クマ対応訓練での危険な状況について

最近、行政機関や警察、猟友会などが合同で行うクマ対応訓練のニュースを良く目にします。
 
それ自体はとても良い取り組みだと思うのですが、あるニュース動画で見た銃によるクマ捕獲訓練の様子に非常に危険な状況がありましたので、情報共有と問題提起のために記事にまとめました。

まずはこちらのニュースの動画をご覧ください。

三重県内でクマ出没過去最多 危害加えた場合の駆除手順確認 県警や猟友会など対応訓練 | 県内ニュース | 三重テレビ放送 (mietv.com)

私が気になったのは開始50秒~1分のクマに対する発砲のシーンです。
危険だと感じた状況を箇条書きにしますと、

クマのすぐそば(5m程度)で立入禁止のテープを張りはじめている

アスファルトに対して撃ち下ろしている
 → 固い地面で銃弾が跳ね返る
   (跳弾)恐れがあるため
   斜線方向での安全確保が難しい

ハンターとクマの延長線上に取材者のカメラがいる
 → もし上記の跳弾の恐れがなくても
   射手より前方に人がいる状況で
   発砲してはいけない

さらに、この訓練では建物の2階ベランダからすぐ下にいるクマを撃っていますが、このような高角度からクマを撃って、両肺を貫通させて致命傷を与えることは非常に困難です。

人間でも片肺を全て摘出する手術があるように、片側の肺が損傷してもクマにとっての致命傷にはなりません。

撃ち下ろしによる狙点の変化についてはこちらの記事をご覧ください。
クマを撃つ角度とスタンドの配置|Bear Smart Japan (note.com)

この記事の内容を大雑把に説明しますと、18フィート(約5.5m)の高さから撃ち下ろすのであれば、クマとの理想的な水平距離は15ヤード(約13m)であり、もし水平距離が5ヤード(約4.5m)だったなら、両肺を撃って致命傷を与えることは困難だというようなことが書かれています。

これを角度に直すと、理想的な撃ち下ろし角は水平から23度で、51度になると致命傷を与えられないことになります。

このニュース動画でクマを撃つシーンでの射手からクマまでの正確な高さと距離はわかりませんが、銃を構えている時の様子から、撃ち下ろしの角度は45度程度あるように見えます。

この角度での射撃でクマに致命傷を与えることは極めて難しいのではないかと私は感じました。

アスファルトでの跳弾の危険と同様、高いところからクマを撃つ際の難しさについても、訓練参加者の間で十分な検討が行われていなかったのではないでしょうか。

銃を持ってクマに対応するための訓練を行うのであれば、実際の現場と同じくらいの緊張感を持って、安全確実にクマを撃てるような技術的な検討を行ってから望むべきだと思います。

ニュース動画で切り取られた一部の情報に対する揚げ足取りにすぎないかもしれませんが、より良いクマ対応を考えていく何かのきっかけとして受け止めていただけましたら幸いです。

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