印紙税って実はめちゃくちゃ難しい、という話
突然ですが、印紙税って知っていますよね?
みんな大好き(※諸説あり)税金の一種で、国税庁さまの説明を引用しますと
印紙税は、日常の経済取引に伴って作成する契約書や金銭の受取書(領収書)など特定の文書に課税される税金です。
(引用:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/inshi301.htm)
こんな感じのものです。
一般的には、切手みたいな形をした小さい紙切れを課税文書に貼ることで納税します(印紙税法8条。以下「法」といったら印紙税法を指します)。
郵便局などで印紙(収入印紙)を購入して、課税文書に貼るだけ!
とても簡単!!
納税しやすい!!!
・・・と国税庁の回し者であるかのような発言ですが、印紙税の納税って、実はそんなに簡単なものではありません。
課税文書って何だよ
先ほど特段の言及も、また何の注釈もなく、さらっと「課税文書に貼るだけ」なんて書いていますが、まずそもそもその「課税文書」が難しいです。
国税庁さまの説明では、次の3つすべてに当てはまる文書らしいです。
(1) 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること。
(2) 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
(3) 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
(引用:No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断)
たった3つしかないから簡単じゃん!と思ったら大間違い。
(3)については、法5条に3パターン記載されているので比較的わかりやすいです。国や地方公共団体が作成した文書(法5条2号)、”非課税物件”欄に掲げられている文書(法5条1号)、などです。
しかし問題なのは(1)と(2)です。
法別表第1(課税物件表)については長いため引用しませんので、興味ある方は国税庁サイトの下記リンクからご参照ください。
No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで
簡単にいえば、契約書や領収書などが該当する場合が多いのですが、ただそれが具体的に何号の文書に該当するのかの判断が難しい!
例えば「イラスト制作請負契約書」というタイトルの契約書があったとします。
”請負契約書”って書いてあるから2号の「請負に関する契約書」だね!
・・・というほど簡単ではありません。
契約の内容に依っては、第7号「継続的取引の基本となる契約書」に該当する場合も考えられるのです(通則(※下記)3のイ)。
さらに、その契約書内で作成したイラストの著作権を依頼主(クライアント)に譲渡する旨が規定されていた場合、その”著作権譲渡”は「無体財産権の譲渡に関する契約書」として1号文書に該当する可能性もでてきます。
※参考:この場合、原則として1号文書として扱われます(通則3のロ)。ただし1号と2号でそれぞれ契約金額が区分記載されていて、さらに2号文書の契約金額が1号文書の契約金額を超える場合は、2号文書として扱われます(通則3のロただし書き)
つまり、契約書タイトルだけで判断するのではなく、”その文書に記載されている個々の内容についても判断する”(通達(※下記)3条)とされているので、どんな契約書タイトルであっても、内容を判断して1つでも課税事項に該当するものが含まれていれば、その文書は課税文書となり、印紙税を納める必要があるのです。
記載された契約金額って何だよ
では無事に課税文書に該当したとして、具体的に印紙税はいくら納めればいいのか?
例えば7号文書であれば4,000円とわかりやすいですが、1号や2号などは「記載された契約金額」によって税額が変わります。
先述の「イラスト制作請負契約書」が単発のイラスト制作依頼だとして2号文書に該当する場合、制作料として「一式15万円」と書かれていれば、2号文書の100万円以下の契約金額として、印紙税額は200円です。
しかし!!
先述のように著作権譲渡が規定されていることにより1号文書に該当する場合、”記載された契約金額”は10万円を超え50万円以下であり、印紙税額は400円です。
あら不思議。印紙税額が2倍になってしまいますね!!
このように、何号の課税文書で、記載された契約金額がいくらなのかで印紙税額が変わりますが、先ほどからカッコ内で書いているように「通則」や「通達」を理解した上で、契約書の内容をしっかり判断しないと税額がわからないのです。
地味にイタい過怠税
仮に先述の「イラスト制作請負契約書」が2号文書だと勘違いしていて200円の印紙しか貼らなかった場合。
この場合、納税すべき税額が足りていないので、印紙税を納付したことにはならず、過怠税が徴収されます(法20条1項)。
しかもこの過怠税、「納付しなかった印紙税額」と「その2倍の金額」の合計額です。つまり「納付しなかった印紙税額の3倍」ということですね。
先ほどの例で言えば、本来400円納税すべきところを200円しか納税していないので、不足分は200円。その200円の3倍ですので、過怠税は600円です。
このような支払い不足の契約書が1通だけであれば良いのです。
仮に200円の印紙しか貼っていない契約書が100通あったら、
600円/通 x 100通 = 60,000円!!
6万円ですよ、ロクマンエン。
※ちなみに、過怠税の合計額が1,000円に満たない場合は、1,000円となります(法20条4項)。つまり過怠税が課される場合は、最低でも1,000円から、ということですね。
さらにちなみに、適正な印紙を貼っていたとしても、消印していなかった場合は、消印しなかった印紙の額面と同じ金額が過怠税として課されます(法20条3項)のでご注意を!
専門家は誰?
さてこのように恐ろしい印紙税ですが、正しく納税しよう!ということで専門家の意見を聞きたい場合もあると思います。
では、誰に聞けば良いでしょうか?
「そりゃー、税というくらいだから、税理士でしょ」
・・・とはならないのが、印紙税の恐ろしいところ。
所得税や法人税といった税金関連については、税理士法により税理士だけがその事務を行うことができます。
しかし!
印紙税(他にも登録免許税なども)については、税理士の業務から除外されているのです(税理士法2条1項)。
ですので、税理士が印紙税について詳しいとは限りません。(※もちろん詳しい税理士もいると思います。)
ということで、よくわからなければ、税務署に聞くのが最も安心だと思います。
なお、契約書に限っていえば、先述のとおり税理士の独占業務ではないため、私が作成した契約書については印紙税についてもアドバイスしています。
結論
物理的な”紙”を利用せず、電子ファイルのみで締結する電子契約であれば、印紙税は課されません。
電子契約であれば、この直前の行まで私が頑張って書いてきた約3,000文字が完全に無駄なものとなります。
早く電子契約が当たり前の世の中になりますように!!
※通則:印紙税法別表第一 課税物件表 課税物件表の適用に関する通則
※通達:印紙税法基本通達
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