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かいぶつのうまれたひ #12

  目次

 あっくんの落ち着き払った物腰に、自分と同じ『常住死身』の在り方を感ずる。
 篤は眼を開き、あっけにとられている級友たちを見た。
「どうやら、アドバイザーを呼ぶ必要がありそうだ」
「ど、どういうこと?」
「尋常ならざる事態が発生している」
「まぁお前にウサ耳が生えた時点ですでに尋常じゃないけどな」
 耳をほじる攻牙に向き直ると、篤は言った。
「攻牙よ」
「なんだ?」
「ケタイデンワの操縦方法を教えてくれ」
「お前が何を言いたいのかはわかるが伸ばし棒が足らねえよ!」
「ケーターイデーンワーの操縦方ほ……」
「番号だけ言え! ボクがかけてやるから!」
「む、すまんな」

 ●

 集合場所は、以前鋼原射美の介抱をした公園に決定した。
「きーりさーきセーンパーイ! こんにちはでごわす~♪」
「はいこんにちは。……あら、ふふっ」
 スマホで呼び出された鋼原射美は、真っ先に藍浬に飛びつくと、頬と頬を擦り合わせた。
「うに~」
「もう、くすぐったいわ、鋼原さん」
「霧沙希センパイのお肌はヒンヤリしてて気持ちいいでごわす♪」
 射美と藍浬が会うなりユリシーズ空間を形成しだしたのを尻目に、(ついでに血走った目でその様を凝視している謦司郎も尻目に)篤と攻牙はさっき立ち寄ったコンビニの紙袋を漁って中身を取り出していた。
「……それでどういうつもりなんだ篤この野郎。まさかみんなでお茶しましょうってだけじゃねえよな?」
「正直ただそれだけというのも悪くはないとは思うが、まぁもう一人のアドバイザーが到着するまでは普通に昼食を楽しもうではないか」
 篤が攻牙の携帯で呼び出した人物は、二人。
 一人は敵方の尖兵であるところの鋼原射美。
 そしてもう一人は、
「いったい誰を呼び出したんだよ?」
「お前たちの知らない男だ」
「ふふん?」
「わっ! なにこれ超カワイイでごわす~!」
 射美があっくんとたーくんを見つけたようだった。
「みゅう!?」
「あっ、逃げないでほしいでごわす~!」

 ●

「やあ篤くん。お待たせしたね」
 声がした。
 振り返ると、青年が一人、立っていた。
「お久しぶりです勤さん。お怪我はすっかり良くなったようですね」
「いやまぁ、半分は君にやられた怪我なんだけどね。もう万全だよ」
 それは、篤に普段から兄貴分(笑)として慕われている『亀山前』のポートガーディアン(笑)、布藤勤の変わり果てた姿だった(笑)。
 篤は沈痛そうに目を伏せる。
「あぁ、こんな変わり果てた姿になって……」
「いやいや、もう万全だって。どこも怪我はないよ」
「ボロボロに薄汚れてないなんて、まるで人間みたいだ……」
「あたかも僕の正体がボロ雑巾みたいな言い方やめてくんない!?」
 勤は一同を見渡しはじめた。
「……いやそんなことより」
 攻牙と藍浬はコンビニ弁当のパセリをあっくんの前で誘うように振っている。射美は指をわきわきさせながらたーくんを追い掛け回していた。かすかに聞こえてくる「……フフ……ヘヘ……」という忍び笑いは、どうせホットドッグを目の前にした謦司郎が卑猥な妄想をたくましくさせているのだろう。
「彼らは? 友達かい?」
「えぇ、そのようなところです」
 篤は四人に向き直ると、
「皆、本題に入るとしよう」
 浪々とした声で宣言した。
 藍浬があっくんを胸に抱きながら勤を見た。
「ふふ、はじめまして。諏訪原くんの級友の霧沙希と言います」
「あ、あぁ、どうも」
 勤は頭を掻く。篤はそのさまを見ながら、うなずいた。
「この人は俺の村に唯一存在するバス停『亀山前』のポートガーディアン、布藤勤さんである。ほれ、みんな拍手で出迎えるのだ」
「「わー」」
 ぱちぱちぱち。
 勤は照れくさそうな笑みを浮かべた。
「やあやあ、どうも、ご紹介にあずかりました布藤勤です。あぁ、どうもどうも。本日はこのような催しにお招きいただきありがとうございます。布藤勤、布藤勤でございます。盛大な拍手ありがとうございます、ありがとうございます」
 そして咳払いをひとつ。
「それでは歌います」
「皆、勤さんがお帰りだ。拍手でお送りしろ」
「「わー」」
 ぱちぱちぱち。
「すいません調子こきました。やめて。拍手やめて」
 と、いうわけで、全員が席に着いた。
 射美が面白そうに眼を輝かせる。
「ほへー、ポートガーディアンの方でごわしたかー。政府の犬さんおつかれさまでごわす♪」
「うむ、この人は一級地脈鑑定士の資格を持っている、わりかしエリートな方のポートガーディアンだ。色々と謎を解き明かすヒントをくれることだろう」
「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってくれ篤くーん! ななななんで《ブレーズ・パスカルの使徒》の一員がこんなところにいるんだい!?」
 勤が明らかな引け腰で叫ぶ。両腕で顔を隠すように庇い、射美から五歩くらい距離をとった。その上全身から脂汗が出る始末。
 ビビり過ぎである。
「うふふ~、射美は絶賛スパイ活動中でごわすよ~」
「……ということらしいので、こちらとしても彼女を利用することにしました。まぁ希望的観測としては恐らく近づいても基本的には噛み付かないと思われるので安心です」
「がう~♪」
 曲げた指を威圧的に掲げて猛獣っぽいポーズをとる射美。
「安……心……?」
 勤は頭を抱えた。
 篤は構わず話を進める。

【続く】

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