人類史に恐るべき後遺症を刻んだ規格外の阿片、ラインハルト・フォン・ローエングラム

 ラインハルトが軍総司令官と帝国宰相を兼任し、民主的な改革をものすごい勢いで押し進めまくるあたりまで視聴する。個々の改革についてはまったく非の打ちどころもないのだが、作中人物からも批判されている通り、「民衆が自分の力によって成し遂げたわけでもないものが進歩の名に値するのか?」という根本的な問題を抱えている。「清廉で公平で完璧な独裁者」などこの世に存在してはならないのだ。ラインハルトという男は、最期までこの問題に対する回答を提示しないまま銀英伝という壮大な叙事詩は終わってしまうのである。自分で難しいことを何もせずともすべてをいいようにやってくれる完璧なご主人様に飼ってもらえるという、本来あり得てはならない過剰快楽によって骨抜きにされた帝国民が、ラインハルトの死後どのような惨状を露呈したのか、想像するだに恐ろしい。人類社会への長期的な害悪の度合いにおいて、ラインハルトは門閥貴族や地球教など比較にならないレベルにあると思う。結局のところこの男は「宇宙を手に入れる」という我欲で動く覇者であり、民主的な改革者という仮面はそのための手段に過ぎない。自分の死後、人類社会がどうなろうと知ったことではなく、その酷薄さに自分で気づいてもいない。持てる権力の絶大さに対して、責任感の小なることおびただしい。

 時間切れ。

(そしてその落ち度を、作中の誰もラインハルトに突きつけないのである。この問題についていったいどう考えていたんだ)

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