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虚構を吐き出す機構 ― Alan Wake II「レイクハウス」

本記事は『Alan Wake II』の全コンテンツとRemedy Entertainmentの過去作のネタバレが含まれています。

補遺

そう明記され、開始する「レイクハウス」は、
『Alan Wake II』最後の追加コンテンツ。

本題に入る前に少し時間は遡り。

『最後の草稿』がアップデートで追加された際、本編のエンディングが変わったのですが、これは結局どういう意味だったのでしょう。
アラン・ウェイクは作家でパラユーティリタリアン(超ざっくり言うと超能力者)なものの、好き勝手なんでも書いていいわけではなく。

むしろホラー小説ならホラー小説らしい展開を求められ、それを「闇」が受け入れた場合、やっと現実になるという制約つき。
この『「闇」が受け入れた場合』というところが結構ミソで、判断材料に我々プレイヤーも利用されている節があります。

一周目時点で「簡単すぎるか?」と言い残して終わるエンディングを我々プレイヤー(そして「闇」)が受け入れた結果、
二周目にあたる『最後の草稿』で螺旋の先の、希望が見える終わり方を許されたわけです。

こういった受け手と書き手の関係性に重きを置くからこそ、《最後の草稿》は絶対に発売後追加される形を取らなきゃいけなかったし、
今回の《補遺》という表記も、恐らく似たようなことをしてきていると思っていい気がします。

補遺とは、書きそびれたことを、あとから拾って補うこと。

本編のチャプター6「スクラッチ」でレイクハウスで何が起きたか、
サーガとしてエステべスに聞くことができるのですが、今回のこのDLCはそこから派生した回想という形をとっています。
(二周目以降はこのチャプターでマーモントに関するページも取得可能)

しかもアップデートによって、本編中のその会話から「レイクハウス」へと飛べる仕様に。
ゲームとそれを更新すること、そしてそれがちゃんと《補遺》として成り立っていること。

そのフィクションとしての構造を徹底することが、
本DLCのテーマを引き立たせているように思います。

芸術家たち

コールドロンレイクは、古くから芸術家たちの作品を利用し、
魔力として取り込もうとしてきた場所です。

異常事態が発生したとき、
操作局は二人の芸術家を研究していました。

一人は作家のアラン・ウェイク。そしてもう一人は画家のルドルフ・レーン。

ルドルフは「私は空っぽだ もう描けない」と言うところまで追い詰められ、
アランは闇の世界を彷徨いながら、脱出方法を探り、執筆を続ける。

どちらも壁にぶつかりながらも、創作し続けなければならないという状況下で、
芸術作品を無理やり生み出すことの難解さと戦うことになるわけです。

この、『芸術は苦悩なくして作り上げられない』というのが
今回の「レイクハウス」の根にあるテーマかな、と思います。

アートと模倣

パラユーティリタリアンとコールドロンレイクを利用しようと、
レイクハウスは無理やりアートを作り続けようとします。

薬漬けにさせられたルドルフは絵が抽象的になりすぎて、
操作局が解析不能になるまで。

一方アランの場合は、自動タイピング装置が
彼の作風、雰囲気、文体、内容を模倣しようとキーを鳴らし続けます。

吐き出された文章を校正し、また装置に取り込ませ、
そうして出された文字たちをまた取り込む。
この作業の繰り返しでアランの文に近づこうとします。

完璧にコピーできたとき、アランの現実を捻じ曲げるという能力を
操作局が模倣できるだろう、という前提で進められている研究なのですが……。

いやいやいや、無理でしょ。

あくまでパラユーティリタアンであるアランが書いたものだから力を宿す、という前提は恐らく覆らない。
本当パワーオブジェクトやらも監禁出来ると思ってる操作局らしいなと。

感情の数値化を試みたりしてる辺りも、アートを理解しきれていないのだな、と。
そして理解するために、分析のほうを強化して空回りするのだろうな。

インクやタイプライターの会社のほうを気にしてたくらいですからね。
そこじゃないんだよなぁ……。

原稿と絵

アラン・ウェイクは自身の原稿で、絵がレイクハウスとコールドロンレイクのスレッショルドを繋げたことを暗示しています。

何故、文章自体が繋ぐ鍵ではなかったのか。
これがやはり今回の一番の謎なのかな、なんて思っています。

薬漬けになってどんどん抽象的になっていった絵に対し、
文章は細部までを示すことが出来る。このことは何度か明示されています。

ならばレイクハウスとコールドロンレイクを直接文で繋げることが出来たはず。
でもそれは「簡単すぎる」のです。

このDLCでは何度も"亀裂"というキーワードが出てきます。

マーモント夫妻の仲が悪くなっていき、レイクハウスに亀裂が入り、
そこから水が流れる、はずだったのですが。

その後発見される原稿で「湖は入ったものの、水は流れなかった。」とあるように、
湖は洗い流せない重みとなって、結果として闇だけを招き入れたように思います。

夫婦がそれぞれアラン自身とルドルフを担当すると分かっていた。
そしてルドルフの絵は抽象的になっていったから、自分の文を経由して、研究の成功を導いた。

成功してスレッショルドの繋がりは確立できたものの、
意図していなかったのがそれをどうやって闇が利用してくるか、だったのではないかなと思います。

アランはもしかしたらスレッショルドを経由して抜け出せる、なんて思っていたのかも。
レイクハウス内で原稿が突如具現化したり消失したりしたのも、恐らくアラン側というよりかは闇側の仕業な気がしますし。
(これによって夫妻の仲の悪さが加速したので、どちらも怪しいけど強いて言うなら)

この辺りは点と点をこちらが繋げるのしかないのかな。

『2』

レイクハウスでのこの事件の最大の功績は「エステべスを物語に引き込んだ」ことだと思っています。
ただのFBC局員だった彼女は、本編ではキーパーソンとなっていました。

サーガの力を借りたように、エステべスもアランが一旦の勝利を収めるには必要な存在だったはず。
今回のこの事件はやっぱりあくまで今後続くであろう物語に、いかに自然にキャラクターを導入するか、というのが重要視されていたのかな。

《闇の納得》と《プレイヤーの納得》をイコールで繋いでいいであろうことは『最後の草稿』が示唆していますしね。

で、ディランですよね。気になるのは。
「レイクハウス」の冒頭の資料で、本部との連絡は4年間もついていないことが判明します。

『CONTROL』の「AWE」の最後にコールドロンレイクから警告が来ていたのが、ここにきてやっと納得いくようになりました。
「日付が間違ってるんだ」と言っていたのも、オールデスト・ハウス内と外での時間の流れがずれていたからなような気がします。
「レイクハウス」の前はコールドロンレイクが未来から信号を飛ばしてるのかな、なんて思っていたのですが4年も連絡がついていないのなら逆でしょうね。
『CONTROL』が(もっと言うならばDLCのストーリーが)外界からは過去に取り残されてる状態でしょう。

オーシャンビューが時空の交差点であることは、Remedy作品をプレイしてきた方なら分かると思いますが
今回は様子が少し違って、ロビーもドアのシンボルもありません。あるのは『CONTROL 2』を示すシンボルが書かれたドアだけ。

このシンボルは『CONTROL』の時点でmotel_door_symbol_control2_a.texというファイル名だった

そしてその先にはディランが――横たわるディランにジェシーが手をかざしたときあとに見える光景の姿で登場します。
あのときのジェシーは未来を見ていたのか、それともいくつか存在するディランたちの中でエステべスが辿り着く先にいた彼を見ていたのか。
「何を」かは今はまだはっきりしませんが、ディランは恐らく何かを食い止めていたのでしょう。(ヒスに負ける気がしないので、別の存在?)

「ジェシーに言ってくれ 努力したと」と言って映し出されるのは、何かに侵食されるニューヨーク。
しかし『Alan Wake II』本編では特にエステべスや他の者からも言及がないことから、ここでも同期ずれが起きてる気がします。
更に未来、言ってしまえば『CONTROL 2』のオープニングに近い、まだ先の話を覗き見てるようなイメージ。
レイクハウスに帰ってきたエステべスが「何か違う気がした」と言っていたのも、これを示唆しているように思えます。

時間の流れが遅そうだったり、恐らく未来が見えていたり。

そういったずれが起きているから、恐らくオーシャンビューも変なことになっていたのではないかな。

今回のDLC、もとい拡張パックは短めで、ゲームプレイ自体は本編とあまり変わらない感じでしたが、
『Alan Wake』と『CONTROL』の世界は今後更に交差していく感じがしてわくわくしますね。

『CONTROL』発売時はここまでがっつり繋がっていくとは思っていませんでしたが、
ここから更に広がっていきそうですね。

ほぼ覚え書きというか、自分の考えをまとめたかっただけというか、そういう目的の文でしたが、
プレイした方があれこれ考えるきっかけになったらいいなと思いながら、今回は去りたいと思います。

『CONTROL 2』が出たらまたお付き合いください。
ではでは。

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