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宮城編:福よし@気仙沼③

それしても、福よしという店は雰囲気が温かい。
あたたかいからと言っても家庭的な店とは違う。
家庭的な店にはフラっと外観で入ってくる客がいたりもするが、福よしの場合は福よしへ行くとあらかじめ思いあり,訪れる客が殆どだと思う。
ご主人が港の近くに魚料理を出す店が一軒ぐらいあってもいいんじゃないか。と昭和53年に始めたように、客は皆で福よし今日美味い焼き魚、酒を目的に来ている。
だから、知らないお客さん同士でも目的は同じであるから自然と会話になる。
「福よしにはよく来られるんですか?」
「福よしは今日が初めてなんですか?」とか。

だから、家庭的というより親戚で集まって呑んでいるような感じだ。
葬式で初めてあった親戚と話すような。

端のカウンター席に座っている弟・修一さんの同級生の方との会話がほのぼのとしていい。
「幼い頃から一緒だから友達というより家族みたいなもんだな。」
「この店の木材とかも一緒に運んだりしたな~。」
「このカウンターも前の店のだよ。」
「色々大変だったな~。」

「人間、パワーのある人は何とか前向きにやってやろうと思うが、でも誰しもがそういう訳にはいかないんですよ。私だってもういい歳だし、なかなか気持ちが前に進まないかったです。でも、回りに沢山のお客様や友人らに励まされました。
港から出る船、それを見送る家族、あがった秋刀魚、やっぱり気仙沼の見慣れた港の風景を見て育ったんです。ここでまた店をやるしか自分にはないと。」

修一さんの思いがとても強く、そして優しい。

「あっ、そろそろ秋刀魚が焼けますよ。」
「待ってました!」
「今日、大船渡から入った初物です!」

つ、ついに日本一の焼き魚が食べれるのだ。

「あっ、大将!」
「今日はわざわざ遠ぐから、ありがとなっ」
そういうと、福島の花泉の濁り酒一升瓶を差し出し、「勝手に呑んでくれ。」太っ腹な大将の心意気!
隣にいた常連客さんたちと呑み始めた。

そして、

ついに、

焼き秋刀魚登場!

串に刺さってうねった秋刀魚はまるで泳いでいるような躍動感があり、皮は正に刀ように銀色に輝いている。
箸を入れると皮のパリッとした感触が箸から伝わり、更に身は硬くなく皿までスムーズに届いた。食べなくても今まで食べた秋刀魚とは確実に違うと箸から伝わった感触で確信した。
また、焼き魚特有の焦げた匂いや油の匂いなど全くしない。
骨と身はスムーズにほどけ、パリッとした皮、フワッとした身、肝とを一緒に口の中へ!

全て完璧な焼き魚には、身が固いとか、肝が苦いとか、ちょっと焼けてないところとか、気になるところが一つもない。
ただ、驚きの美味しさだけが口いっぱいに広がる。

「肝食べました?」
「全く苦味とかないですね。むしろ肝があって完璧な味になります(笑)。」

「本当に美味しいです!」
「ありがとうございます!」

二匹目も行きそうなくらい一匹ペロリと食べてしまった。

楽しい夜は更につづく。

■居酒屋ロマンティクス 2012年9月1日 自身のblogより

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