エレーナ少佐のサドガシマ作戦(16)
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(16)
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(11)~(15)
●トップ会談
ガメラレーダーサイト、分屯基地、東京首相官邸、ウラジオストック東部軍管区本営の四極のミーティングが開始された。
レーダーサイトからは、エレーナ少佐、鈴木三佐、南禅二佐、羽生二佐が、分屯基地からは、ロシア軍総司令のウラジミール中佐、百田佐渡ヶ島基地司令が、首相官邸からは、首相、防衛大臣が、そして、ウラジオストック東部軍管区本営からは、ロシア東部軍管区総司令官ジトコ大将が参加した。
首相は、最初、なぜ防衛装備庁の制服組の二佐が2名、佐渡にいるのか、開発中で試作品のレールガンが佐渡にあるのか、不審に思った。事前に百田佐渡ヶ島基地司令、幕僚長から説明を受けていた防衛大臣が、私の越権で派遣しました、申し訳ないと謝罪したから、この話は済んだ。
南禅、羽生の独断専行にせよ、今、佐渡ヶ島にレールガンがあるのは不幸中の幸いだ。それで、首都圏、大都市への北の攻撃が防げるかもしれない。そういう大所を見据えた判断ができないのが、この首相だなあ。首都圏防衛の会議が懲罰議論になりかねないのが、この統制ばかり考える男の欠点だよ。俺も早く内閣から離れようか、と防衛大臣は思った。
「これは突拍子もない作戦だ。いや、戦略かな。うまくいけば首都圏防衛は可能だ」と首相。手持ちの戦備を説明したので、レールガンが佐渡にある戦術的な意味を多少は理解したようだ。
「首相、うまくいけばの話です。ミサイルが迎撃できなければ何も生まれません。まだ北が弾道ミサイル、滑空ミサイルを何発撃ってくるのか、どれが通常弾頭でどれが核なのか、高高度爆発による電磁パルス攻撃なのか、わかりません。しかも、在日米軍は、中国の台湾領太平島攻撃に対応するために第7艦隊、イージス艦が出払っています。自衛隊もイージスを尖閣諸島方面に派遣せざるを得ません」と南禅二佐が釘を差した。まだ、タラレバの作戦計画なのだ。
南禅が「日本海に残ったイージス艦は二隻のみです。このイージスのSM-3と首都圏、関西圏のPAC-3、佐渡のSM-3で対処せざるを得ません。PAC-3も6ヶ所の高射群のみ。できるだけ弾道ミサイルはSM-3で迎撃しないと、PAC-3では手薄です」と日本の手駒を首相に思い出させた。
防衛大臣が「南禅くんの言うとおりだ。首相、さらに、普通のロフテッド軌道をとる弾道ミサイルの他に、北朝鮮が火星8号に搭載して実験したような極超音速滑空ミサイルが彼らにはあります。イージス艦のSPY-1レーダーでも探知は難しい。佐渡のガメラレーダーが重要です。統合BMD(ミサイル防衛)システムに佐渡のレーダーのデータは欠かせません。それを潰されたら、日本本土のミサイル防衛力が弱くなります。だから、まず奴らは必ず佐渡のレーダーを潰しに来るに違いありません。南禅くん、羽生くん、極超音速滑空ミサイルの説明ができるかね?」と南禅、羽生に聞いた。
「大臣、私が説明しましょう」と羽生が答えた。「まず、いろいろな呼称がありますが、北朝鮮のものは、HGV(Hypersonic Glide Vehicle)と呼ばれています。ビデオがあります。これを御覧ください。北朝鮮のHGVはこのビデオと異なり、保護カバーのフェアリングなしで、火星15号などに直接装着して発射するでしょう。中国のブースターのDF-17に滑空弾のDF-ZFをくっつけたようなものです」
「ロシアのものを中国がパクって、それを北朝鮮がパクったと思われます。ですので、誘導システムはロシア製を使っているかもしれない。テレビで放映されるこのような弾道ミサイルではありません」
「この写真の方です。このように火星15号のようなブースターの先端にHGVを装着します」
「HGV本体はこのような形状です」
「HGVは、このような軌道をとります」
「①の状態であれば、PAC-3が有効でしょう。しかし、首都圏と違って、そもそも佐渡にPAC-3はありません。佐渡にあるロシア軍のS-400で対処する他ありません」
「②の状態になると高度が落ちます。水平軌道に移りますので、ここでレールガンで叩きたい。レーダーサイトの有る妙見山は標高1,042メートル。S-400システムも2セット設置してあります」
「この図のように高度が18~20キロならS-400は非常に有効です。しかし、もしも、高度が10キロ以下だとS-400でもキツくなってきます。そうなると、レールガンで対処する他ありません」
「そして、最後にジャンプ軌道を取る③の状態になります。こうなると、まったく対処できません」
「私の私見ですが、北朝鮮は、原子力発電所攻撃にはスカッドか弾道ミサイルを使ってくるはずです。通常弾頭なのか、戦術核を使うのか。戦術核だったら、高高度爆発を起こさせての電磁パルス攻撃でしょう。日本の原発よりも韓国の原発への攻撃の可能性が高いと思います。特に、韓国西岸。原発がメルトダウンすれば、風の向きによって、韓国南部の在韓米軍は日本へ退避せざるを得ません。韓国のTHAADミサイルで対処できればいいですが」
「首都圏、関西圏への攻撃は、核弾頭ミサイル。通常弾頭搭載のダミーも含んでいるでしょう。こっちのミサイルのの手玉をできるだけ減らすために。極超音速滑空ミサイル(HGV)を使ってくる可能性もあります。佐渡に対しては、HGVの可能性が高い。できるだけレールガンで対処します。佐渡のイージスアショアのSM-3とS-400は、HGVと本土を標的とした弾道ミサイルに対処します。佐渡よりも本土が重要ですから」
「見通しは明るくないな。防衛大臣、日本のBMD(ミサイル防衛)システムの見直しが喫緊の課題だな。穴ばかりだ。専守防衛などと言っているが、専守防衛すらできていない。先制攻撃可能な抑止力があれば多少はこのBMDの不備も補えるが、先制攻撃能力もない。抑止力なし、専守防衛不備、どうしようもない」
「今回の事態で、立憲民主党、共産党、社民党も邪魔ばかりしないで目を開いてくれればいいのだが。どうも、彼らは『自分の見たい現実しか見ない』視力しか持ち合わせていない」
「愚痴を言っても始まらん。さて、作戦名を決めねばならないですね」と防衛大臣。
「今までの東部軍管区の作戦名が『サドガシマ作戦』で、これまでが『表』だとすると、『裏サドガシマ作戦』かね?」と首相。
すると、南禅が「首相、大臣、ジトコ大将、意見具申」と手をあげる。大臣が「二佐、言ってみたまえ」と許可した。
「今作戦で重要な部分を立案したのは、エレーナ少佐であります・・・鈴木三佐もそうですが。よって、作戦名は『エレーナ少佐のサドガシマ作戦、Majar Elena's Operation Sadogashima』でいかがでありましょうか?」
「ふむ、響きがいい。首相、どうでしょう?」と大臣。首相は「気に入りました。作戦名は『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』でいいでしょう。ジトコ大将、いかがでしょうか?」とジトコに聞いた。
「私は、私の娘の名前だからね、日本国が良ければ結構です。賛成いたします。親の贔屓じゃありませんよ。誤解なきように」
「しかし、突拍子もない作戦ですね?首相」と大臣。
「信じられん。しかし、本土防衛、佐渡ヶ島防衛で妥当性の有る唯一の作戦だ。さらに、防衛に成功すれば、世界に激震が走りそうだ。憲法改正、国民投票が絶対に必要だ。アメリカ合衆国、欧州諸国、アジア諸国との摺合せも必要だ。パワーバランスが変わる」と首相。
「それだけではありません。国連安全保障理事会常任理事国のメンバーも変わりますぞ、首相」とジトコ。
「うん?大将、どういう・・・あ!1971年のアルバニア決議ですね?それと似たことが・・・」
※1971年のアルバニア決議(1971年10月25日に採択された第26回国際連合総会2758号決議。「国際連合における中華人民共和国の合法的権利の回復」を指す。これにより、中華民国は国連安保理常任理事国の座を失い、中華人民共和国が国連安保理常任理事国と見なされた)
「首相、それだけではありません。もし、この作戦の政体になると、日本はどうなります?」
「え?あ!そうですな、そうなりますな」日本が国連安全保障理事会常任理事国のメンバーになるってことか?
「貴国と我々にとって、悪い話ではありますまい?」
「同感です」
レーダーサイト、分屯基地、東京首相官邸、ウラジオストック東部軍管区本営の四極のミーティングが終了した。エレーナと鈴木が佐渡ヶ島と本土防衛の作戦を、ジトコ大将が戦略案を説明した。些末な点での修正はあったが、ほぼ原案通り採用された。
レーダーサイト、分屯基地、東京首相官邸、ウラジオストック東部軍管区本営の四極のミーティングが終了した。些末な点での修正はあったが、ほぼ原案通り採用された。
ジトコがウラジミール中佐に「作戦案を一時間以内にまとめさせて、私に直接提出するように。私から参謀本部と日本の幕僚部などの了解を取り付ける」と指示、首相も防衛大臣に同様の指示を行い、大臣から百田基地司令に指示が下った。(首相は自衛隊最高司令官であるが、自衛隊の指揮監督権は防衛大臣にある)
実際の作戦案の作成はエレーナと鈴木三佐、南禅・羽生二佐なのだが。
目次
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(1)~(5)
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(1)
●ロシア連邦軍、東部軍管区司令室
●女性軍人ハニートラップ作戦
●侵攻前夜、サドガシマ作戦、人員配置
●女性兵士の任務の意図
●アデルマン大尉の欲求不満
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(2)
●改造型イリューシン-32、グライダー
●日本人との性行為も含まれるのでありますか?何人とでも?
●お尻を突き出しますから、大尉がバチンバチン叩いて下さい
●大尉、この姿勢って、ベッドの上では無理ですわ
●私が受けで、大尉が攻め、というのも無理
●私もやってもらったら絶対に漏らしますよ!
●すごい機械だ。私も欲しい
●大尉もアニーも気が遠くなる
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(3)
●佐渡ヶ島落下傘降下
●佐渡ヶ島空自分屯基地制圧
●佐渡市立両津中学校収容所
●両津中学校、職員室1
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(4)
●両津中学校、職員室2
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(5)
●両津中学校、職員室3
●両津中学校、校庭のテント宿舎
●校長室のエレーナのオフィス
●校庭のキャンティーン、アニーとヒロシ
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(6)~(10)
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(6)
●両津港、佐渡ヶ島からのテレビ中継
●アデルマン大尉にレクチャー
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(7)
●大和民族から想像するようなウクライナ人、ロシア人はいない
●北朝鮮、中国、ロシア連邦の多方面侵攻
●アデルマンと小野1
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(8)
●アデルマンと小野2
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(9)
●アデルマンと小野3
●北朝鮮人民解放軍、朝鮮半島への南進
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(10)
●レールガン、佐渡分屯基地
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(11)~(15)
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(11)
●レールガン、レーダーサイト
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(12)
●レーダーサイト、変電所1
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(13)
●レーダーサイト、変電所2
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(14)
●エレーナ、鈴木とウラジミール中佐
●藝術学院、ロシア軍本部
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(15)
●佐渡市立両津中学校収容所の取材クルー
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(16)
●トップ会談
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(17)
●腹が減っては戦はできぬ
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(18)
●最後の晩餐、レーダサイト
●取材クルー、レーダーサイトの大会議室
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(19)
●北、攻撃開始、レーダー管制室
●北、韓国原発攻撃、レーダー管制室
●北、第一撃弾道弾、レーダー管制室
●取材クルー、レーダー管制室
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(20)
●エレーナの状況説明、レーダー管制室
●北、第二撃弾道弾、レーダー管制室
●エレーナの決断、レーダー管制室
●北、第二撃弾道弾防衛、レーダー管制室
●佐々木のモノローグ、レーダー管制棟トイレ
登登場人物
●東ロシア共和国
エレーナ :東ロシア共和国、東部軍管区陸軍少佐
アデルマン :東ロシア共和国、東部軍管区陸軍大尉
アナスタシア :東ロシア共和国、東部軍管区陸軍少尉
アニータ :東ロシア共和国、東部軍管区陸軍准尉
スヴェトラーナ:東ロシア共和国、東部軍管区陸軍准尉
土屋と本間 :佐渡ヶ島島民、アニータとスヴェトラーナの夫
ソーニャ :東ロシア共和国、東部軍管区陸軍准尉、
コリアン族(朝鮮族)のロシア人、
広瀬二尉の婚約者
カテリーナ :東ロシア共和国、東部軍管区陸軍伍長
●自衛隊佐渡ヶ島空自分屯基地
鈴木三佐 :航空自衛隊二等空佐、エレーナ少佐の婚約者
小野一尉 :航空自衛隊一等空尉、アデルマン大尉の婚約者
南禅久美子 :航空自衛隊二等空佐、防衛省防衛装備庁航空装備研究所
所属、尾崎・遠藤の同僚
羽生健太 :航空自衛隊二等空佐、防衛省防衛装備庁航空装備研究所
所属、尾崎・遠藤の同僚
●自衛隊南西諸島守備統合部隊
紺野美千留 :航空自衛隊三等空佐、自衛隊情報保全隊調査第2部、
内閣情報調査室出向、統合部隊指揮官
富田 :公安警察、沖縄県の親中国反日本活動の調査担当、
紺野とチームを組む
卜井、藤田、佐々木:佐渡ヶ島作戦からのマスコミクルー
●自衛隊、先島諸島防衛水陸機動団
広瀬二尉 :東ロシア輸送船団に同乗する陸自水陸機動団の指揮官、
ソーニャ准尉の婚約者
畠山三佐 :鈴木の同期、水陸機動団指揮官、広瀬二尉の上司
尾崎紀世彦:防衛省防衛装備庁航空装備研究所上級技師、ミノルの上司
比嘉美香 :尾崎の恋人。石垣島出身の建築設計事務所勤務
遠藤実 :尾崎の部下。防衛省防衛装備庁航空装備研究所技師
遠藤早紀江:遠藤実の婚約者、高校3年生
時任純子 :氷川神社の娘、長女
時任直子 :氷川神社の娘、次女
吉川公美子:小料理屋分銅屋の女将さん
後藤順子 :高校3年生で傷害事件で中退、分銅屋のアルバイト
節子 :高校2年生、分銅屋のアルバイト
田中美久 :北千住の不動産屋の娘、元ヤン。大学1年生
●中華人民共和国、人民解放軍
楊欣怡少校:ヤン・シンイー、人民解放軍海軍所属、在日中国大使館武官
金容洙少尉:キム・ヨンス、人民解放軍海軍所属、日露のスパイ
●中華民国
蔡英文 :中華民国総統
陳寶餘陸軍大将:中華民国国防部参謀本部参謀総長
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