絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #25
「おいおい、ずいぶん元気のいいクソガキが遊びに来たもんだ。なんだ? 菓子でも欲しいのか? あ?」
「そこにいたかァババアよォ……!」
耳を塞ぐ。直後、腹の底に響く爆音。
鉄粉を吸い込まぬよう、首元から防疫布を引き上げ、口と鼻を覆う。
噴煙にまぎれ、遮蔽物から飛び出す。跳躍中に一瞬で照準。引き金を一度、二度、引き絞る。
喉と胸を撃ち抜く確信はあったが、二度とも火花が散って防がれた。
赤紫色の罪業場が展開され、巨漢を守っていた。隣のヒョロガリの前腕が縦に割れ、罪業収束器官が露出している。アーカロトを拾った際に狩った奴と同質の罪業場だ。ただしこちらのほうがより細長く、長辺は十メートルを超えている。
ゴーグルめいた赤いサイバネアイが無慈悲な光を湛えていた。弾道予測構文でも入れているのだろう。
――長物じゃ不利だね。
ギドは瞬時にそれだけの情報を得ると、再び遮蔽物の影に駆け込んだ。
再び、爆音。
「テメーにゃ二つ選択肢がある。てめーの飼ってる燃料を全部〈親父〉に献上して許しを請うこと。もうひとつはここで俺らにファックされて死ぬことだよォッ!!」
「ババ専かよ。しょーもないマザコン坊や。生憎お前らにやる燃料なんざ一人たりともねぇんだよ」
《ババア、展開終わったぞ。連中の背後に出た》
《オーケー、ヒョロガリに対して制圧射撃。お前らに気取られてる間にアタシが背後からズドンだ》
《けッ、せいぜい俺らが死ぬ前に頼むぜ》
《ヒヒ、善処はするよ》
ギドは壁から片目だけを出して確認する。
子供たちが遮蔽物より身を乗り出して手に手に拳銃を構えていた。
瞬間――
「聞こえてんだよテメェらのくだらねえ内緒話なんぞよォ!!」
巨漢が突如として背後を振り向き、罪業場の礫を打ち込んだ。
熱も炎もない爆発が、大気をどよもす。
「――あぁ、知ってるよ」
次の瞬間、側面に展開していた子供たちの銃火が連続した。
こちらのやり口が読まれていることは先刻承知だ。さっきからもっともらしく行っていた作戦通信はほとんどブラフである。
ヒョロガリの腕は縦横に動いて防御に勤しむも、子供サイズの拳銃はその銃身の短さゆえに集弾性が低い。弾道予測構文はあまり役に立たない。当然「狙ったところに飛んでいかない」というデメリットも孕んでいるが、そこは人数でカバーする。
手足に被弾してうろたえるヒョロガリと、即座に子供たちの方へ礫を打ち込もうとする巨漢。
その胸に、完全被甲弾を叩き込む。
人体相手ならばソフトポイント弾やホローポイント弾の方が殺傷力が高いが、腹部の罪業変換機関を傷つける恐れがあるため、ギドは必ずフルメタルジャケットを使うことにしていた。貫通力が高すぎてすぐに通り抜けてしまうが、一撃で急所を撃ち抜ける技量があるなら関係ない。
実際に引き金を引く前から、あぁ、こりゃ当たるな、という確信が湧き、的を外したことなど一度もないのだ。
巨漢の胸に赤い花が咲き、びくん、と痙攣する。
同時に、ゼグが雄たけびを上げながらヒョロガリに肉薄し、その胸板に三発ほど撃ち込んでいた。勇猛だ。あいつ長生きできねーなマジで。
二人の〈原罪兵〉は、同時に倒れ伏し、二度と動かなかった。
子供たちは条件反射のようにナイフを取り出すと、特に何の表情も浮かべず二つの死体に近づいてゆく。
【続く】
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