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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #27

  目次

 二人で手をつないで駆ける。
 しかし何ら体術を積んでいない少女の脚力は年相応のものでしかなかった。本人に断って小脇に抱えると、軽功の力で風に乗る。猛スピードで流れてゆく廊下の光景。
 きゃいきゃいと楽しそうなシアラを尻目に、アーカロトはいぶかしんだ。
 爆音が途絶えている。
 ――ギドたちが殺されたか、殺したか。
 そのとき、子供の甲高い声がかすかに聞こえてくる。
 同時に、血臭も。
「君はここで待機」
「ぅ?」
 そして壁際から片目だけを出し、先の光景を確認する。
 思わず、眉間を押さえた。
 巨漢と痩身。二人の男が全身を切り刻まれ、罪業変換機関をはじめとするさまざまなインプラントデバイスを摘出されているところであった。
 全身血塗れでナイフを振るう子供たちと、葉巻を燻らせながらそれを見ているギド。壁面のかなり高いところまで血が噴き上がっており、地獄のような光景だ。
 どうしよう。またシアラが泣く。
「……ギド。助けは不要だったか」
「あァ、あんたかい。思ったより少数で拍子抜けしてるところさ。……ほら、クソガキどもさっさとおし。思考警察サツが来んだろうが」
「うるせえ、今やってんだよ!」
「くそオトナきざむのたのしい!」
「そこになんも埋まってねえだろ! 無駄なことしてんじゃねえ!」
「ゼグにいちゃんけちんぼ!」
「めだまぼーん! めだまぼーん!」
「あははははっ、へんなのー!」
 抉り出した巨漢の眼球を自分の両目に当てて遊んでいる。
 頭痛がしてきた。
「……これからどうするつもりだ、ギド」
「養殖サイコパスどもはバイタルサインをリアルタイムで思考警察サツに送信している。それが途切れれば即座に位置情報が筒抜けになり、乙式機動牢獄が押し寄せる。けっこう気に入ってるアジトだったんだけどね。捨てるしかなさそうさね」
 煙を吐き出すと、老婆は錆びた刀剣のような相貌をこちらに向けた。
「ま、セーフハウスはあちこちに確保してるから別に構やしないけどね。それよりお前、あのお嬢ちゃんはどうした? うまいこと手懐けたのかい? それとも面倒だから殺したかい?」
「そんなことはしない。そこに来てもらっている。もう平静は取り戻した。僕を利用したのなら彼女も保護下に置いてもらう」
「へぇ、あんな役にも立たない小娘なんざ抱えてどうするつもりだい? 燃料にする以外に使い道なんざねえだろ」
 実際には燃料どころではない価値が彼女の血には宿っているが、それを言うわけにはいかない。
「あいにくこちらはあなたのように損得だけで行動しているわけじゃないんだよ。返事を聞こう。さっき太った〈原罪兵〉を一人で排除した僕の腕が惜しいなら彼女も受け入れろ」
「へぇ、最初に見たあの妙な動きは偶然でもなかったってわけかい。……ま、構わないがね。今更ガキが一匹増えたところで大差なんざないし」
「ババア! 終わったぞ!」
 見ると、リーダー格とおぼしき少年が胎児めいてひくひく蠢く肉塊を真空パックに入れて掲げていた。
「ほう! でかしたよゼグ。片方は百七式じゃないか。ひさびさの収穫だね」
「部品もだいたい回収した。さっさとズラかろうぜ」
「さて、こっちの坊やが倒した方の〈原罪兵〉も解剖したいところだが……さすがに時間切れだね」
 それを聞いて、ゼグと呼ばれた少年は目を丸くしてこっちを見た。
「車を出すよ。やれやれガキどもにシャワーを浴びさせる時間もないってわけかい。窓は全開にしとくよ。お前は件の嬢ちゃんを連れてきな」
「あ、あぁ……」

【続く】

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