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離職率を18.3%減らし、経費を年間1,300万円節約するプログラムとは?

こんにちは、ビートオブサクセス(BOS)スタッフのナカです。

社員の離職は、企業にとっては本当に大きな痛手ですよね。

しかし、あるプログラムを行うと、離職率を18.3%減らし、経費を年間1,300万円節約できる可能性があるというのです。

今回は、そんな素晴らしいプログラムに関する研究をご紹介します。 


研究概要

今回ご紹介するプログラムは、2003年に発表されたBarry Bittman医学博士らの論文で研究されたものです。 

論文のタイトルは、
『Recreational Music-Making: A Cost-Effective Group Interdisciplinary Strategy for Reducing Burnout and Improving Mood States in Long-Term Care Workers』

日本語にすると、
『レクリエーション音楽作り: 長期介護労働者の燃え尽き症候群を軽減し、気分状態を改善するための費用対効果の高いグループ学際的戦略』

「レクリエーション音楽作り」という日本語訳だとわかりにくいですが、「楽しく音楽を演奏すること」と考えてよさそうです。

「レクリエーション音楽作りプログラム」だと長いので、以下では「音楽プログラム」と呼ぶことにします。


論文の概要

この論文の内容を大まかにまとめると、以下のようになります。

  • 米国の長期介護施設の従業員を対象にして、音楽プログラムを実施 

  • 音楽プログラムを行うことで、燃え尽き症候群が軽減し、気分状態が改善された

  • この改善により、離職率が18.3%低減できると推定される 

  • 離職者の減少により、100床規模の施設では、年間約1,300万円のコスト削減が見込める 

  • 音楽プログラムの費用は比較的安価で、投資回収率は60倍以上(1ドルにつき60ドル以上の節約)

音楽活動によって従業員の気分状態が改善され、離職者が減ってコストも削減


とても素晴らしい効果ですね。

このような費用対効果も高くて有効な音楽プログラムとはどのようなものでしょうか?

以下でご紹介します。


音楽プログラム(レクリエーション音楽作りプログラム)

この研究で行われた音楽プログラムは、グループでのドラム演奏とキーボード伴奏を利用し、支援やコミュニケーションなどの構築に焦点を当てた活動です。

論文では、

課題、背景、民族性、能力、経験の有無に関係なく、あらゆる年齢層の人々を団結させる、楽しく、利用しやすく、充実した音楽を用いたグループ活動

と定義されています。

音楽経験のない人でもすぐに成功したと感じられるように、ハンドドラム、ベル、マラカスなどの打楽器を主に使い、キーボードも併せて使用されました。


ドラムサークル

音楽プログラムの主な内容の一つが、「ドラムサークル」です。

ドラムサークルとは、参加者が輪になって太鼓や打楽器を演奏する活動で、熟練のファシリテーターのガイドに従って進められ、楽器や音楽経験がない人でも楽しく参加できます。


また、この研究では、太鼓を叩く以外にも、シェイカー(プラスチックの容器に砂などを入れた打楽器)を隣の人に順番に手渡しするアクティビティなどが含まれていました。

「受け渡しのスピードが徐々に加速すると、参加者がそのペースを保てなくなってシェイカーを落としてしまい、笑いが起こった」ということです。

レクリエーションの名前の通り、参加者が楽しんでいる様子がうかがえます。


音楽プログラム実施現場の肌感が学術的に実証

私たちBOSでも、同様の音楽プログラムを企業向けの研修や介護施設で行っています。

音楽プログラムの現場にいると、この論文に書かれているような参加者の集中と和み、そして一体感などを、間近で感じます。

「最初は落とさないように恐る恐るシェイカーを渡していたのが、最後にはみんなで掛け声を出して、力強く渡すようになったなぁ」

とか、

「太鼓を叩くのも初めてだった高齢のみなさんが、あっという間にみんなでタイミングを合わせたり止まったりできるようになったなぁ」

とか。

私たちが企業研修や介護施設での活動の現場で感じていることが、この研究で学術的にも示されました。


ここからは、研究で明らかになった、リズム・音楽を使ったプログラムの効果について、もう少し詳しくご紹介します。


従業員の心理面の改善効果

この研究は、19歳から78歳までの112人の長期介護施設従業員を対象に行われました。

対象者は、看護師、理学/作業療法士、管理、食事、家事、会計、事務スタッフなど、さまざまな職務の方です。

音楽プログラムを実施するグループと実施しないグループに分け、実施するグループには、1時間のプログラムを週に1回、計6回行いました。


その結果、音楽プログラムを実施したグループは、実施しなかったグループに比べて、燃え尽き症候群と総合的気分障害が改善されたことが統計的に示されました

音楽プログラムを実施したグループでは、総合的気分障害の程度を示すスコアが46%改善されました。

46%の改善はすごいですね!

「自分の気分が今よりも46%アップしたら?」と考えると、何でもできそうな気がします。


燃え尽き症候群は、「感情的疲労」、「離人感(自分が自分の心や体から離れていると感じること)」、「個人的達成感の減少」の3つの因子からなる症候群とされています。

また、気分を構成する因子として広く研究されているのは、「緊張/不安」、「抑うつ/拒絶」、「怒り/敵意」、「活力/活動」、「疲労/惰性」、「混乱/当惑」の6つです。

この9つの内、「混乱/当惑」を除くすべての因子で、音楽プログラムによる統計的に有意な効果が確認されました。


しかも、この効果は長く続き、音楽プログラムが終了した6週間後でも総合的気分障害のスコアは62%改善されていました。

これもとても嬉しい結果ですね。

せっかく大きな効果が得られても、例えば毎週行わなければいけないと言われると、現実的ではなくなってしまいます。

この研究のように6週間の連続したプログラム実施は難しいにしても、年に数回程度、定期的に行うと常に良い状態が保てるのではないでしょうか。


経済効果

ここまでで、音楽プログラムが燃え尽き症候群と総合的気分障害の改善に大きな効果があることはわかりました。

では、その結果としてどれくらいの経済効果があるのか?

この点についても論文で検討されています。


経済モデル

まず、経済効果アナリストのチームによって、過去に高齢者施設で行った従業員の満足度と忠誠度に関する調査が検討・分析され、経済モデルが構築されました。

そして、このモデルと、従業員満足度と離職率の関係や従業員一人当たりの離職コストを含む業界のコストデータを使うことで、離職率への影響やそれに伴うコストへの影響を検討しました。

このような経済効果モデルの開発において、2つの重要な変数が特定されたとのことです。

  • 給与以外の要因に対する満足度は、従業員が雇用主に忠誠を誓い続ける可能性の81.7%を占めている。

  • 長期間の勤務継続に関連する主要変数のうち、同僚や上司に関連する「つながり」の変数群が、忠誠心の最も有意な予測因子であった。

これらは燃え尽き症候群や総合的気分障害の原因とも関連が深そうですね。

この論文では「忠誠心(ロイヤリティ)」という言葉が使われていますが、ロイヤリティと関連の深いエンゲージメントにも似たような影響を及ぼすのではないでしょうか。


音楽プログラムによる経済効果

この経済モデルを使って、具体的な経済効果の予測が行われました。

この研究で実施された音楽プログラムによる燃え尽き症候群と総合的気分障害の改善効果を経済モデルに当てはめると、従業員の離職率が全体で18.3%減少すると予想されました。

100床規模の長期療養施設で、毎年平均49人が非経済的な理由で離職していると仮定すると、このうちの11人が離職を思いとどまる可能性があるいうことです。

離職者1人当たりのコストを117.4万円とすると、11人分で約1,300万円
年間でこれだけのコストが削減されると予測されます。


なお、米国の一般的な長期介護施設では、従業員の採用、研修、新規従業員の確保に関連するその他の管理コストなど、従業員の離職に関連するコストに年間総運営予算の6.9%(給与関連費用全体の約20%)を費やしているとのことです。

具体的な数字は国や業界によって変わるでしょうが、離職防止がコスト削減に有効であることは同じだと思います。


音楽プログラムが有効な理由

ここまででご紹介した通り、音楽プログラムは従業員の心理状態の向上や離職防止に対して、非常に高い効果を上げることがわかりました。

では、なぜ音楽プログラムはそんなに効果的なのでしょうか?

その理由や実績を、論文からいくつか引用してご紹介します。

行政、医療、地域社会、企業など、さまざまな場面でリズムを使ったイベントが行われ、ミーティングやリトリートも広がっている。
Fortune 500社に名を連ねる大手企業では、チームビルディングと従業員満足のために毎週ドラムサークルを開催している。
このような場でリズムに基づいたプロトコルを活用することで、最適なコミュニケーション、創造性、チームビルディングを妨げる個人的な障壁が大幅に軽減されている。

グループ・ドラミングは、プレッシャーを与えない方法で簡単に習得できることが実証されている。
エントレインメント、モジュレーション、コール&レスポンス、自己表現などのテクニックをベースとしたリズムベースのセッションは、日常生活のプレッシャーやストレスに対処し、表現する機会を広げる。

この音楽プログラム介入は、幅広い長期医療従事者が認識している多くのニーズに的確に焦点を当てて実施された。
それは、コミュニケーションを強化し、分野内および分野間の協力的な文化を構築するための、魅力的で、肯定的で、リラックスできる、安全な環境を確保するものであった。
これまで従業員の満足に不可欠とされてきた、尊重、承認、組織へのコミットメントが、すべてのセッションで強調された。

心の奥底にある音楽を表現する機会を提供することで、有意義で効果的な仕事上の関係を築くことは、困難な時期に必要とされる仲間意識、受容、尊敬、支援を育み、強化する触媒となる。
その結果、自分のニーズや感情をオープンで建設的な表現で仲間と共有することが、実質的な個人的・経済的利益につながり、最終的には質の高い長期ケアの将来的な存続に重要な役割を果たすと考えられる。

まとめ

今回は、米国の長期介護施設を対象として行われた、音楽やリズムを用いた活動の効果を検討した研究をご紹介しました。

燃え尽き症候群と総合的気分障害が改善され、離職率が18.3%減少し、それに伴うコスト削減効果も大きい事が学術的に示されました。

長期介護施設が選ばれた理由として、アメリカにおける高齢化と介護分野の人手不足があるようです。

アメリカよりも高齢化の進んでいる日本においては、どの業界でも離職や人材不足は特に深刻な問題でしょう。

従業員同士のつながりが強まり、ストレスが軽減され、信頼関係が構築されることで、より働きやすい職場・環境が作られる。

その結果、効果的に離職率を下げられ、経費削減にもつながる。

BOSでもそんなリズム・音楽を使った活動をご提供しています。
是非お気軽にご連絡ください。


※ 本文中の論文引用の日本語訳および論文内容の解釈は、本記事の筆者によるものです。
※ 本文中の金額は、1ドル=145円で換算したものです。