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東京編:岸田屋@月島

あ~、こんな寒い夜はカレイの煮付けか、肉豆腐なんかで熱燗で一杯やりたい。

魚の煮付け、肉豆腐が最高に美味い居酒屋が月島にある。

月島といえば、言わずとも知れたもんじゃ焼きで有名な町で、実際歩いてみても、もんじゃ!もんじゃ!もんじゃ!で何処へ入ったらよいか迷うくらいだ。

そんなもんじゃの町に古い下町の居酒屋がある。漫画・美味しんぼにも載った牛にこみで有名な岸田屋がそうだ。

開店の17時前でもすでに入口には、地元の方や居酒屋好きが、中央に酒、右には縦書きで大衆酒場、右には岸田屋と書かれた色褪せた紺暖簾が下がるのを待っている。

ちなみに大阪は阿倍野にある明治屋も中央に大きく「酒」と書かれたタイプの茶暖簾だ。

前に伺った時は、満員で入れなかったが今日は運良く空いていたコの字カウンター席に腰をおろせた。

店内は狭く、コの字の間は人が1人通れるだけの幅しかなく、右側に壁沿いに小さいカウンターもありそこでも呑める。

岸田屋は居酒屋としては昭和18年のスタートだが、昭和4年に酒屋、それ以前の大正時代はお汁粉屋を営んでいたという。

入口から見て正面に紐で掛けられた岸田屋の扁額は時代を感じる程、長年かかって変化していった何とも言えない艶やかで見ているだけで有難い気持ちになる。

同様にお祝いで頂いたであろう岸田屋さん江と入ったこれまた年季の入った沢山の木の額縁も貴重だ。

それ以外にも大衆酒場には必ずある鏡や入口の手洗い場、古い菊正宗のポスターに黒板に白字でかかれた品書きは正統派居酒屋以外の何者でもない。

優しそうな女将さん、いやお母さんと言っていいだろ。「飲み物、何にします?」と笑顔で注文を伺う。

まずはビールといきたいところであるが川亀の純米吟醸の小瓶950円で頂いた。

「すいません。今日はまだ牛にこみあります?」

お母さんが、奥厨房へ確認すると「ありますよっ。」

おっ。

「にこみ下さい!こないだ食べれかったんで(笑)」

牛にこみ(400円)は、見た目でもわかるが相当煮込まれた煮込みのようで、それを口に入れると、とても柔らかく噛んでいると溶けてしまうかのような食感。もつ煮込みと違って、牛の色々な部位が入っていてプリプリでコラーゲンタップリと言ったところか?蒟蒻と細かく刻んだ白ネギとシンプルだかそれがまたいい。

濃厚甘めの牛にこみに、逆に吟醸酒が以外に合う。

そして、どうしても食べたかった煮魚、肉豆腐が食べたい。

となりの年輩サラリーマンはイワシの煮付けかぁ。手前の男性二人は肉豆腐。左隣の男性はいわしつみれ吸い物でそろそろ締めか?

迷ったあげく「肉豆腐」600円に決めた。

ここは注文してから作るのでやや時間がかかるが、その間何をするでもなく店内を眺めながら、隣の会話を酒の肴にしてゆっくり酒を楽しめる。

古い居酒屋で呑んでいるだけで、酒が何倍にも美味く感じることが出来るからだ。

肉豆腐に合わせる酒を頼んでおこう。

扁額下の熱帯魚の水槽隣に、菊正宗と松竹梅の一升瓶が並ぶ。

燗酒で菊正宗一合(360円)にしよう。

菊の絵が入った白徳利を眺めてるだけでも嬉しい。

そして、待ってました!肉豆腐!

濃いめの醤油はいかにも関東風で豆腐は染みて茶色いが煮込み過ぎではなく、決して辛くもなくやや甘めのつゆで牛肉も味が染みて白葱も沢山あり有り難く、すき焼きのようだが和辛子が添えてあって酒場の一品に仕上がっている。

それと、菊正宗の燗酒で一杯やれば、もう何も言うことがない。

本当にここの料理は家庭的でもあるが、長い時代皆に愛されるだけの実力のある料理の腕が確実にある。

特に煮魚、肉豆腐は特質したい腕前だと言いたい。

右側奥の酒と掛かれた白暖簾をくぐり用を足し、出るとお客さんがいつの間にか減っている。

遅めに入ったからいい時間だ。

少し気にした表情で品書きを見ていると、「まだ時間ありますから、ごゆっくりどうぞ。」

「あ、有り難うございます」優しいなぁ。。

「今日はどちらから?」

「えっ、神奈川です。」

「神奈川ですかー。それは有り難うございます。」

実は三回目なのだけれど、以前初めて伺った時は先代ご主人が亡くなって、お店を続けるか悩んだが常連さんの励ましてようやく元気に店に立っていたお母さんがそこにいた。

その時に「これからも宜しくお願いします。」と言われたのを未だに覚えている。

「では、はまつゆ(400円)下さい。」

この蛤のお吸い物が大変上品なお味で堪らなく美味しい。2つやや大きめの蛤が入り、その蛤のだしとみつ葉が香り、そのおつゆの塩加減は絶妙で飲んだ胃袋に確実に染み渡ってゆく。

幸せだ。。

そろそろと煙草に火を点けると美人の娘さんが厨房から出てきた。

「いやぁ、美味しかったです。ご馳走です。」

「有り難うございます。」

「気になってたんですが、天井の魚拓、凄いですね。」

「あ、これは父と商店街の釣り仲間の方が釣ったものですね。もう店と一緒でだいぶ古くなってしまいましたが(笑)」

「あそこのとかだいぶ古いものなんでしょうね。」

下町の人間関係が伺える魚拓である。

その話を聞いて更に好きになった。

岸田屋に来ると、居酒屋に来たというより、岸田さんのお宅にお邪魔しているような気がする。

だから、お客さんも静かに酒を呑み、時にはお母さんや娘さんと会話をし笑顔になる。

帰りたくなくなる居心地がここにはある。

ずっと続いて欲しい酒場だ。

店を出ると冷たい風が頬を叩き、コートの襟を立てた。

暖かい気持ちから一気に現実へ。

さて、家まで二時間かぁ。。。

■居酒屋ロマンティクス 2011年12月6日 自身のblogより

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