奴隷商人 Ⅹ、第51章、第52章、 第53章
Dancing in the Dark - Bruce Springsteen (Acoustic cover by Emily Linge)
Cannons - Dancing In the Dark (Bruce Springsteen Cover)
第51章 ●奴隷商人49 の続き
今日は絵美と二人きりだ。絵美が、今日は私の番よ、みんな出ていって頂戴!と小テントからみんなを大テントに追い出した。珍しいこともあるもんだ。第1夫人の強権発動とは。
「ムラー、昨晩はどうでした?」と聞かれた。
「あのなあ、高校1年生の可愛い処女と高校2年生のクレオパトラそっくりとやるなんてものじゃないぜ。お前と違って、酒飲みながらお話してまったりするって感じじゃない。エミー、アイリスとするのとも違う。イシスはアイリスよりもクレオパトラの血筋を濃くひいていて、お前の言う高校2年生なんてもんじゃない。ありゃあ、生まれながらの娼婦だ。普通の男だったら骨抜きになっちまう。さすがにクレオパトラが自分の身代わりにしようと仕込んだだけのことはある。房中術のテクニックなら、ハレムの中でナンバーワンだろう。それで、昨日の夜でアルシノエの体を開発しやがった。今までご無沙汰だった高校1年生と高校2年生だぜ?俺が貪るんじゃなくて、貪られたよ」
「ふ~ん、ムラーがそうだったなんてね。アルシノエは、宦官のアブドゥラとパシレイオスに任せればいいじゃない?」
「昨日知ったが、ピティアスの娘だぜ?宦官にやらせるわけにもイカンだろう?第一、アルシノエが旦那様以外とするのはイヤ!舌噛み切って死にますよ!と言うんだから」
「生意気に。まあ、可愛いところがあるじゃない?」
「絵美、お前も余裕こいてるけどな、入っている体は大学1年生の金髪碧眼の白人女のエミーなんだぞ。意識は27才の日本人女性だが、体の欲求は大学1年生の金髪碧眼の白人女なんだからな。自分じゃ自覚していないだろうが」
「あら?私、そんなに激しく求めてないわよ?」
「お前のは、激しい肉弾戦じゃなくて、長時間ネッチリなんだ。アンアン泣くから攻めているつもりが、搾り取られるんだよ。それで、途中交代でエミーが出てきたら、今度は激しい肉弾戦になるだろ?一番大変なのが絵美/エミーだ」
「そうなの?自覚なかったわね。それにしても、イシスがもしもクレオパトラに奪い返されて、プローブを転位されたら、7世よりも強力になりそうね。注意しないと」
「イシスが『旦那様と絵美/エミー様が私とアイリスを守ってくださると信じています。それでもクレオパトラの手中に落ちたら、私を殺してください』と言ってたぜ」
「いざとなったらね。だけど、私にイシスとアイリスを殺せるかしら?」
「クレオパトラが彼女たちに転位しそうになったら、躊躇せず殺せ。さもないと、俺たちが危ない」
「わかっているわ。肝に命じましょう。ところで、話は違うけれど、大スフィンクスがなぜ2つあり、八千年昔、一つは将来の大ピラミッドの築かれるギザ台地、もう一つがエジプト古王朝のメイドゥム・ピラミッドまで15キロの位置の砂漠のど真ん中に建設されたの?」と聞かれた。
俺なりの解釈を説明してやった。長くなるぞと。
まず、純粋知性体ってのを理解してるか?わからない?正直でよろしい。知性体になる前の実体のある生物だったとき、それが酸素呼吸系種族であろうと、塩素呼吸系種族であろうと、メタン呼吸系種族であろうと、その母体の相違とは関係なく、純粋知性体は、全宇宙中のレシピを知っているグルメだが、料理はしない存在になっちまうということだ。
わかんないって?純粋知性体はエネルギーがない、当然質量もない実体がない存在だ。それが宇宙の、マルチバースの森羅万象をほぼ知っている。ところが、実体がないものだから、自分で手を出すのはかなり面倒なんだ。なんらかの物質、生物に働きかけないといけないからな。
グルメと料理人の例えを変えよう。純粋知性体は、20世紀の天才物理学者、アルバート・アインシュタインに似ている。アプリオリに、先験的に真理がわかっちまうところがある。深く思索しなくてもわかっちまう。途中をかっ飛ばしてマラソンのゴールに現れちまう汚さがある。
ところが、真理はわかるんだが、アルバート・アインシュタイン、数学は得意じゃない。だから、え~と、あれだよ?あれ?とか数学者に説明すると、数学者があんたの言わんとする真理の数式はこれかい?と数式を見せられると、おう、それそれだ!ちょっと違うがね、ここをこう定数を加えると、完璧だ!とか言い出す。
アルバート・アインシュタインに、マリー・キューリーみたいにラジウムの抽出ができるか?と言うと、あまりに実験が下手くそなので、ほっておくとラジウムが臨界に達して核分裂の暴走でも起こしてしまう。任せられないわけだ。
アインシュタインが一般相対性理論を発表して、「太陽のような巨大な質量を持つ物体は周囲の空間をねじ曲げている」というのが理論ではわかっても、望遠鏡を渡せば壊すから自分で証明できない。
だから、イギリスの物理学者、有名なアーサー・エディントンが、1919年5月29日に生じた日食を観測して、通常の星空の写真を撮影、日食中に同じ星空の写真を撮影、太陽のすぐ近くの星の位置が通常の星空の写真と比べて位置がズレていたならば、太陽の重力によって星の見かけの位置がズレたということになり、相対性理論は正しいことが立証できると考え、見事に太陽がヒアデス星団の近くを通過する時の写真撮影に成功したというわけだ。
エディントンのお陰でアインシュタインの一般相対性理論は証明された。しかし、エディントンが一般相対性理論を見出したわけではない。
純粋知性体ってのは、アインシュタインにも全宇宙中のレシピを知っているグルメにも似ている。神にも等しい。ただ、鍋やフライパン、天体望遠鏡などという下賤なものは扱わん、という存在だ。
もちろん、純粋知性体は、地球の内核、外核を操って大規模造山運動を起こさせることはできる。事実、ベータ本体はアトランティスを造山運動で海の底に沈めた。あるいは、太陽の黒点活動を活発化させたり、不活化させたりして、地球への太陽電磁波の量を変えたりもできる。地球の自転軸を変更したりもできる。そういう大規模で大雑把なことは可能だ。
じゃあ、純粋知性体にいちから大規模集積回路、半導体を生物の助けを受けないで作れと言っても、長い時間をかければできるだろうが、ヤツラは対費用効果が悪いと言ってしないだろう。シリコンの原料の天然のケイ石(SiO2)を念動波で集めて、純度を上げ、1,410℃以上で溶融シリコンにして単結晶シリコンインゴットを作り、スライスしてシリコンウェハを作って、表面塗布剤を塗ってエッチング・・・なんてことを純粋知性体はやらない。念動力でやるには手間暇がかかりすぎる。自分でやるよりも、知性体になる手前の高度のテクノロジーを発達させた生物種をマインドコントロールして、自分の代わりにやらせた方が手っ取り早い。
全宇宙中のレシピを知っているグルメが、料理人を使ってレシピを教えながら料理を作るとか、アーサー・エディントンがアインシュタインの代わりに日食時に太陽がヒアデス星団の近くを通過する時の写真撮影をするようなものだ。
だから、1万年前、クローヴィス彗星衝突で起こった一時的な氷期のヤンガードリアス期の後にベータが地球に飛来した時、たぶん、高度のテクノロジーを発達させた塩素呼吸系生物を連れてきて、大スフィンクスを建設させたのだと思う。1万年前の人類は人口も少なく、かき集めても大スフィンクスを建造するのに数百年はかかっただろう。
なぜ大スフィンクスを作ったか、というと、まず、人類は半神半獣の姿(後でファラオが自分の顔に削り直してしまったがオリジナルはたぶんアビヌスみたいな獣の頭部だったんだろう)のスフィンクスを恐れて近づかないこと。それからスフィンクスは地球の環境変化に影響されない大きさで、数千年経っても宇宙からでもわかる目印だということ。さらに、本来の目的は、スフィンクスの下に埋められた、チャンバーだということだ。数千年経って、チャンバーはクレオパトラがやったような先端工場に転用できる。そのスペースを数千年確保するのが狙いだ。
え?なぜ、最初からスペースだけを作って、先端工場は作らないのか、だって?それは、工場設備の維持・メンテが数千年もできないからさ。自動メンテのナノマシンを作ってもいいが、構成部品・材料は数千年も経てば、腐食してボロボロになる。スペアパーツも同じことだ。半導体のシリコンは残るが集積回路の銅線などは錆びる。だから、手間のかかるスペースを作ってやって、目印と重しになるスフィンクスだけを1万年前に準備したのさ。
古代の建築物で、巨大な空洞だけのものというのがたくさんあるだろう?人類は、何のために?何に使ったのか?と疑問を持つが、なんのことはない、単なる将来利用可能なスペースを確保する空洞ってだけさ。何に使ったのか、って、使われちゃあいないんだ。
で、場所だ。なぜ、スフィンクスを建造した場所が、ギザ台地とそこから50キロ離れた砂漠のど真ん中なのか?ということだな?
未来の人類なら、なぜこんな砂漠のど真ん中に大スフィンクスを紀元前八千年も昔に建設したんだろうと思うだろう。しかし、2023年から1万年昔、ここはナイル川のほとりだった。ナイル川は毎年洪水を繰り返し、左岸、右岸を削って蛇行する。だから、20世紀の川筋が古代の川筋とは限らないのに未来人は気づかないのだ。
海岸線だってそうだ。クローヴィス彗星衝突後、地球の平均気温が7.7℃も下降、20世紀の海岸線よりも十数キロ、数十キロ沖合にあった1万二千年前のヤンガードリアス期を経て、1万年前は地球全体が急激に温暖化し、海面は20世紀よりも数十メートル上昇、ナイル川の大三角州の半分の面積は海面下にあったことなども、未来の歴史学者は想像すらしないのだ。想像力の欠如、バカとしか言えない。未来の人類の歴史学者のほとんどは、地球物理学にも気候学にも地理学にもうとい。彼らは、古代の歴史を現代の海岸線、気候で考えがちである。あまり知性があるとは思えない。
※奴隷商人 Ⅴ、第31章 ●奴隷商人29、紀元前八千年
約7万年前から約1万2,000年前まではヴュルム氷期にあたり、この時期の南極の気温が現在よりも約8℃低かったことがわかっている。しかし、約1万2,000年前に氷期が終わり、気温が上昇したことで、大陸氷河が後退し、海面は上昇して、気温や降雨などの気候パターンが大きく変わり、現在のサハラ沙漠の姿になった。
現在のサハラ沙漠は文字通り沙漠だが、サハラ沙漠の各地で、見つかった1万2,000年前頃から6,000年前頃の岩石画から、当時は湿潤な時代で森林や草地があってキリンやゾウ、アンテロープ(ウシ科の草食獣)、サイもいて、狩猟が行われていたことがわかっていいる。
そして、約5,000年前頃からサハラ沙漠が乾燥し始めた。古代エジプトが繁栄した紀元前3,100年頃から紀元前525年の時期は、この乾燥化が進んだ時期に当たる。
紅海よりのナイル川東岸は山岳地帯だが、西岸はサハラ砂漠に隣接している。紀元前八千年、21世紀から数えると1万年前のエジプトは、西岸部はまだサハラ砂漠の侵食は受けていない。森林や草地が台地を覆う緑の地だった。温暖化により、海岸線は数キロ後退している。ヒプシサーマル期と呼ばれる時代だった。
もちろん、純粋知性体ベータは、その時点だけではなく、過去の、未来の気候変動と海岸線の海進、海退の時間軸も見渡せただろう。大ナイル三角州が海進により、ヒプシサーマル期のピークには、ギザ(カイロ)あたりまで海岸線が後退するとか、紀元前46年前後では、ほぼ21世紀の海岸線まで海退するとか。
大スフィンクスは、一体はギザ台地の上、海進時でも水没ギリギリな場所に、もう一体は、エジプト古王朝のメイドゥム・ピラミッド(この頃はまだ存在しないが)の北15キロ、当時は大森林の台地に設置した。南の大スフィンクスは、紀元前3千年以降すすむサハラ砂漠の東進によって、紀元前46年頃には、人跡未踏の砂漠のど真ん中になり、スフィンクスの存在が秘匿できるのもわかっていた。
知性体ベータが飛来したのは、紀元前5千年前の先王朝時代よりも3千年も古い時代だ。エジプト王朝が開始されたら、スフィンクスなんざ建設できないからな。宇宙から飛来した何者かが作ったなんてバレちまう。
ベータが連れてきたのは、銀河のどこかの塩素呼吸系種族の人種だったろう。ヤツラを操って、恒星間宇宙船を地球まで連れてきた。そして、シャトルで重機を地上に降ろして一枚岩からスフィンクスを削り出した。まず、地下通路を作って、将来水力発電ができるようなナイル川と連結した水路も作る。スモールチャンバーとビッグチャンバー、ビッグチャンバーの下の大工場となるスペースを建設した。その上にスフィンクスを重し代わりに乗っけたってことだろうな。
ここ、南のスフィンクスは、将来のクレオパトラの工場となる本命のもので、北のギザのスフィンクスは、紀元前2千5百年にクフ王、カフラー王、メンカウラー王が大ピラミッドを作る指標にしたんだろう。ギザ以外の土地に大ピラミッド群を作らせないように。だから、クフ王たちがピラミッドを建設する時には、すでに北の大スフィンクスはあったということだ。
時は流れて、新王国時代、第3中間期、末期王朝時代となって、アレクサンドロス大王のエジプト征服が起こって、やっとプトレマイオス王朝の時代になった。
紀元前193年、今から147年前、プトレマイオス5世エピファネスが即位し、彼の妻、クレオパトラ1世が共同統治者になった時、ベータは再度飛来して、クレオパトラ1世に憑依した。彼女は南の大スフィンクスを見つけ、先端技術工場の設立に着手した。それから、140年、代々のクレオパトラの指揮で、半神半獣や先端兵器を製造できるようになったということだ。そして、大ローマ帝国を乗っ取り、歴史を改変するということになる。
「なるほど。すごく納得の行く説明だったわ。たぶん、その通りなんでしょう。でも、わからないのは、ベータはなぜそこまで歴史を改変するのに固執するのかしら?」と絵美が首をかしげる。
「2025年9月のペガスス座IK星(IK Pegasi)またはHR 8210と呼ばれている恒星が極超新星爆発を起こして、ガンマ線バーストが発生する。第1、3ユニバースはまともにバーストを浴びて、地球の生物種の9割は絶滅する。もちろん人類も。第2、4ユニバースは直撃を免れるが、ベータは何らかの方法でガンマ線バーストの標準を変えて、第2、4ユニバースにも直撃させようとするだろう」
「2025年9月・・・今から2千年後・・・って、私のいた1985年の世界から40年後じゃない!あ!私、ペガスス座IK星(IK Pegasi)を見たわ!アルファが私を連れて行った恒星じゃない!」
「そうだ。第1から第4までのマルチバースの地球がガンマ線バーストで丸焦げになれば、ベータは塩素呼吸生物を使って地球をテラフォーミングし、塩素を増やして、酸素呼吸系生物を絶滅させ、4つの地球をすべて塩素呼吸生物の楽園にしてしまうと思う。それで、気長に、塩素呼吸生物が発展して、やがて純粋知性体に育つのを待つ、ということなんだろうな」
「酷い話だわ」
「ああ、俺の母体のアルファもそんなことは止めさせようと思っている。卒業したとはいえ、酸素呼吸系生物はアルファの出身母体だからな」
「アルファが止めてくれないの?」
「止めようとしてるじゃないか?だから、俺とお前がここにいるわけだし、絵美/奈々が第2ユニバースにいるんだから」
「私も役割を担っているってことね」
「大事な役割だ。そう、それで、ベータの都合の悪いことに、極超新星爆発のガンマ線バーストを水爆数千発の爆発でバリアを作って、バーストの直撃を和らげて、生物種の大量絶滅を阻止しようとしているグループが第1と第3ユニバースに居るんだ」
「そのグループに頑張ってほしいわ」
「そう思うかね?そのグループというのは、森絵美というお前の第1、第3の同位体、そして、第1、第3の宮部明彦他の物理学者グループなんだ」
「え?私?え?明彦?」
「第2ユニバースでも同じメンバーが今動き出している。第2、第4の森絵美は死んじまったけどな。今、ここのクレオパトラとの戦いに俺たちが破れてしまったら、未来の第1、第3のお前とお前の恋人、第2のお前の友人たちの努力も水の泡ってことだ。どうだ?アルファ本体がお前を選んだ意味がわかってきたか?」
「・・・まさか・・・そんなこと・・・」
奴隷商人 Ⅹ
第52章 ●奴隷商人50
紀元前46年
砂漠行 4【砂漠行11日目】 200+90キロ
30キロ、大スフィンクス方向に進んだ。残りあと3日。昨日のムラーとの話は重かった。第1~4ユニバースまでの運命がこの一戦にかかっていると思うと気が重い。どうしてもクレオパトラ7世は抹殺しないといけないが、できるんだろうか?
目的地の南の大スフィンクスは、ギザの大スフィンクスからほぼ南に50キロのところにある。近くには、エジプト古王朝のメイドゥム・ピラミッドがあり、その北15キロの位置にある。敵地に近づいているので、警戒は厳重にしないと。
今日の夕食は私が料理する!ということで、さて、何を作ろう?旅も終盤、食料の備蓄も残りわずか。大スフィンクスの戦闘で生き延びられたら、私かアイリス、イシスがアフロダイテ号、アルテミス号まで行って食料を抱えてくればいいので、着くまでの3日間で食料の備蓄はみんな食べてしまおうということになっている。しかし、ロクな食材が残っていない。
スペルト小麦はあるので、ポレンタを作ろう。紀元前にトウモロコシなんてアメリカ大陸原産のものはないので、小麦で作るのだ。銅鍋に水10リットルを入れて沸騰させ、塩を加える。そこにスペルト小麦の粉2.5㎏を加え、素早くかき混ぜてダマができないようにする。火はずっと強火で、かき混ぜながら煮て、ポレンタが固まったら焚き火から遠ざけて火を弱める。煮る時間は約45分。
ブルメンタリア(乾燥肉)、ヒヨコマメ、ヒラマメ、エンドウマメでスープを作る。無発酵のパンを焼く。チーズは乾燥していたがまだあったので、火で炙ってパンにのせる。濃い緑色のオリーブオイルの一番搾りをパンに付けて食べればいいだろう。オアシスの村から買ったデーツとナッツがまだあった。砂漠の旅なのだ。贅沢は言っていられない。
両脚を踏ん張ってスゴイ格好でポレンタをかき混ぜる。火が通ってくるとポレンタは粘度が増すので力がいるのだ。少なくても、念動力で鍋を押さえているのでいいけど、普通だったら一人じゃできないわよ。
ソフィアとジュリアが来た。「絵美様、誰かにやらせましょう。第1夫人がみっともないです!」とジュリアが言う。「みんなの分のポレンタを作りたいのよ。いいじゃない!」「いえ、ちょっとご相談がありますので・・・」と通りかかったベルベル人の女の子の奴隷二人を呼び寄せて交代させられた。自分で料理する自由がないのよねえ。
焚き火から少し離れて、ソフィアとジュリアと一緒に座った。
「オアシスの村で買った女の子8人、男の子10人の件ですが、リーダーをそれぞれ決めました。そのリーダーをアルシノエの下につけました。それで、今まで3日間、セックスを禁じていましたけど、スフィンクスまで後3日。マンディーサ、キキと相手が決まった2人を除いて、相手のいない空き家は、女奴隷3人、娼婦2人だけです。ピティアスの手下も溜まってますので、ベルベル人の子供たちにも相手をさせたいんですけど、いかがでしょうか?」
「ピティアスの手下は23人よね?相手のできたムスカ、ジャバリと他2人を除いて19人。女奴隷3人、娼婦2人じゃあ足りないわね?いいんじゃないの?」だんだん、20世紀の倫理観が薄れていってしまう。「彼らも金貨百枚の前渡金をムラーが払っているからお金はあるでしょ?ベルベル人の子供たちもお小遣いが欲しいだろうし、一律銀貨5枚(約1万円)で後腐れなしじゃあどうかしら?子供たちに売り物の皮財布を上げて頂戴。お金をしまう物がないと困るでしょ」
1アウレウス金貨 約5万円、デナリウス銀貨25枚
1デナリウス銀貨 1デナリウス銀貨=2千円
=4セステルティウス青銅貨 1セステルティウス青銅貨=約500円
=16アス銅貨 1アス銅貨=約125円
「私とジュリアもそのぐらいを考えていました。手下の半数は見張りにつけておいて、交代でするのでいいでしょうか?」
「アオ姦じゃあ、砂がねえ・・・」
「ハイ?アオ姦?なんですか、それ?」とソフィア。
「いや、未来の言葉。気にしないでね・・・大テントの女たちは外で寝ることにして、手下たちに大テントを使ってもらいましょうか?別にアオ姦でいいんなら外ですればいいけど・・・」
「まったく、未来の女性は親切ですね?」
「親切にすれば厳しくするよりも忠誠心が生まれるのよ。つけあがらない程度で」
「なるほど」
「だけど、やったらベトベトになっちゃうわよね?」
「体を洗う水なんてありませんよ」
「あ!いい考えがある!イシスを呼んで」
イシスが来た。
「イシス、ちょうどいい訓練よ。両手をかざして、砂漠の地下の水の気配を探して」
「え?こんな場所に水?砂漠ですよ?」
「地下水脈というのがあるのよ。流れる水があるというイメージを持って。さ、やってみて」
「うまくできません」
「最初からは無理かな?」
私は彼女を後ろから抱きしめて彼女の手に私の手を添えた。彼女の意識に入り込む。イメージを彼女の意識に伝える。イシスを押して歩き回った。近いわね?わかる?ええ、なにか感じます。もう後3歩。ここよ。じゃあ、真下に手を向けて。飛ぶ時みたいに自分の周囲の空気を遮断する。そうそう。そうしないと自分の出す熱で焼け焦げるわよ。念動波を出して。赤外線の波長をかぶせる。砂が溶けていくでしょ?・・・2メートル、4メートル・・・15メートル・・・23メートル・・・よし、そこまで。
熱線が水脈に触れて、井戸から水蒸気が立ち上った。
じゃあ、次は浴槽を作りましょう。飛んで。井戸を掘ったと同じ要領で、10 x 10メートルくらいの浴槽を砂を溶かして作りましょう。うまいわね?いいわよ。
次に井戸から水を汲み上げて、浴槽に移す。竜巻みたいに水流をコントロールして・・・そうそう。
「よくできたわ」とイシスの頭をなでた。
「次からは一人でもできそうです」
「次は、大スフィンクスの地下にトンネルを作る時だわ」
みんなが集まって来た。ベルベル人の子供たちは唖然として見ていた。子供たちに見せておくのもいいだろうと思った。私たちと一緒なら安全だと思ってくれるといい。
ジュリアとソフィアが浴槽をのぞいている。「やることが派手ですね。でも、みんな喜ぶでしょう。セックスしても水が浴びられるんですもの」とジュリア。「じゃあ、ベルベル人の女の子たちに避妊薬の『シルフィウム』を飲ませておきましょう。媚薬の効果もあるので、処女の子も感じるかもしれません」
「処女は何人?」とジュリアに聞いた。
「4人が処女です。経験済みの子は、父親や兄弟とやってます。ああいう閉鎖的な村にはありがちですね。早い子だと12才くらいで誰の子かわからない赤ん坊を産むそうです。あまり感心しませんね。旦那様も言うように、12才以下の子はセックスさせてはいけません。15才以下の子が妊娠するのもよくないですね。不幸になる子が多いです。男の子も半分は童貞です。包茎や半包茎もいたので皮を剥いておきました。不潔になりますから」
「奴隷頭ってやることが多いのねえ。包茎や半包茎の皮剥きまでするなんて」
「白いカスの恥垢(ちこう)が溜まると臭います。性病にもかかりやすいんです」
「ねえ、ジュリア、男の子もやられちゃうの?どうやるんでしょ?」
「宦官のアブドゥラとパシレイオスに指導は任せてます。彼らの専門ですから」
「確かに!」
「アブドゥラが言うには、やられる時の前は節食して水分はあまり補給しないんです。それで浣腸をします」
「古代ローマに浣腸?」
「ハイ、薄い食塩水のぬるま湯を作って、注射器で肛門から入れて洗浄します。それでする時は一番搾りのオーリーブオイルをよく塗ってから挿入します」
「ジュリア、よく知っているわね?経験があるの?」
「・・・あの・・・アブドゥラに前からやられて・・・パシレイオスに後ろから犯されたことが何回か・・・」
「すごい!気持ちいいの?」
「・・・前と後ろのが、体の中で当たるんです・・・わ、私は好きです・・・奥様、そんな恥ずかしいことを聞かないで・・・」
「ふ~ん、ソフィアもやられちゃうの?」
「ソフィアは私と違ってドSですから、張り型でナルセス、アブドゥラ、パシレイオスを犯しながら彼らに射精させるのが好きなんですよ」
「みんな見ていないところでものすごいエッチなことをしてるんだ」
「絵美様とアイリス様はできませんね。ムラー様以外とすると、相手が死んだり、爆発してしまうんですもの」
「いや、私は残念とは思わないけど・・・」
「今度、張り型で試してみます?前と後ろと同時に?」
「遠慮しておきます。まったく、古代世界はエッチだわ」
ピティアスが寄ってきたので「ピティアス、あなた、アルシノエが娘だなんて言わなかったじゃないの?」と聞いた。
「そりゃあ、絵美様、ワシの娘だなんて最初から知られていたら特別扱いされますわい。娘に、侍女頭は自分の実力でなれ、と言っておいたんですよ。まあ、その結果、ムラー様に女にしていただいて、ワシは満足です」
「アルシノエは仕事もできるし聡明だから、あなたの娘とかは関係なく、重宝されたでしょうね。ところで、スフィンクスまであと3日、海賊グループの内、相手のいない人が19人いるけど、あぶれているのは女奴隷3人、娼婦2人だけ。だから、オアシスの村で買った女の子8人、男の子10人をガス抜きで相手させてもいいかなと思ってる。銀貨5枚均一。買われる方が拒否権あり。これでどうかしら?」
「手下共も喜びますわい。3日後に死ぬかもしれんのですから、最後の命の洗濯にちょうどいい」
「子供たちも小遣い稼ぎになるから。手下どもに言っておいてちょうだいね。女奴隷、娼婦、子供たちにはソフィアとジュリアから説明させます」
「わかりました。早速、手下どもにアナウンスいたしましょう。ところで、ムラー様を探しているんですが、どちらに?」
「哨戒に行ってくると行って、南の方に飛んでいっちゃたわ」
「なるほど。帰ってくるのを待ちましょう」
1時間ほどして、ムラーが意識のないホルスを一羽、肩に担いで空中から降りてきた。ホルスを捕獲できたの?私はムラーの傍に駆け寄った。
「絵美か。俺の側に来い。電波遮断域の中にはいれ。直径4メートルだ」
「電波遮断域?」
「ああ、半神半獣はAIの半自立型だが、遠隔操作の電波誘導もされている。この場所を発信されちゃあマズイからな。電波遮断域の中で細工をする」
「それでこいつをどうするつもり?」
「脳みその中の管制制御システムに侵入して、プログラムをちょっと書き換えてやる。俺たちのトリガーが命じれば、こっちに味方するようにしておく。それから、こいつの視覚を乗っ取る。そうすればこいつが見たものを俺も見えるってことだ。スパイさせるんだよ、クレオパトラのヤツラを」
「あなた、そんなことができるの?」
「知性体のプローブをなめちゃいけない。お前にだってできるはずだ。後で教えよう・・・よし、これでこいつは俺らの側ってことだ。じゃあ、こいつを放してくるからな」
ムラーがホルスを肩に乗せて水平線の向こうに飛んでいった。ホルス、アヌビス、トートなどの半神半獣は何羽、何匹いるんだろう?やつら相手は人間にやらせる訳にはいかない。手下たちはエジプト王国の兵士たちに対処してもらわないと。半神半獣は、ムラーか私か、アイリスかイシスじゃないと人間の損害が大きくなる。しかし、ムラーはクレオパトラが相手。
他に新手の敵はいないのかしら?クレオパトラ本体と半神半獣、人間の兵士だけとは思えない。
奴隷商人 Ⅹ
第53章 ●奴隷商人51
紀元前46年
砂漠行 5 【砂漠行12日目】 200+120キロ
ホルスを放つと言って飛んでいってしまったムラーはその晩帰って来なかった。翌日、出発の午前4時の1時間前に急に空中から飛び降りてきた。荷物を持っている。
「どこに行ってたのよ?心配するじゃない?」
「ああ、スマン。ちょっとアレキサンドリアの王宮に行って、あるものを盗んできたんだ」
「王宮?盗み?どうやって?」
「数百メートルならテレポートできるっていったろ?二回テレポートするとダメージが酷いけどな。人類の人体は脆弱だぜ。体を原子レベルで解体して再構成するから無理もないが。それで、王宮の外壁まで飛んでいって、そこから王宮にテレポートした。クレオパトラの寝室に忍び行って、やっこさんの衣装、かつら、装身具と化粧品をちょろまかしてきたのさ」
「クレオパトラの衣装、かつらと化粧品?」
「そうだ。二着盗んできた。おい、アイリスとイシスを呼んでこい。小テントで着替えさせよう」
アイリスとイシスが小テントに来た。「まあ!クレオパトラ女王の衣装だわ!」とイシスが驚いた。「どこからこんなものを!」
「まあ、いいから二人共着替えろ。クレオパトラがどんな化粧をして、どういう振る舞いでいたか思い出せ」とムラー。
ムラーの持ってきた衣装は、クレオパトラの好みそうなオリエント風だ。下着も持ってきている。高価な中国製のシルクの小さな胸帯と腰布だ。肩をおおう飾りがついた金の刺繍の施されたカラー(首飾り)、シルクのケープ、ウィッグ、アームバンド、ブレスレット、腰のクビレを強調するベルト、そして、大胆にスリットが入ったドレスだ。白と黒のドレスで、アイリスは白をイシスは黒を選んだ。ウィッグの上に額に黄金のコブラの象嵌され金の鎖が下がったヘッドバンド。
二人は「目周りのアイシャドウは上が青で下が緑だったかしら?」「もっと目が吊り上がって見えて、怖そうな感じだったわ」「口紅はベットリでしょ?」「胸は寄せて上げて胸元を前かがみになってわざと見せて男の気を引くのよね?いやらしい女!」「みてよ、このワンピースの横のスリット!腰まで割れてる。腰布が見えちゃうわ」「こんなにピッタリした衣装で、どうやって男根を隠していたんでしょうね?」などと言っている。
「できたわ!イシス、もっと偉そうに胸を反らすのよ」彼女たちはお互いをジッと見た。「クレオパトラ女王だわ!」
クレオパトラの衣装を着て化粧をしカツラをかぶったアイリスとイシスは、ティーンの女の子に見えなかった。まさに、絶世の美女に見えた。クレオパトラは今年24才のはずだ。6才年下のアイリスと7才年下のイシスは、彼女たちの年齢よりもずっと年上に見えた。クレオパトラを見たことがないが、二人共双子のようで、クレオパトラが二人ってことなの?色気がハンパない。これじゃあ、ジュリアス・シーザーもアントニウスも引っかかるわけだ。絶対に女の子の友達はできないタイプだわ。
「この格好で大スフィンクスに突入しよう。騙せるか騙せないか、少なくとも人間の兵士どもは混乱するはずだ」
「ムラー、ヨダレが垂れてるわよ!人間の兵士どもじゃなくて、あなたがもう惑わされてるじゃない!相手はティーンの女の子なんですからね!あれ?私の体もティーンの女の子だったわね」
「おい、これはたまらないな。失敗した!三着持ってきて、お前もこれを着て、クレオパトラで4Pやれば良かったぜ!」
「このドスケベ!」
「おい、アイリス、イシス、外に出てみんなに見せてみよう。クレオパトラの演技をするんだぞ!みんながどういう反応をするか見てみたい」
「ムラー様、了解です。ちょっと打合せします」とイシスと相談し始めた。やっぱり、言葉はエジプト語かしら?ピティアスの手下どもはわからないから、フェニキア語も同時に話す?イシスがエジプト語で言って、私がフェニキア語で追いかけて言うのでどう?我ら民草たちよ、なんて出だしで。
小テントを二人が出た。みんな集まってくる。エジプト人の中にはクレオパトラを見たことがある人間もいるのだろう。彼らがまず拝跪した。拝跪した人の近くの人たちもつられて拝跪していく。クレオパトラを知らないフェニキア人たちもあわてて拝跪した。群集心理なの?宗教って怖いわ。だけど、アイリス、イシスの自然なオーラはさすがに王朝の血を引くもの。いつもの可愛い二人の姿は微塵もない。
「我ら民草たちよ、わらわはクレオパトラ、真のクレオパトラ。今の女王は偽りの者。地上の小さなアトラスたちよ、兵士のなかの鏡よ、わらわはイシスの血を受け継ぐもの、イシス神に賭けて偽りの女王の歯をへし折り、滅ぼしてくれる。闘いの日は近い。民草たちよ、わらわに従え!」とエジプト語でイシスが、追唱してフェニキア語でアイリスが叫び、両手を突き出した。
「な?絵美、いつものアイリス、イシスを知っている俺達の仲間でもこうなる。スフィンクスの警護をしている王国の兵士にだって多少の効き目はあるだろう?」
「これが宗教の力なの?」
「カリスマの存在が大きい。クレオパトラ7世はあまり大衆に身を晒すことはない。アイリス、イシスは今まで身近にいた存在だが、彼女らがオーラを放ち、カリスマになったということだ。おまけに空を飛んだり、砂漠をうがって浴槽を作ったり。奇跡を見せた。何かを信じる人類は強いってわけさ。かと言って、半神半獣に勝てるわけじゃない。せいぜい、圧倒的な人数の王国の兵士相手に効果があるってことだ」
登場人物
ムラー :フェニキア人奴隷商人、知性体アルファのプローブユニット
森絵美 :知性体ベータに連れられて第2に来た第4の21世紀日本人女性、
人類型知性体
エミー :黒海東岸のアディゲ人の族長の娘、巫女長
絵美/エミー :知性体の絵美に憑依された合体人格
アイリス :エジプト王家の娘、クレオパトラの異母妹、
知性体ベータの断片を持つ
ペトラ :エジプト王家の娘、クレオパトラの異母妹、アイリスの姉、
将来のペテロの妻、マリアの母
ペテロ :ムラーの港の漁師
マンディーサ :アイリスの侍女
キキ :20才の年増の娼婦
ジャバリ :ピティアスの海賊の手下
ソフィア :ムラーのハレムの奴隷頭、エチオピア人
ジュリア :ムラーのハレムの奴隷頭、ギリシャ人
ナルセス :ムラーのハレムの宦官長
アブドゥラ :ムラーのハレムの宦官長
パシレイオス :ムラーのハレムの宦官奴隷、エチオピア人
アルシノエ :アイリスたちの侍女頭
ピティアス :ムラーの手下の海賊の親玉
ムスカ :ムラーの手下、ベルベル人、アイリスに好意を持つ
クレオパトラ7世:エジプト女王、知性体ベータのプローブユニット
アヌビス :ジャッカル頭の半神半獣、クレオパトラの創造生物
トート :トキの頭の知恵の神の半神半獣、クレオパトラの創造生物
ホルス :隼の頭の守護神の半神半獣、クレオパトラの創造生物
イシス :エジプト王家の娘、クレオパトラの従姉妹
アフロダイテ号 :大スフィンクス攻撃のためのムラーの指揮するコルビタ船
アルテミス号 :大スフィンクス攻撃のためのピティアスの指揮するコルビタ船
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