暴力はいいぞ!
「おいしい」
ぽつりとつぶやいた瞬間、シャーリィ殿下は零れるような笑顔を見せてくれた。
木皿からまたひと掬い、差し出してくる。
フィンはしばし、「あーん」される気恥ずかしさも忘れ、食事に耽った。
「……ふぅ」
皿も空になって、一息つく。
いったいどれほどの栄養素があの一杯のスープに含まれていたのやら、腹の虫はすっかり大人しくなった。体中の細胞が、ぽかぽかと熱を発している。
「ごちそうさまでありますっ」
おそまつさまでした、と口が動く。そしてくすりと笑い、布巾を持った手が近づいてきた。
「んんー」
口元を丁寧に拭かれる。がっつきすぎていたようだ。少し頬が熱くなる。
と、その瞬間。
遥か上方から、なんか変な声が聞こえてきた。
声はどんどん大きくなり、
「……ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああでべっ!!!!!!!!!!!!」
途中で枝か何かにぶつかったのか、唐突に叫びが終わる。
そして窓から烈火が飛び込んできて、部屋の床にベシャァッ! と伸びた。
豪快な五体投地である。
直後に顔を上げる。
「あんのロリコン野郎マジいきなりなにしやがんだヒドくねこれ!? さすがにヒドくねオイ!?」
いきなりこっち向いてまくし立ててくる。
「なんかさーどいつもこいつもこの超天才の超天才ぶりに対する敬いの心欠けてね!? 俺もう敵のボスっぽいなんかキモいの一撃粉砕したんよ!? パイオツの野郎もそろそろ素直になって俺に対して股のひとつも開くべき頃合いだろうが常識的に考えて!! 頭おかしいんじゃねえのかあの女!!」
おかしいのはアンタです。
「レッカどの、すっごい上から落ちてきたけど、大丈夫でありますか? 万能薬いりますか?」
「いらねーよ!! クソの役にも立たない冬木聖杯並にいらねーよ!! どーでもいいからこの俺を讃えろクソガキども!!!! 万雷の拍手で!!!! 万雷の拍手で!!!!!!!!」
フィンはシャーリィ殿下と目を合わせ、それから二人で拍手をした。
「まばらだよ馬鹿野郎!!!! 畜生なっとくいかねえーーっ!!!! どう考えてもおかしいだろこの超天才がガキどもにお情けで拍手を恵まれるとか!!!!」
エルフの姫君は、うつぶせに倒れたまま両手足をジタバタさせている烈火に歩み寄った。
そばにちょこんと座り込み、おもむろに世紀末伝承者の頭をナデナデ。
烈火、半眼でそれを受ける。
「……いや違うんだよなぁ……なんッか違うんだよなぁ、それ……」
「しょ、小官も撫でたほうがいいでありますかっ?」
「いらねーよ!!!! なろう主人公の社会不適合者アピール並にいらねーよ!!!! ……あん? おいガキ、おめーなんか前に見た時より影薄くなってね?」
「え」
烈火はその場で跳ね起きると、フィンに近寄る。
自分の顎を掴んで、しげしげと眺めまわす。
「影っつーか、血の気っつーか……んー、あー、あれだ!! 気穴がいくつか閉じてやがる!!!!」
「きけつ??」
「あのーなんかチャクラ的ななんかがいろいろアレする感じの場所だよ突くと「うわらば」とかゆって爆発する感じの」
ぜんぜんわからない。
「確かなんだっけ? こういうとき師匠がなんか言ってたよな。えーと、えーと、確か……」
指を複雑に曲げ伸ばし、シュッ、と虚空に突き出す。
こうだっけ? いやこうかな? とかなんとか呟きながら、烈火はフォームを模索する。
とある軌道でえぐり込むように指を突き出した瞬間――!!
ふいにフィンの視界が絵画に置き換わった!! 見ていた光景が、そのまま絵に描かれたような感じになったのだ!!
そして腕を突き出した烈火の手前に、なんだか見たこともない文字が出現する!!
泰 斗 養 命 牙 点 穴
――え!?
唐突に発生した意味不明な超常現象にフィンは口をあんぐりと開けた!!
「おおー、出た出た。これだこれ、このフォーム」
すぐに絵画のような世界は去り、視界が元に戻る。
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