食い尽くし系の裏に潜む深刻な男性差別について

少し前からインターネットでは「食い尽くし系」という妖怪の目撃談が寄せられるようになった。曰くこの妖怪は家庭の食卓等に出没し、自分の分だけでなく家族の分の食料まで食い尽くしてしまうようである。この妖怪はwoman exciteに連載されていた漫画「家族の食事を食い尽くす夫が嫌だ…解決策は成功する!?/食い尽くし系夫」が2024年頃にXでバズり、それから相次いで目撃談が寄せられるようになった。

この妖怪の性別は主に男性だ。それもあってか妖怪の生態は男女問題に結び付けて語られる事も多く「幼少期から甘やかされてた男性が大人になっても~」と語られる事が非常に多い。彼女達の中では抑圧に囲まれて厳しく育てられる女性と違い、男性は特権に囲まれた社会の中で周囲に甘やかされながらノビノビと育っていることは常識だ。

勿論その常識が現実を反映してない事は私のnoteの読者ならご存じのはずだろう。そしてこの話は、そもそも論から言えば「それまで全く話題にならなかったのにバズった途端に1斉に体験談が寄せられるようになった」という点からして疑わしい。何故なら旦那デスノート等、24時間年中無休で旦那ないし男性の悪口を言うのが生き甲斐の方々が「家族の分まで食い尽くす傍若無人旦那」なんて美味しいネタがあれば、それを言わないはずはない。実際この手の現象はXでも頻繁に観測され、過去には「知り合いの強姦されて子宮破裂した女性」「女性を強姦しても野放しな知的障害者」「健常者と同等以上の運動能力で健常者を加害する奇跡のダウン症児」等のポストがバズる度、それを知ると自称する女性が1ダース単位で出現していたりする。

念の為、これらがありえない理由を説明すると「知り合いの強姦されて子宮破裂した女性」は1997年の三重県鈴鹿市で流行り、その度に実在が否定されてきたデマだ。「女性を強姦しても野放しな知的障害者」に関しても、ある種の障害者は刑事事件等において「心神喪失」が認定されたら、その時点で医療観察法により無罪でも不起訴でも期限のない強制入院措置になるので構造上存在しえない事例である。ダウン症児に関しては、私のポスト参照。

https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000902.pdf


https://x.com/Shanice79540635/status/1753169210208088071?t=u78DgLJJCzYedr7sGvoGBg&s=19

食い尽くし系もこうした嘘松若しくは誇張された例であると思うのだが、この話はコレで終わらせていい問題ではない。何故なら日本…というより先進国含む世界全般において男性が栄養失調ないし飢餓状態にある事が明らかになっているからだ。

まず日本人の平均身長は低下傾向が続いている。国立成育医療研究センターの調査では1969-2014年に生まれた児の出生時の状況と、成人後身長の平均の年次推移を調べたところ、1980年以後に生まれた成人の平均身長は低下している事が確認された。

これの原因は研究でも述べられてる通り「低出生体重児増加」が1因だろう。この低出生体重児のリスクファクターは高齢出産、妊娠前の母親の痩せ、低栄養、妊娠中の体重増加抑制、喫煙等があげられる。この中で特に影響が大きいのは高齢化と母親の体重だと思われるが、ここで注目したい問題はそこではない。ここで取り上げる問題は男女双方共に身長が低下しているが、女性に比して男性の方が身長低下が激しい事だ。実際に研究でも「2014年に生まれた人は1980年に生まれた人と比べて男性は1.5cm, 女性は0.6cm身長が低くなることが予想された」とある。

男女の平均身長の違いを加味してもこの開きはあまりに大きすぎる。そして身長は遺伝に加え、栄養環境でも決定される。噛み砕いて言えば、これは現代社会において男性は女性より栄養失調・飢餓状態にある事を意味しているのだ。

そしてコレは上記の例から読み取れる推測だけでは決してない。何故なら先進国含む30ヶ国の5歳児未満を対象としたメタアナリシスにおいても男子は女子に比して栄養不足に陥りやすい事が確認されているからだ。研究では男女の消耗症、低体重、発育阻害を調べたが、いずれにおいても男児の方が女児よりもオッズが高かった。

https://gh.bmj.com/content/5/12/e004030

これには生物学的差もあると思われる。例えば男性は女性よりも感染症にかかりやすい…面はあり、研究で確認された南アジアの1部において例外的に女児が男児より栄養不足に陥ってることを説明出来ると思われるが、先進国ではそもそも栄養不足に陥るだけの感染症にかかる事は男女共に稀である。これには先進国…特に男女平等国家において例外なく観測される「男子よりも女子の栄養を優生する文化的慣習」によるものだろう。

そしてコレは上記の研究から読み取れる推測だけでは決してない。何故なら国連と世界保健機関を対象とした研究において、その2つが女性の栄養…というか健康を重視する1方、男性のソレには目を向けない事が明らかになっているからだ。具体的な証拠としては6つあり

1.国連の持続可能な開発目標である「ジェンダー平等」は女性だけを対象としている

2.国連は女性の問題/成果に関する国際デーを9つ、男性の問題/成果に関する国際デーを1日設けている

3.国連は女性問題専用のTwitterアカウントを69個運営しているが男性問題に関しては0個

4.国連およびWHOのデータベースに保管されている文書では女性を指す言葉が男性を指す言葉よりも頻繁に登場する

5.WHOの報告書でも女性を指す言葉が男性を指す言葉よりも頻繁に登場する

6.WHOの紀要には男性を指す言葉よりも女性を指す言葉が多く登場しており、女性の健康に関する記事は非独創的な研究のほうが多い

https://www.researchgate.net/publication/346521168_Bias_against_men's_issues_within_the_United_Nations_and_the_World_Health_Organization_A_conte

勿論男性の栄養や健康軽視は日本でも例外ではない。というか先進国基準でも異様に男性の健康が軽視されてるのが日本である。例えば日本は餓死者の8割が男性であり、尚且つ上記の通り栄養不足に陥ってるのは女性より男性の方が多いが、女性専用の食料支援は豊富に存在する1方で男性専用の食糧支援は存在しない。というか子ども食堂を巡るアレコレなんかが典型であるが、食料支援サービスから締め出されてすらいる。日本において「男子よりも女子の栄養を優生する文化的慣習」が如何に強いか?は語る間でもない。

これに加えて「食い尽くし系」の話題で可視化された事であるが、どうも女性は男性の必要カロリーや栄養について無知…というか知る事や改善を拒否する傾向が観測される。例えば発端の漫画にせよ夫の「(男性の)大人なんだから俺が1番いっぱい食うに決まってんじゃん」に対し、妻は「その分ご飯多めにしてるじゃん…」と返している。道徳的或いはコミュニケーション的な問題はともかく、夫の主張は栄養という面では正しい。

ここでは雑に男女ともに平均体重・身体活動レベルふつう・30~49歳と過程すると、男性の必要カロリーは2700kcal、女性の必要カロリーは2050kcalとなる。男性は女性よりカロリーメイト6本と半分(650kcal)ぐらい多く食べないといけない計算だ。

https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/append/

漫画で妻は夫のご飯を多めにしているが、TANITA曰くご飯普通盛のカロリーが312kcalに対し、ご飯大盛は390kcalなので旦那が妻よりとるカロリーは390-312=78kcalであり、3食ご飯大盛にしても234kcal程度にしかならず650kcalには届かない計算だ。

https://www.tanita.co.jp/magazine/column/4861/

加えて言えば、ご飯を超大盛にしてカロリーを補ったとしてもタンパク質が足りてない。男性は1日タンパク質を65g推奨されてるが女性は50g。650kcalを米だけで補った場合、とれるタンパク質は9g。女性と同じ食事+米ではタンパク質が6g足りなくなるうえに糖尿病リスクまで増してしまう。

https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/append/

最もご飯はともかくタンパク源となるようなオカズを女性より男性が多くとるのは、なんか不公平のように感じてしまう方もいるだろう。しかしながら、このような感覚による平等の強制と男性が必要とするカロリーと栄養に関する無理解も、先進国における男性の栄養失調・飢餓を招いている原因の1つであるのは間違いない。今こそネットで有名なあの「平等と公平の違い」を実践する時である!もっとも上記の通り、男女に対する食料支援はそもそも平等ですらないのだが…

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