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祟りって複雑だねってはなし。

これは うちのお隣のちいさな稲荷社。
戦前からずっとお祀りされていて 戦災で焼ける前は かなり立派なお堂があったんだって。空襲で焼け野原になったところに 再建されたのは戦後の物資が乏しいながらも 手作りされた小さなお社でした。
地主さんのお宅で勧請されたのだけど 今でも扁額にはうっすらと「正一位稲荷大明神」と書いてあるのが読み取れる。

ちなみに このお堂は戦前から数えたら三代目なのですよ。二代目のお社は屋根が銅板ではなかったので 錆びて風雨にさらされて飛んでしまいました。
ここに至るまでに稲荷社を取り巻く環境も変わっていました。
地主の当主さんがご存命の時には 初午にはたくさんの旗竿がたてられ 私たち近所の子どもにも お菓子が詰められた袋を振る舞ってくださったり うちからもお供え物を出したり とてもいい関係が続いていました。
ご近所も含め 大切にされていたんですね。

そんなこんなしている間に いつの間にか初午も夏越の祓えも正月もやらなくなり お社はどんどん傷んでいき 廃神社という様相を呈してきました。

小さいころに あんなに大切にされていたのになあ…という 悲しい気持ちもあって 勝手にお社を直せないと思っていてブルーシートをかけて雨風を凌いでいました。初午や年中の行事は こじんまりでもやるようにし 掃除もきちんとするように勝手にお世話を始めてしまったわけです。

でも さすがに限界が訪れ お社自体を変えないと難しくなってきたとき 周りの方が御寄進くださって 伏見稲荷で新しいお社を注文することができました。これは貧乏な私では叶わなかったことで 本当にみなさんに感謝しています。

さて 祟り ということなのですが この稲荷さん 誰が見ても放置されていたわけですが その当時に勧請したお宅で不幸が続きます。
ふたりいらした跡取りさんの一人は急死 もうひとりは原因不明の病気で植物状態に陥ります。残されたのは その家に嫁いできた この息子さんのお母さんだけになりました。
この家の親戚筋も 精神を病んでしまう人もいれば行方が分からなくなった人もいます。そして おうちは没落してしまいました。
ご近所では もっぱら稲荷さんを粗末にした祟りだと噂されていました。
時期を同じくして 少し裏手のお宅で殺人事件が起きました。
そこも その地主さんの持っている土地にある貸家なのでした。もう 噂話は祟りで持ちきりになります。

それでも掃除したりお世話している私には そんな怒りは感じられることもなく 淡々としていたのですけどね。
ある時 落ち葉を掃いていたら ポトンと音がして背後に何かが落ちたようでした。どんぐりか?と思って振り返ったら 土の上に寛永通宝が落ちていましたw お掃除のお駄賃?w そう思って 有難く頂戴して今は首から下げてお守りにしています。
そんな平穏な毎日のお掃除中に あれはね井戸の障りだよ そう小さいけどハッキリした声が右側のきつねさんから聞こえました。

井戸? そんなんあったっけ? と 家に帰って母ちゃんに訊いてみると 稲荷さんを少し下ったところに確かに井戸があって 昭和30年代とか40年代には 断水も多く水を分けてもらったことがあったということが分かりました。ただ 今はもうないんじゃない?っていう ちょっと怖い答えです。
見に行ってみようかなと思ったら 左側のきつねさんに 井戸はどうにもならないから関わっちゃダメだよ と忠告されました。

結局 一族で残ったのは他家から嫁にきた おばあちゃんだけ。
その人も少し変わった人で 今でも稲荷さんに近寄ることはありません。

まあまあ 稲荷さんにとっては濡れ衣だった祟りの話なのですけど その後にひとつ判明したのは 祟りって呼んでいいのか迷う出来事でした。稲荷さんの境内に仕事の資材を勝手においていた人がいて ある日 古い小さな木製の鳥居を不注意で壊してしまったことがありました。資材の出し入れで ぶつけちゃったんでしょうね。その方が扱っていたのは塩ビのパイプでした。それを赤く塗って 代わりの鳥居を設置されたのですが その後 ひと月も経たないうちに急逝されました。遺された資材を片づけに来た若い職人さんが きれいにゴミひとつなくお掃除をされていったのが印象的でした。

この鳥居の件を祟りと呼ぶべきかどうか迷いますが とりあえず井戸なんて街中では忘れ去られた物が どえらい障りを巻き散らしていたよ というそんな出来事でした。

なんでもそうですけど 祟りじゃなくて 使うときだけ使って勝手に忘れる。粗末にする。まあ 適当に直せばよくね? そんなことが自分に返って来るだけの話かなと思ったりもしています。

あとは約束を破らないことじゃないのかな。
願掛けで断ち物をする人がたまにいますが 本当に断てるのであれば別ですが 途中で投げ出せば叱られるのは当たり前ですから…。
神罰は仏罰よりも厳しそうですね。

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