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ケイネス先生の聖杯戦争 第四十八局面
「当然わきまえていると思うが、子供の救助など優先順位としては最下位だ」
ディルムッドと雁夜は、歯噛みした。
「キャスターとて倒さねばならない相手。今ここで仕留めたところで何の問題がありましょう」
槍兵の諫言を、ケイネスはあっさり無視する。
「セイバー陣営の動きとしては二パターン考えられる。我々の侵入に気づいていない場合と、気付いている場合だ。前者であれば、セイバーがキャスターを迎撃している間に敵の本丸を制圧すればいいだけの話なので簡単だが、問題は後者の場合だ。セイバーともども工房に籠城されれば、いくら二騎がかりとはいえ苦戦は免れない。最も望ましいのはキャスターとセイバーをぶつけ合わせて勝利した方を叩くという流れだが、ふん、ジル・ド・レェね。アーサー王に比べれば英霊としての格は落ちるな。その上抗魔力スキルを有するセイバー相手では相性面でも不利であろう。大した消耗は負わせられないと考えるべきだ。そうなると恐らくは――」
いくつかの出来事が同時に起こった。
「キャスタァァ――ッ!!」
清澄な怒号が圧倒的な魔力の迸りと共に大気を嬲り、雄々しさと可憐さの精髄を奇跡的な手段で結晶化させたような少女騎士が、大地を蹴り砕きながら猛然とキャスターに向かって行っている。
同時に、ケイネスと雁夜の首に、目に見えないほど細い何かが巻き付いた。
違和感に気づいた時にはもう遅い。ごく細い何かは、急激に締まり、気管と頸動脈を塞ぎにかかった。
「ぐッ!?」
さらに次の瞬間、この世のすべてを吹き飛ばし、粉砕するかのような、本能的な恐怖を呼び覚ます絶叫が轟き渡った。
闇色の騎士が雁夜の命令を待たず実体化。
「A――urrrrrrッ!!」
黒き迅雷と化し、大気を挽き潰しながら少女騎士の方へ吶喊していった。
●
ディルムッドにしてみれば、慮外な事態が発生しすぎて一瞬目を回してしまった。だが即座に己の主を救出せんと動く。
見たところ、貴金属のごく細い針金がケイネスの頸を締めあげているようだ。指を間に挿し込もうにも、一分の隙もなく主の肌と密着しているため、果たせない。
「我が主よ、ご容赦を!」
〈破魔の紅薔薇〉の穂先を、ケイネスの頸動脈を傷つけないよう注意しながら一閃。僅かな首の肉と共に、針金を切断する。
雁夜にも同様の処置を行うと、二人の生者は蹲って荒い息をついた。
「衛宮……切嗣め……ッ! もう月霊髄液の盲点を突き始めたか……ッ!」
ケイネスは即座にスズメの使い魔を飛ばした。バーサーカーが突撃していった方角へと。
「ケイネス! どうする!?」
同じく肩で息をしていた雁夜が問う。ディルムッドも同感だった。あまりにも多くのことが一度に起こり過ぎている。何から対処すれば良いのやら――
「キャスター! 子供を殺すな! セイバーは対城宝具を有している!!」
ケイネスが張り上げた声は、スズメの使い魔を通じて収束音波と化してジル・ド・レェへと降り注いだ。
直後、再び針金が首に絡みつく。
【続く】
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