚かないでね」「絵美って、殺害された女の子だろう?」「そうよ。聞いていてね」

「洋子、まず、ぼくから話そう。日本にいた時から、疑問に思っていたのは、記憶転移の時間線の方向だ。ぼくらの場合、未来から過去にガンマ線と陽電子の作用で時間線をさかのぼった。第三から第一、第一からここ第二。いつもそうだ。しかし、絵美の場合は、違う。過去から未来だ。物理的な現象として、この二つのケースは異なる。過去から未来への転移の原動力は謎だ。それも人為的じゃない現象だ。もっと研究しないといけない問題だ。これが一点」
「うん、それはわかるわ」と洋子。「後で、メグミによく説明してもらうわ。ここでは、私は法学者だから。第一からの記憶データで、物理学の原理が向こうの洋子から全部転送されたわけじゃないから。それで?続けて」

「第二点として、絵美と話していて、この絵美は、果たして第二の絵美なのか?ということ」と明彦。
「え?第二の絵美でしょう?その点は疑ったことがなかったけど?だって、第一、第三の絵美のはずはないわ。第一と第三の絵美は殺害されていないじゃない?今でも生きているのよ」とメグミが問いかけた。

「そう。第一、第三の絵美のはずはない。でも、それがこの絵美が第二の絵美の記憶だという証明にもならない。じゃあ?」と明彦。
「じゃあ、って、他にどういう可能性があるのよ?」とメグミ。
「他の可能性として、絵美が殺害されてしまうもうひとつ別のユニバースだってあるじゃないか?第二と似通った第四ユニバースがあったとしたら?」

「え?ええ?」とメグミ。洋子は顎に手を当てて考え込んでいる。
「絵美と話したんだ。ジョン・ヒンクリーとブッシュファミリーの件を。そうして、根本的に違うことがわかったんだ」と明彦。

「明彦、ここからは、私が話すわ。まず、私の記憶では、ヒンクリー、これも怪しいものだけどね、ヒンクリーがレーガンを撃てたはずがないのはわかっているけれど、ヒンクリーがレーガンを銃撃した。そして、レーガンは死亡したの」と絵美。
「ちょっと、絵美、レーガンは暗殺未遂よ。ジョージ・ワシントン大学病院に彼は救急搬送されて、即座に緊急手術を受けて助かったのよ」とメグミ。

「私の記憶では、助からなかったのよ。だから、レーガンが死亡した後、第四十一代の合衆国大統領は、副大統領のブッシュ・シニア。明彦に聞いたけれど、1986年、ここではまだレーガンは大統領のままでしょ?私の記憶では、レーガンは1981年三月に殺害されて、副大統領のブッシュ・シニアが昇格、レーガンの任期の1985年まで務めた後、続けて選挙に勝って、1986年は、二期目の任期なの」と絵美。
「洋子、メグミ、わかっただろうか?つまり、この絵美の人格記憶が来た宇宙はこの第二じゃないんだ。第一でも第三でもない。つまり、仮に第四としよう。そこからだ。ただし、他の世界的な出来事とか、極めてここと類似している。個人的なぼくと絵美、洋子とメグミの関係も同じだ」
「さて、そこで、第一点の問題に戻る。第四から第二であったとしても、絵美の場合は、過去から未来への転移だ。ぼくらの場合とは時間線の向きが違う。陽電子の作用でもないその転移の原動力は何かだ」

「う~ん、難しい話だわ。第一に助けをお願いできないのが癪ね。次に第一が接触するのを待たないと、専門家じゃない私たちだけでは、この謎はお手上げね。ホールドしましょう。さて、ジョン、いろいろと聞きたいことがあるでしょう?だから、まず、多元並行宇宙とマルチバースの話を明彦にしてもらいましょう」と洋子がジョンに言った。

 明彦は、この宇宙の仕組みから始めて、第三から第一への記憶転移、死亡したはずの絵美の記憶が装置に受信されたこと、絵美の第四の記憶がここ第二の奈々に非人為的、自然に転移したこと。それが偶発的なのか、必然的なのかはわからないが、それで第一の類似体たちが第二に干渉することを決めたこと。だから、ここにいる四人、明彦、絵美、洋子、メグミは第一の記憶も一部転移していること。第一、第三には生きている森絵美がいることなどを手短に説明した。

「う~ん、つまり、俺の正面に座っているこの神宮寺奈々という女性の中には、ここと別の第四とかの宇宙の同じく殺害された森絵美の記憶と人格を持っている、ということか?それで、神宮寺奈々と森絵美の人格は交互に交代して出てくる、ってことかい?で、今は、この神宮寺奈々の体を支配しているのは殺された森絵美、ということか?」とジョン。
「そういうことよ、ジョン」と洋子。
「にわかには信じられないな・・・」
「それはそうでしょう。私たちだって、数週間前まではこんなことが起こるとは思って見なかったんだから」
「この四人にはそのなんとか装置で人為的に記憶が別の宇宙から送られた、その前にミス神宮寺は、自然にミス森の人格が入ってきたんだな。なぜ、神宮寺と森にそんなことが起こるんだ?」
「わからない。神の摂理なのかもしれない。ユニバースとユニバースが孤立しないために、データのやり取りをしているのかもしれない。絵美の場合は稀少な例だけど、小さな記憶データのやり取りは起こっているようなのよ。だから、未来のことがわかったり、経験したこともないようなことを知っていたりするのよ」
「まあ、徐々に慣れるだろうし、信じていいのか悪いのか、その内にわかるだろう。これはハワードとニック、マリーには言わないよ。ところで、まだ、秘密があるんだろう?」
「それは、ビルが来てから話せる内容は話すわ」
「わかった。まあ、俺とハワードたちはつつく仕事を始めるよ。なにせ、去年起こった事件だし、死んだピンカートンの探偵の持ち物で殺されたってことじゃないか?あまりに、証拠がなさすぎる。つついて、相手が動くのを待つしかないぜ」

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第ニユニバース
ニューヨーク、アメリカ
1986年11月13日(木)

「ねえ、ニック」とメグミがニックに言った。「ジョンは『つついて、相手が動くのを待つしかない』って言っていたけど」
「ああ、そうだな・・・」
「それから二日と経たないで、もう私たち銃撃されているんですけど?」
「相手がこれほど素早いとは思わなかったよ。おっと、頭を下げとけよ。奈々も這いつくばってなきゃだめだぜ」

 私と奈々、ニックは、三人でピンカートンの殺された探偵や紛失したアーマライトAR-7というライフルの行方を調査していた。マリーはFBIの去年の動きを洗っていて、ジョンとハワード、明彦と洋子はノーマンとマーガレットに会いに行っていたのだ。私たちはヴァンで移動していて、ホテルに戻る途中に、正体不明の車三台で港まで誘導されてしまった。それで、ヴァンを盾にして、今、銃撃戦の真っ最中、というわけ。勘弁して。そこら中に跳弾の嵐。心臓止まりそう。

ソフィー・マルソー

 私と同じく地面に這いつくばっていると思っていた奈々は、ボストンバッグをゴソゴソやっている。「何してるの?奈々?頭下げてなきゃ、危ないじゃない!」と言うと「ヘックラー&コッホのサブマシンガンを出しているのよ。ニックだけじゃあ多勢に無勢で、すぐ制圧されちゃうじゃない?」とハワード曰く、ソフィー・マルソーにモンローの胸と尻をくっつけた奈々がサブマシンガンをバッグから取り出した。「奈々、あんた、そんなもの扱えるの?」

ヘックラー&コッホMP5K

「メグミ、何言ってるの。私はパパから、クレー射撃とライフル射撃を教わっていたのよ。マシンガンくらい扱えるわよ」と意外なことを言う。「ニック、加勢するわ」と奈々。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「大和撫子をバカにしないでちょうだい!」とヴァンの影からヒョコヒョコ顔を出しては引っ込め、マシンガンを盛大にぶっ放し始めた。セミオートで二発ずつ点射している。十点射して、慣れた感じでマガジンリリーフボタンを押して、マガジンを排出、予備のマガジンをセットした。

 仕方ないわね。私も撃つか。メグミは腹ばいになって、ヴァンの下から相手の車の方を狙った。タイヤと敵の脚が見えた。続けて七発、横殴りにぶっ放す。タイヤの空気が抜けて、脚がくずれるのが見えた。

 おお、怖い。東洋のお姫様だと思っていたら、やるじゃないか?とニックはマシンガンをフルオートにして、奈々とメグミを撃たせないように相手に掃射した。奈々が一人倒した。数分間、三人は撃ち続けた。その内に、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。やっと騎兵隊のご到着だぜ、とニックは思った。
 
 相手は、一台の車がタイヤを撃ち抜かれたので、けが人を引きずりながら、残り二台に乗り込み始めた。動き始めた敵の車のリアに向かって、奈々はフルオートにしたマシンガンを引き金を引き絞ったまま、全弾撃ちこんだ。相手の車のリアガラスが吹き飛んだ。奈々はメグミを助け起こす。

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「ねえ、メグミ、こんな映画あったわよね。カ・イ・カ・ン」と奈々。
「あんた、『セーラー服と機関銃』の薬師丸ひろ子のつもり?こっちは死にそうよ。おしっこ、チビリそうだわよ。少し、チビッたわよ」とメグミ。
「え?絵美?なんですって?こんな時にあなた何感じてるのって?わかるでしょ?ちょっとエクスタシー、来ちゃったわ。ジンワリ、濡れちゃったわよ」と奈々。
「まったく、こんな状態で、エクスタシーとか濡れちゃうとか、頭がおかしいんじゃない?まあ、でも、奈々の加勢で助かったわよね」
「おいおい、お嬢さんがた、助かったぜ。心臓がパクパクしてやがる。これでマリーに何の護衛なの?とかぶっ飛ばされそうだぜ。まあ、向こうも威嚇のつもりで本気じゃないので助かった。威嚇のつもりが、手厳しい反撃だったからな」とニック。

 パトカーが停車した。NYPDの警官がスピーカーで警告する。三人は銃を捨てて、両手を頭の後ろに回して「撃つな、抵抗しない、銃は捨てた。俺たちゃ、被害者だ」とニックが言いながら、三人はパトカーの方に歩き出した。まいったね、これは。正当防衛になるが、しばらく、NYPDで絞られそうだぜ、とニックは思った。

「すごいじゃない?メグミ。映画みたいだわ」と両手を頭の後ろに回して歩きながら奈々が言う。
「あんた、絶対に頭おかしい!」とメグミが頭をふった。


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フランク・ロイド
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