特別支援学校は性風俗産業や危険作業や反社の夢を見るか?
結論から言うとインターネットで話題になりがちな「特別支援学校には性風俗産業のスカウトが来る」「卒業後が行先がなく性風俗やパパ活に流れる女性も多い」「男性は過酷な肉体労働や反社に行く」的な言説は全てデマと断言出来る。何故なら特別支援学校は地域の企業や施設と連携してる事が多く、彼等が失業後に食いぱっぐれる事がないよう必死に行先を探すからだ。こうした教員・生徒の努力もあり、令和2年の文部科学省調査では生徒の95%以上は卒業後の進路が決まっている。
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また就職先は「男性は過酷な肉体労働に行く」というネットに声に反して「生産工程従事者」「運搬・清掃等従事者」「サービス職業従事者」が多いのが現実だ。
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ここで「性風俗産業に従事してる方はサービス職として計算されるのではないか?」と粘る方もいるだろうが、文科省の定義する就職者は「自営業主等」「無期雇用労働者」 「有期雇用労働者のうち雇用契約期間が一年以上、かつフルタイム勤務相当の者」を指し、個人事業主となる性風俗産業従事は就職者とは扱われない。
また職業別就職者を見れば分かる通り、大多数は主に軽作業に従事する事になる。何故そうなるか?は端的に言えば「障害者を労災リスクの高いタスクにつける事は危険性が高く、また何か起きた時に責任を厳しく追及される事が予想される」からだ。特別支援学校生は過酷な肉体労働に従事する…という言説を支持してる方は1度冷静になって考えて欲しい。働き方改革やハラスメント等に五月蠅い令和の世において「障害者に危険な作業をさせて怪我させました」「障害者を長時間労働させて心身不調にさせました」という事態が発生したら、それがどのように受け止められるのか?
最もこれは特別支援学校に通うような障害当事者は危険な作業に従事出来ないことは意味しない。例えば鳥取県にある「松田安鐵工所」では知的障害者が鋳造という高い労災リスクと高い技能が要求される作業の全てを1貫して担当している。勿論これは極稀な事例であり、この会社の方法論に汎用性は残念ながら殆どない。何故なら、この会社は鋳造において最も労災リスクが高い注湯…鋳型に高熱で溶解した鉄を流し込む作業は社長自らが先頭に立ち、障害者達の行う作業を見守るという方式をとっているからだ。これは少数規模の会社かつ社長にやる気と責任感がないと実現出来ず、普通の会社にはハードルが高い営為である。このように障害当事者は過酷なタスクが出来ないわけではないにせよ、そこで発生しうる労災リスクや責任問題に関してはまだまだ課題が多いと言わざるを得ないのだ。
そしてインターネットでよく言われるのが「性風俗産業と知的障害」の問題だ。これに関しては実際セックスワーカーには知的障害の診断漏れが多い的な研究等はある。またXを少し見れば「?」となるようなポストをしている性風俗産業従事者・パパ活・他売春婦アカウントが沢山あることも否定しようがない。しかし誤解しないで欲しいのは、あくまでそれは「診断漏れ」であり幼少期から障害に気付かれ、特別支援学校に通うような当事者には当てはまらない話ということだ。
更にそもそも論から言えば「知的障害者は働けず社会の受け皿がない」という前提自体が間違えだ。全国の知的障害者の就職率は平成15年から平成29年にかけて22.4%→32.9%と伸びており、彼等を取り巻く状況は比較的改善傾向にある。こうした改善には幾つもの要因があるが、1番大きな原因としては東京都特別支援教育推進計画だろう。これは東京都が障害者が食いぱっぐれないよう、それぞれの特性にあわせて職業教育を充実させてく計画であり、他の都道府県もこれに追従して障害者支援を始め職業教育が職場定着支援のフィードバックをし合って今に至る。
また内閣府は障害者基本法を根拠に障害者計画として、障害者教育に関わる人間に対し次のような指針を打ち出している。
障害者が地域で自立した生活を送るためには就労が重要であり、働く意欲のある障害者がその適性に応じて能力を十分に発揮することができるよう、一般就労を希望する者にはできる限り一般就労ができるように、一般就労が困難である者には就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するように総合的な支援を推進する。あわせて、年金等の支給,経済的負担の軽減等により経済的自立を支援する
まとめれば早期から介入を受けていた知的障害者は現在なんとか自活出来る程度の境遇まで行っている。因みに「知的障害者は生活保護受給者が多い」というのもインターネットではお馴染みのデマだ。例えば障害等級2級の当事者だと雑計算で「障害基礎年金777800+障害年金生活者給付金60240+A型事業所平均賃金980000=1818040」と凡そ年180万円程度の収入があり、これに各種手当や支援を加えると慎ましくなら生活出来てしまう。良い悪いは別として現在日本では障害者には障害者用の人生とも言うべきものがあてがわれており、健常者と違って食いっぱぐれる心配がない代わりに進路選択の自由等がないのだ。
最もこれには「それで本当に足りるのか?」「地域によって違ってくるのではないか?」という論点は当然ある。更には「年180万で生活するより性風俗でそれより稼いで暮らす方が良いのではないか?」みたいな話もあるだろう。しかしながら上記言説はそれ以前の問題だ。とりあえず槍玉にあげた「特別支援学校には性風俗産業のスカウトが来る」「卒業後が行先がなく性風俗やパパ活に流れる女性も多い」「男性は過酷な肉体労働や反社に行く」みたいな言説は、「特別支援学校に通うような障害者は卒業後進路がある」「就職は大体軽作業が主になる」「何だかんだ慎ましく生活出来るだけの収入はある」という前提を知っていれば、絶対に出てこないものだ。
話はここで終わるが、余談として実際に中学まで特別支援だった私がミクロの体験談として実態を少しだけ語ろうと思う。
特別支援の生徒は往々にして「健常者恐怖症」とも言うべきものを発症する。発症理由は言う間でもなく、健常者から絶え間なく攻撃されるせいだ。彼等は外を歩くだけで健常者から冷たい目で見られヒソヒソと陰口を言われ、酷いになると半笑いでカメラを向けられる事も珍しくはない。もっと酷い事に直接的に小突かれたり殴られたりする事もある。私の通っていた学校の近くでは健常者が生徒の背中を叩いてはダッシュで逃げる遊びが流行っていた。
こうした嫌がらせは決して表に出る事はない。何故なら彼等は得てして「口下手」だからだ。例え被害を訴えたとしても、口の上手い健常者に言い様に言いくるめられ、下手すればこちらが加害者として扱われる事も少なくない。こうした経験により彼等は2つの対策を学ぶ。1つは常に大勢から注目を集め、監視カメラや(ある場所の)責任者を確認し健常者からの暴力を抑制するメソッドだ。多分健常者の方の中にも常にブツブツ言ったり、責任者に声をかけたり、大声で自分の行動を宣言する障害者の方を何度か目撃した事はあるはずだ。というか所謂「電車内で大き目な声を出して独り言をつぶやく」がそれである。あれは健常者恐怖症による過緊張が原因だ。そしてもう1つが「即時報復」である。要するに後で被害を訴えても受理されたり公平に裁かれる事は期待出来ないので、それならその場で報復する事が最適解となってしまうのだ。
これらは私の周囲の話であり客観的統計等は出せないが、障害当事者が性風俗産業や反社に行くことはないと思う理由の1つになっている。何故なら性風俗産業や売春にせよ、密室で知らぬ健常者と2人きりになる…なんて営為を健常者恐怖症の当事者が出来るわけがないからだ。これは相手が自分に危害を加えてこないこと、加えてきたとして逃げられること、何かあれば周囲が守ってくれること…を無邪気に信じられるが故の謂わば恵まれた者にしか出来ないことだ。反社も同様で「法や監視の目が無くても相手は自分を尊重してくれるはずだ」という恵まれた者独自の発想がないと、そんな集団にコミット出来るわけがない。こう言っては何だが、私にとっては「食いぱっぐれたから売春や反社をやる」というのは恵まれた人間の平和ボケの妄言にしか聞こえないのだ。