放課後ダークロード
軽く息を吐いて気持ちを落ち着かせると、最後の仕上げに入る。
両手首を触れあわせ、左手の指先で「彼」を保持する。右手に持った筆先には、『キャラクター・インテリジェント・カラー』のひとつである『シェリアノス・ホワイト』が付着していた。残虐にして妖美なる魔都メトラ・シェリアノスの住民に特有の、病的な青白い肌を表現できる塗料だ。
公式から大量に発売されている『ドゥームルーラー汎用パーツセット』から、僕の第一の使徒に相応しいものを厳選して組み上げた「彼」。流麗なれど華美には落ちない屈強な体格。戯画的な神話生物が緻密に彫り込まれ、邪悪な棘が大量に生えた甲冑。裏地に鮮血のような赤をあしらった漆黒のマント。いずれも『ウェポン・カラー』と『エンチャント・カラー』によって禍々しく塗装されている。我ながら完璧な仕事だ。身長が僕の親指ほどしかない可変ポリマーフィギュアとは思えない迫力。
大きな傷のある顔に、筆先が触れる。すでに下地として『ベルゼルガ・フレッシュ』がベタ塗りされている上から、慎重に『シェリアノス・ホワイト』を乗せてゆく。それぞれの塗料に含まれる微細な黴の一種が結合・交配して電気情報を伝達する独自のニューラルネットワークを形成する。使うカラーのレシピや配合によって、どのような人格になるかはある程度決められるのだ。ペイントしてないミニチュアは動かないのでゲームで使い物にならない。
かすかに震える筆先が、鼻や頬骨、顎のラインなど凸部分をなぞり、顔の立体感を強調してゆく。
あとはシェイディングしたのちもう一段階ハイライトを乗せ、完成だ。
僕は大きく息をつく。米粒サイズの顔に色を塗ったのだ。相応に消耗する。
塗料が乾いて黴が回路を構築するのを待つ間、「彼」が率いるべき兵団の組み立てくらいは終わらせておこう。
〈厄災〉勢力の最も一般的な歩兵戦士ユニットである『ドゥームウォリアー』十体入りキットの箱を手に取った。
【続く】
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