規範意識が中学に入ると低下する理由は?「思春期」で片付けられない側面がある。
私が参照したのは、三重大学教育学部研究紀要の廣岡秀一・横矢祥代『小学生 ・中学生 ・高校生の規範意識 と関連する要因の分析』です。論文自体は14年前のものであるが、統計をもとに、小中高生の規範意識の実態がわかりやすく分析されている。その中で、廣岡と横矢は三重県の小中高校生を対象にアンケートを実施し、規範意識の実態調査を行った。その中で次のうような結果を明らからにした。論文は以下のURLより読むことができます。
https://ci.nii.ac.jp/naid/120000948859
(以下は論文より引用)
児童・生徒の規範意識は学年が上がるにつれて低下していくことが明らかになった。しかし、規範意識の種類によって、男子と女子ではその低下する様子が異なっていた。例えば、男子の規範意識の特徴は、違法行為や暴力行為に対して許容的であるが、女子は遊びや快楽を追求した行動に対して許容的であった。また、男女ともに遊びや快楽を追求するような行為は、中学生から高校生にかけて、急激に意識が低下している。(略)
「規範意識」に最も影響を与えるのは、「学校適応感」であった。つまり、学校生活に対してポジティブな意識を持っているほど、その子どもの規範意識は高いということである。また、「友人関係」と「規範意識」の関係は、友だちとの関係がうまくいっていると認知している小学生ほど規範意識が高かった。一方友人関係が良好であると認知している中・高生ほど、規範意識には負の影響を与えることが明らかになった。(略)
中学生・高校生ともに「規範意識」に大きな影響を与えているのは、「社会活動や勉強への志向性」であった。つまり、社会的な活動や勉強に対して意味を見出している中・高生は、規範意識が高いということを意味する。
また、「将来展望」や「規範意識」に直接与える影響は、中学生では、弱い負のパスが認められ、高校生では、パスが認められなかった。しかし、「社会活動や勉強への志向性」を経由して、「将来展望」から規範意識に与える間接効果には、中・高生ともに正のパスが認められた。つまり、将来に夢や希望を抱いており、なおかつ社会的な活動や勉強に対して意味を見出していることが、規範意識に大きな影響を与えるということである。
筆者は、論文の中で「勉強が将来の役に立つことを意識させなくてはならないのだろう」と述べているが、対策の方向性としては的外れであると感じる。分析結果を素直に読めば、中学・高校段階では明らかに学校の「選抜・文化」の機能は働くからであろう。要するに、あからさまに成績によって序列がはっきりすることが原因であると思われる。簡潔に言えば、勉強や部活動で評価されている生徒は規範意識が高く、成績が悪かったり特に勉強や部活に関心の生徒は規範意識が低い、という話ではないのか。
自分の価値を否定する社会に積極的な態度を示すことができるだろうか。最初のうちは次の定期テストでは成績を上げるようと努力するだろう。でも、成績を上げるのは易しいことではない。なぜなら、学力とは積み重ねによって形成されるからだ。勉強や部活で評価を得ることが難しい生徒の自己評価はどうなるんだろうか。「日本人は自己肯定感が低い」のではなく、日本の中等教育のシステムが自己肯定感を低下させている可能性もある。学校がもつ評価軸の少なさも挙げられるかもしれない。
この学校内での競争原理が、生徒の自己肯定感を下げ、自分自身の価値の危機に陥った生徒の中にはルールや規範から逸脱するものがでても不思議ではない。私たちが規範意識の低下を叫び、「しつけ」や「家庭教育の低下」を叫ぶのは、こうしたことが背景にあるかもしれない。
あと、規範意識でいえば、日本は世界の中でも犯罪の少ない「安全な国」なはず。モラルの低下を叫びたいのであれば、大人もまた同じ現象が起きているかもしれない。
重要なのは、社会が「一人一人が大切だ」という態度を見せなければ、個人もまた「社会が重要なのだ」と思えない。そのためには、私は子どもたちを「落ちこぼれさせない」ことが何よりも重要であると考える。これからAIや映像授業の進歩により、自律的な学びが増えていくことが予想される。そのとき学校はセーフティネットの機能の重きを置くべきかもしれない。