京都編:樽@木屋町
夜の京都は祇園、先斗町辺りがゆっくり呑めていいだろう。
しかし、祇園の花見小路辺りは敷居が高くパスだ。祇園なら裏の縄手通り沿いの方がまだ安心でき、祇園の雰囲気も感じられなかなかいい。
けれども、高瀬川沿い木屋町通や先斗町辺りが沢山の飲み屋があり初級者はここから攻めたい。
外観が渋い店も少なくはなく、高瀬川沿いの麺房「美よし」がまず目に入った。近々改装するようで残念だ。現在の雰囲気をなくさないよう、あまり手を加えないで欲しい。
辺りの居酒屋もなかなかの雰囲気で良いぞ。
心に残る居酒屋を求め小さい路地を隙間なく埋め尽くすかの如く歩いて行くと、木屋町通と河原町通の間の六角通に一際目立つ大きな「樽」の文字の行灯看板が目に飛び込んできた。
酒は京都の地酒、キンシ正宗か。
堺町通にあるキンシ正宗の掘野記念館はその京建物が登録有形文化財で、それに酒造の歴史を学べ、試飲も出来、また行きたい。
夜の河原町通りは金髪の若者が改造車を路肩に止め何やら騒がしいが、路地中のここ樽の外観を観ていると威風堂々としていてまた安心感が伝わる。
窓は京都らしい格子造りで二階部分に吊ってある赤提灯はどこか温かみを感じる。京都の暖簾は東京と違ってどれも生地は何なんだろう?麻暖簾か。店内の明かりで紺色の暖簾も透けていて色気・艶っぽささえある。
店内に入ると中は一見関西の大衆食堂のように感じたが左側の立派な白木のカウンター、品書きを見てむしろ居酒屋より割烹の佇まいさえ兼ね備えていて、無駄なポスターとかは全く貼っていない。
白衣を着た白髪タレ目眼鏡のご主人とやや腰の曲がった髪をしっかりまとめあげた色白の女将さんが出迎えてくれ、二人のおおらかな雰囲気が店にも表れている。
右側のテーブル席では二人組がビールと肴で愉快に呑んでおり、角が丸く擦り減った白木のカウンターではひとり客が二人静かに盃を傾け、女将さんと時折会話をしている。
まずは酒にしよう。奥のカウンターに座り目に入った、京都の酒「雪紫」純米酒850。大徳寺銘酒・佐々木酒造を注文(俳優・佐々木蔵之介さんのご実家)。それとてっぱい450に決めた。
「てっぱい一丁~!」静かでおとなしい女将さんの耳に突き抜けるような声が響いた。
カウンター中の奥がどうやら注文の受け渡し口になっている。ようは謎の板前さんが厨房を担当していて、ご夫婦は接客オンリーのようだ。
カウンターの二人客がビールを追加したようで、今まで眠っていたように座っていたご主人だったが突然「ビール一丁~!!」女将さんより甲高い声で注文を告げ、自らビールを注いだ。
調理師免許取得の賞状にはご主人の生年月日が昭和9年2月23日、取得は昭和38年4月15日とある。ご主人は80近いにも関わらず、注文が入った時は大変元気な声だ。しかも、営業時間も木曜の休みだけ、夕方5時から深夜26時までと遅く、こちらとしては身体は無理しないようにと変に心配してしまうが、「一丁~!」の声が元気の証しだとわかった。
そのあと入ってきた、スナックママ風の女性は今日は仕事は終わりなのか?ビールにご飯250と納豆に、赤だし250。ここはご飯ものもあり、更によいのは、にぎりもあるとこだ。さぞかしお腹が減ったのだろう。ママにとってはここは癒しの酒場なんだろうな~。女将さんにお袋の姿を重ねているように見え、なんだかママさんが子供に見えてくる。
ここで三十年、以前は蛸薬師近くで二十年、50年以上歴史のある居酒屋に良き人あり。
「すみませんっ、牛すじ550下さい。」
「牛すじ一丁~っ!!!」
ご主人の声がこだました。
■居酒屋ロマンティクス 2011年11月1日のblogより