『もひかん☆えくすぷろーど』 #3
「ツソって……いやわかるよ? 何をパロってんのかは重々承知してるよ? でもおめーツソはねーだろ何その欠片も音読することを考えてないネタありきの名前は。何なの? お前の両親は子供の人生を何だと思ってんの? なんか抱えてんの? 嫌なことでもあったの? 食卓で会話とかあんの? 核家族なの?」
「……いや、なんで急にカウンセリング風なことになってんだ」
「ヒャッハーッ! ツソ様! 目的のブツを発見しやしたぜェーッ!」
その時! モヒカンが手になんか持ってツソに駆け寄って来た! ていうかホントにツソなんだ……
「ククク、ごくろう。貴様らも適当に好きなものを略奪して良しッ!」
「ヒャッハーッ! さっすがツソ様! 話がわっかるゥー!」
見ると、レンタルビデオショップがモヒカンどもの略奪を受けていた!
「ヒャッハーッ! このナウシカはもらっていくぜェーッ!」
「ヒャッハーッ! トトロも外せねえぜェーッ!」
「ヒャッハーッ! こいつゲド戦記なんて隠し持ってやがったぜェーッ!」
謎のジブリ押しだ!
「フハハハハッ! 奪え奪え! 見ろ黒神! これが世の真理よ!」
「あー……まぁジブリおもしれえよな」
違う! そうじゃない!
しかし烈火の奇病は恐ろしいことに絵や写真やアニメも問答無用でモヒカン化させてしまう!
ジブリ作品の中でモヒカン化を免れたのはアシタカとユパ様とハウルだけだった!!
ナウシカはギリ駄目だった!! ダムシット!!
そんなわけでわりと気のなさそーな烈火であった!
「ククク……それにしてもなんというパイオツか。滾ってきおるわ!」
ツソはさっきモヒカンから献上されたブルーレイのパッケージを眺めてニヤニヤしている!
そこには一人のモヒカンが写っていて、雌豹のセクシーポーズをしていた! 大胸筋がムッキムキだ! 頬を染めて微妙に唇を突き出している! 嘔吐不可避!
烈火、ドン引きである!
「わざわざモヒカン従えてやることがAVの強奪かよ!」
「貴様ァ! 篠原ゆりの乳を愚弄するかァー! 巨乳こそ正義! 貴様にはそれがわからんのかァー!」
「んなこたねェーッ! わかるッ! わかるぞォーッ!!」
ガシィッ、と。
二人の漢は手を握り合った! そこには奇妙な友情があった! 男の歌があった!
だが!
「あ、あにきだ。やっほー、さっきぶり。さがしたよー」
いきなり手が捻られ、視界がグルリと一回転!
地面に叩きつけられる! 砕け散るアスファルト!
「モヒカンども! そこの女を捕えろ!」
「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」
左右から小歌に跳びかかるモヒカンども!
「うりゃっ!」
しかし小歌は右のモヒカンを腰の入った正拳突きで撃墜!
「とりゃー!」
そして振り返りざまに左のモヒカンを蹴り飛ばす!
本来ならばここでミニスカートが翻って蛍光グリーンのパンチラが拝めたはずであったが奇病フィルターのせいですべて台無しだった!
ガッデム!
吹っ飛ばされたモヒカンどもはちょっとビビりながら起き上った!
「ヒャ、ヒャッハー……お、お前行けよ」
「ヒャッハー……お、お前こそ」
さすがモヒカン! 自分より強い者に抗う気概など欠片もない!
それでもツソの方が怖いので、数を頼みに押し寄せる!
「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」
何人か吹っ飛ばすが多勢に無勢!
「わっ! こらっ! はなせ……いやっ! どこさわってんだばかぁ!」
烈火、跳ね起きる! その勢いのまま地面を強烈に踏み込むッ! 駆けあがってくる大地からの反動を体内で練り上げ、縒り上げ、炎熱エネルギーに変換ッッ! ぐっと仰け反り――
「天ッ! 才ッ! ビィィィィィィィムッッ!!」
――跳ね戻りざまに両目から白熱した光線が発射されたァァッッ!!
眩く輝く熱線は小歌の周囲を薙ぎ払い、モヒカンどもを一掃ッッ!! 一斉に爆発四散ッッ!! 超爽快ッッ!!
説明しよう! 天才ビームとは! あのー、こう、あれだ、剄力的な? サムシングを? なんか眼球の水晶体で? どうにかして? ええと、なんとかして、ビームに変換して撃ち出す感じの拳法の技である!
……拳法の技であるッッ!!
いやだってお前胸に七つの傷がある男だって手のひらからビーム的ななんかを出してたんだから目からビームぐらいでガタガタ言うなって話になるでしょうが!!
本当は「泰斗炎劫烈波」とかなんとかいう技名なのだが烈火は全然覚えちゃいなかった!! 漢字書き取りテスト赤点常連!!
「あ……ありがと、あにき……」
後ろで手を組んで、ちょっともじもじしながら礼を言う小歌! でもモヒカンだ! 世界滅びろ!
「なにやってんだテメーえぐちさくらのママ探しはどうしたこの野郎」
「あ、うん、もう見つかったよ。お礼に映画のチケットもらっちゃった」
「へいへい、そらよござんしたな。あぶねーから離れてろ」
「うん……あにきもあんまムチャしちゃやだよ?」
走ってその場を離れる小歌! モ○バーガーの中に入ってゆく! モス○ーガー店舗が対世紀末事象の要塞として完璧な機能を有していることは、現代人の間ではもはや常識であった!
ざん、と音がした!
振り返ると、ツソが憤怒の形相でこちらを睨んでいる! 足元のアスファルトは抉れてめくれあがっていた! 地団太(強)!
「貴様……オレのパイオツ狩りを邪魔するとは、覚悟はできているのだろうな?」
「あァ? テメェこそ俺の舎弟に手ェ出してタダで済むと思ってんですかコラァ」
凶悪な眼光を切り合う!
「くっくっく、身の程を知らん猿め。よかろう――世紀末空間を展開する!」
「上ォ等ォだコラァ! そのスカしたツラをハンバーグにしてやるぜ!」
二人の世紀末伝承者が闘気を全開放射!
強烈な風圧が両者を中心に広がり、ゴミや埃やポチやタマが乱れ飛ぶ!
――そしてッッ!!
世界が、塗り替えられたッッ!!
烈火とツソの間を中心に、何かが流出する! 溢れ出る! それは商店街の風景を塗り潰し、球状に遥か彼方まで広がっていった!
そこは、暗雲立ち込め、風吹きすさぶ荒野だった!
海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体は絶滅したかに見えた!
崩れかけたビルがところどころに建っている! まるで人類の墓標のごとく!
あらゆる世紀末伝承者の深層心理に眠る、闘争の原風景!
ありえたかもしれない終末の未来!
――世紀末空間ッッ!!
そこは、世紀末伝承者たちが強大過ぎる力を振るうために構築する異空間であるッッ!!
現実空間で全力を出すと、もうめっちゃ建物とかぶっ壊していろんな人に超絶怒られるからだ!! ひどいときには自宅の電気と水道が止められることもある!! 超こええ!!
殺伐空間のただなかで、二人の修羅が対峙していた!
「泰斗魔狼拳伝承者――黒神烈火!」
「罪斗惨円拳伝承者――劫星のツソ!」
名乗りを終えて!
いざ尋常にッッ!!
「ククク……貴様を殺し、この世のすべてのモヒカンを独占し、ただひとりの世紀末伝承者として永劫に君臨してくれよう!」
「さァせェるゥかボケェェェェッッ!! ブッ殺しゃらあああああああああッッ!!」
――勝負ッッ!!!!
●
オニオンフライをもそもそとかじる小歌の目の前で、かき消えるように二人の世紀末伝承者が姿を消した!
通行人たちは「あーまたか」みたいな感じでそれぞれの日常に戻ってゆく!
「うーん、誘いそびれちゃった」
頬杖をついて、映画のチケットをぴらぴらさせる小歌!
ちょっと物憂げな感じだ!
「ま、とにかく終わったらもっかい声かけてみよっと。がんばれオレっ」
でもわりとすぐ立ち直る! 烈火の影響かなんだかしらないがこの子もこの子で物事をあんまし深刻に考えないタチだった!
あと烈火の心配とかは全然してなかった!
バカでスケベでデリカシーないけど烈火の強さだけは信頼に値するのだッッ!!
●
秒間千発以上の連撃が烈火の全身をブチ抜き、盛大に血を吐き散らしながらブッ飛んでいったァッッ!!
「ゲハァッッ!!」
しかし空中で体勢を立て直すと、地面に二本の轍を刻みながら着地ィッッ!!
直後に襲い来るツソの追撃を巧みに裁くッッ!! 裁くッッ!! 刀剣のごとき抜き手を横から払うことで軌道をずらし、致命傷を避けるッッ! 接触のたびに破裂音を伴う衝撃波が弾け、周囲の地面に鋭い亀裂を刻んでゆくッッ!!
それら一撃一撃が対戦車ライフルを上回る超絶威力を秘めているのだッッ!!
「調子のんなァァァァァッッ!!!」
火山の噴火じみた威力の膝蹴りが噴き上がるッッ! ツソはバック転で回避しざまに空中で左右の手刀を×字に振り抜くッッ!!
「罪斗殲星波!!」
「バーニング天才パンチ!!」
蒼い斬光波と赤く燃え盛る巨大な拳が激突ッッ!! 超爆発ッッ!!
爆光を突き破って突撃した烈火は流星じみた直蹴りをブチ込むッッ!!
まったく同時にツソの飛び蹴りがカッ飛んできたァァァッッ!!
空中で交錯する両雄ッッ!! 壮絶な風圧が周囲の塵芥を吹き飛ばし、激突の凄まじさを物語るッッ!!
背中合わせに着地する烈火とツソッッ!!
「ククク……そうやすやすと殺らせてはくれんか」
口の端から血を滴らせながら、ツソは凶悪に微笑む!! その胸板は烈火の蹴りによって切り裂かれ、鍛え抜かれた大胸筋が露わになっていたッ! このままでは腐女子が歓喜してしまうッッ!!
「けっ、でかい口叩くだけのことはあるみてーだな」
口の中の血をペッと吐き捨てながら烈火は眉目を歪めるッッ!! その腹はツソの蹴りによって切り裂かれ、バキバキに割れた腹筋が露わになっていたッ! このままでは腐女子が歓喜してしまうッッ!!
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