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フリーランスが知っておくべき「下請法」のキホンという話

本日このようなニュースもありましたが、フリーランスへの業務発注について杜撰な対応となっているケースは決して少なくないのが現状ですよね。

「【独自】口約束で泣き寝入り多発…フリーランスへの業務発注、契約書の作成義務付け事業者拡大」(読売新聞オンライン)

https://news.yahoo.co.jp/articles/4d038001c52b509dc6bdd21770d4873a458959dd

この記事でいう関連法案というのが具体的にどのようなものになるのかは不明ですが、現時点でもフリーランスや小規模事業者の利益保護のために存在する法律があります。
それが「下請代金支払遅延等防止法」略して「下請法」です。

この法律は”親事業者”に対する義務や禁止事項を定めた、わずか12条しかない短い法律ですが、これを知っているのといないのとでは大違い!

この記事では、特にフリーランスや小規模事業者などの”下請事業者”側が知っておいた方が良いと思う点を挙げてみたいと思います。

そもそもどのような場合に下請法が適用されるのか

下請法は、親事業者が下請事業者に対して業務や役務提供などの”一定の内容の取引”を委託する場合における親事業者の義務や禁止事項を定めている、というのが基本的なポイントです。
逆に言えば、どのような取引であっても下請法の適用を受ける訳では無い、ということです。
親事業者と下請事業者という関係に該当しない場合や、”一定の内容の取引”(後述)に該当しない場合は、下請法は適用されません。

下請法が適用される取引

まず、下請法(以下「法」といいます。)が適用される取引は、以下のものに限られます。

(1)製造委託(法2条1項)

事業者が以下の場合に該当する物品やその半製品、部品などの製造・加工を他の事業者に委託することです。
・「業として行う販売」もしくは「業として請け負う製造」の目的物
 (例:出版社が販売する書籍の製造を他社に委託する場合)
・「業として行う物品の修理」に必要な部品や原材料
 (例:自社が製造販売した商品の修理に必要な部品の製造を委託する場合)
・事業者自身が使用または消費する物品の製造を業として行う場合の物品
 (例:機械メーカーが自社で使う工具を自社製造している場合に、その工具の製造を他社に委託する場合)

なお、「業として行う販売」については、例えば無料配布するような物品やレンタルする目的の物品の製造委託は該当しません。

(2)修理委託(法2条2項)

事業者が以下の作業を他の事業者に委託することです。
・業として請け負う修理作業(修理業務の再委託)
・自社が使用する物品の修理を自社で行っている場合の修理作業

(3)情報成果物作成委託(法2条3項、6項)

事業者が「情報成果物」(プログラム、デザイン、アニメーション、BGM、脚本などが該当します。)の作成を他の事業者に委託することで、具体的には以下のいずれかに該当する場合です。
・業として提供する情報成果物の作成を委託
 (例:ゲーム会社が自社開発販売するゲームのプログラム作成を他のプログラマに委託)
・業として請け負う情報成果物の作成を委託(作成業務の再委託)
 (例:ゲーム会社が、他社から開発を請け負ったゲームのプログラム作成を他のプログラマに委託)
・自身が業として作成を行う場合の作業を委託
 (例:ホームページ制作会社が、自社ホームページのコーディングをフリーランスに委託)

なお、情報成果物作成委託のすべてが下請法の対象となるのではない点に注意が必要です。
例えば、上記のように「ホームページ制作会社が、自社ホームページのコーディングをフリーランスに委託」する場合は該当しますが、「飲食店(※自社ではホームページ制作できない)が自分の店のホームページ制作を委託」する場合は該当しません
これは「下請」ではなく「業務委託/請負」であるためです。

(4)役務提供委託(法2条4項)

事業者が業として提供する役務の全部または一部を他の事業者に委託することです。ただし建設業法で同様の規定があるため、建設工事は下請法からは除外されます。
また、自社に役務提供能力があるか無いかを問わず、その提供を請け負った上で他の事業者に委託しているのであれば、これに該当します。

例:マーケティング会社が顧客から請け負ったアンケート調査を他の事業者に委託

なお、他者に提供する役務が対象ですので、自社のための役務は対象外です。
(対象外となる例:自社の社内研修を社外講師に委託)

下請法が適用される者

上記の取引が行われる場合であっても、下請法が適用されるのは、委託する側が「親事業者」、受託する側が「下請事業者」となる場合に限られます。

どのような事業者が「親事業者」「下請事業者」になるのかは、取引内容と、資本金または出資の総額(以下「資本金等」といいます)によって決まります。
ちなみに、フリーランス、個人事業主は、以下の親事業者から委託される場合は常に「下請事業者」となります

製造委託または修理委託の場合、以下の場合に委託者が「親事業者」、受託者が「下請事業者」となります。

 [委託者]資本金等が3億円を超える事業者
 [受託者]資本金等が3億円以下の事業者または個人

 [委託者]資本金等が1000万円を超えて3億円以下の事業者
 [受託者]資本金等が1000万円以下の事業者または個人

情報成果物作成委託または役務提供委託の場合、以下の場合に委託者が「親事業者」、受託者が「下請事業者」となります。

 [委託者]資本金等が5000万円を超える事業者
 [受託者]資本金等が5000万円以下の事業者または個人

 [委託者]資本金等が1000万円を超えて5000万円以下の事業者
 [受託者]資本金等が1000万円以下の事業者または個人

なお、注意が必要なのが「○○万円を超えて」という規定です。
”超えて”というのは、○○万円を含みませんので、例えばフリーランスに対して情報成果物作成を委託する場合、資本金等が1000万円の会社は親事業者には該当しません。該当するのは10,000,001円以上、ということですね。

親事業者の義務

ここからが大切!
下請法が適用される取引の場合、親事業者にはいくつかの義務が課せられます。
その中で、下請事業者となるフリーランスも知っておいた方が良い点だけ取り上げてみます。

(1)書面の交付義務(法3条)

親事業者は、下請事業者に対して先述の業務を委託した場合は、直ちに以下の内容を記載した書面(いわゆる「3条書面」)を交付しなければなりません
・親事業者、下請事業者の名称
・委託日
・下請事業者の給付の内容
・下請事業者の給付を受領する期日(役務提供日または期間)
・下請事業者の給付を受領する場所
・下請事業者の給付内容を検査する場合は検査完了期日
・下請代金の額と支払期日

ポイントは、「直ちに」です。
直ちにというのは法律用語ではもっとも期間が短く「すぐに」という意味ですので、遅れてはならないということです。
「今ちょっと忙しいから、手が空いたら作るねー」ではダメなのです。
すぐに、です。

ただ、委託内容によっては、上記すべてを記載できない場合もあります。
よくあるのが「給付の内容」を定められない場合で、例えばソフトウェア作成委託においてまだエンドユーザーとの間で最終仕様が定まっていないような場合です。

このような「正当な理由」がある場合は、正当な理由により定められない、記載できない事項”以外”を記載した書面を直ちに交付し、内容が決定した後に直ちにその事項を記載した書面を交付することができます。

この場合も「直ちに」ですし、また「正当な理由」が必要ですので、例えば時間がない、面倒くさい、下請事業者も承諾しているから、というのは正当な理由とは認められません。

なお、3条書面は書面での交付が原則ですが、事前に下請事業者に対して電磁的方法(メール、ウェブからのダウンロード、CD-R、USBメモリ等)の種類および内容を示した上で承諾を得た場合に限り、その電磁的方法にて交付することも可能です。(下請代金支払遅延等防止法施行令2条)

また、3条書面に必要な事項をすべて網羅しているのであれば、契約書をもって3条書面とすることも可能ですが、「直ちに」交付しなければならない点は要注意です。

3条書面を交付しなかった場合は、親事業者の代表者や代理人などに50万円以下の罰金が科せられる他(法10条1項)、その法人についても同様に50万円以下の罰金が科せられることがあります(法12条)。

(2)支払期日を定める義務(法2条の2第1項)

3条書面にも記載が必要ですが、下請代金の支払期日を定めなければなりません。
しかもこの期日には条件があり、「親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して、六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」(法2条の2第1項より。太字は筆者による。)とされています。

よって、例えば「月末締めの請求で翌々月10日の支払い」とした場合、月初に納品完了したような場合は給付から60日を超えてしまう場合もあり、この規定に違反します。
また、たとえ下請事業者が「月末締めの請求で翌々月10日の支払い」に合意していたとしても、給付から60日を経過した日の前日が支払期日とみなされますので(法2条の2第2項)、翌々月10日の支払は「支払遅延」となります。

支払が遅延した場合は、親事業者は遅延利息(年率14.6%)の支払義務もあります(法4条の2)。

なお、支払期日を定めなかった場合は、給付を受領した日が支払期日となります(法2条の2第2項)。

親事業者の禁止事項

親事業者には、先述の義務以外に、禁止事項も定められています(法4条)。

主なものでは、以下のような規定があります。
・下請事業者の責任ではないのに下請代金を減額すること
 (発注後に代金そのままで納入数量を増やすことも該当します)
・類似業務と比較して著しく低い下請代金を定めること
・親事業者が指定する物や役務を強制的に購入・利用させること
・親事業者のために金銭や役務、経済上の利益を提供させること
 (例えば「デザイン制作委託において、3条書面に記載が無いのにPhotoshopデータを無償で提供させること」も該当するおそれあり)
・下請事業者の責任ではないのに給付をやり直させること

違反行為があったら

このように、親事業者には義務や禁止事項が定められていますので、親事業者がこれらに違反することにより不利益を被ってしまった場合は、公正取引委員会に申告することで調査が開始されることになります。

ただ、立場が弱いフリーランスとしては、この申告もなかなか勇気と決心が必要なのかなという気もします。

そんなこともあり、個別に調査するだけではなく、公正取引委員会は多くの親事業者と下請事業者に定期的に下請取引に関する調査票を送付しており、これに回答することで違反が発見される場合もあります。

この調査票、下請事業者は任意回答なのですが、親事業者は法9条1項に基づく報告徴収権限が用いられているため、調査票を提出しなかったり、虚偽の報告がなされた場合は親事業者に罰則(50万円以下の罰金)が科されることがあります。

フリーランスも自己防衛を!

だらだらと下請法について書いてきましたが、フリーランスであっても事業者であることには変わり有りませんので、ビジネスとしても自分が不利になるのは避けたいものです。

下請法は立場の弱いフリーランスや小規模事業者を守るため、独占禁止法の特別法として制定されていますので、フリーランス自身もしっかりと下請法を把握し、違反行為には適切に対応していきたいですね!

ここには書き切れなかったことなど、公正取引委員会のホームページなども参照してください。

https://www.jftc.go.jp/shitauke/

また、下請法が適用されない取引であっても、受託する際はしっかりと契約書を作成するなど、自己防衛に努めることも大切かなと思っています。


(参考)
『下請法の実務 第4版』鎌田明 編著, 公正取引協会


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