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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #56
「おい! おいジジイ! 起きろ! おめーが操縦してくれないとこの芋虫着陸しねーだろ!」
左右の頬を交互にビンタされる感覚。
実に数千年ぶりの身体感覚。ひりひりと頬に走る感覚が痛みであることに、アーカロトはしばらく気づかなかった。
「うー……あー……」
「オイ大丈夫か? アイツの罪業場を浴びてなんともねえのか?」
「はて……君は誰だったろうか」
「ボケてんのか! もういいからさっさと着陸させろ! 生きた心地がしねーわ!」
「あぁ、そうだね……」
「しっかしエライ目に合ったぜ。おめー、いろんな奴から狙われてんのな」
「迷惑をかけたね。あまり僕には関わらないほうがいい」
「へっ、そういうわけにゃいかねえよ。俺はてめーをもう信用することに決めたぜ」
「やれやれ、どうなっても知らないよ」
「どんだけ嫌がろうがおめーはもう俺の兄弟分だよ。それに、退屈だけはせずに済みそうだしな。マジで恐れ入ってんだよ、これでもな。アーカロト、おめーなら、この立ったまま腐ってゆくようなクソッタレな世界を変えられるかもしんねえ」
「ようやく思い出した。君はゼグ君と言うのだったね」
「今気づいたのかよ!!」
「久しぶりだね。何千年ぶりかな。元気にしてたかい? なんだいちっとも大きくなってないじゃないか。ちゃんと食べているのかい?」
「ウザい親戚みたいなこと言ってんじゃねーよ!!」
●
――お前が荒事にはクソの役にも立たないってことはよくわかった。ならせめて小間使いとして役に立つんだね。
――はいですわ、ギドさま!
――おっとウチにいるつもりならアタシのことはママと呼びな。
――はい、まま!
――えらく素直だねえ。ま、とにかく掃除洗濯炊事その他めんどくさいことは全部アンタがやるんだね。さしあたってはガキどもの服を洗いな。洗濯機はこれ。洗剤はここ。アホでもできる。
――はいですわ! おわったらあたまなでなでしてほしいですわっ!
――……妙なガキを拾っちまったねぇ。
シアラ・ニックアントム・ヴァルデスは、この新たな暮らしを早速気に入り始めていた。
ギド、もといママは、一見怖いけどすごくキレイでかっこいい人だ。ちゃんとシアラの話を聞いてくれるし、ちゃんと褒めてくれる。
こまづかい、というお仕事は大変だけど、みんなのために一生懸命頑張れる、という経験は、シアラに予期しない喜びをもたらした。
なにより、おともだちができた。
「シアラちゃん、あそぼ!」
「あーそーぼ。またあのおうたおしえてよ」
「はぁーい! おそうじおわったらいきますわっ!」
ジュジュとレミは、真っ先になかよしになった。ここにいる七人の子供たちのうち、女の子の二人だ。
他の五人の男の子たちは、まだ遠巻きに見てくるだけであまりお話できていない。そのうちいきなり抱き着いてびっくりさせてやろうと思う。
鼻歌を口ずさみながら、メタルセルの隅に溜まった埃を掃いていると、後付けの玄関のカギが外から開けられる音がした。
思わず顔が綻んで、そちらにぱたぱたと駆け寄ると、ゼグがアーカロトに肩を貸して、疲れた顔で入ってきた。
「おふたりとも、おかえりなさいですわ!」
「うお!? オイなんなんだいきなり暑苦しい野郎だなオイ」
「おかえりなさいのぎゅーですわっ!」
「やあ、ただいま。シアラ。ギドにいじめられなかったかい?」
やいやいやっていると、後ろから足音がした。
振り向くと、ギドが葉巻を吹かしながらこっちを見ている。
「……で、肉団子は売っぱらってこれたのかい? お前ら?」
気まずい沈黙が、二人の少年の顔を曇らせた。
それから数日間、二人はギドにネチネチと嫌味を言われ続けた。
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