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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #14

  目次

「……食べても?」
「正直だねぇ。ま、冷めてももったいない。おあがりよ」
 うなずき、席につく。ペレットをフォークで突き刺し、口に運ぶ。
 匂い、味、食感、いずれもアーカロトの記憶にある天然の食材と比べれば単調で深みのないものであったが、わざとらしいまでのアミノ酸の暴力が強制的に唾液を分泌させた。
「これは君が?」
「おいおい、年長者に対する口の利き方がなってないねぇ。……アタシじゃないよ。ウチのクソガキの誰かさ」
 咀嚼しながら、そういえば自分の外見年齢を考えれば適切な口調ではなかったなと思いなおす。
 だが、あえて呼び方はそのままでおく。この人物に対しては、どのような譲歩も迂闊にするべきではない。そう直感した。
「……取引とは?」
「ふぅむ」
 老婆は尖った顎を掴み、しげしげとこちらを見る。獲物を品定めする目つきに、アーカロトは眉をしかめた。
「お前、楽園チキュウの人間だね?」
 咀嚼が、止まった。
「何故そう思う?」
 何の前触れもなく、額に冷たい感触が押し当てられた。
 それがライフルの筒先であることを、一瞬遅れて理解した。
 テーブルにある調味料を取るかのような気安さで、この老婆はアーカロトの生殺与奪権を握ったのだ。あまりの脈絡のなさに反応し損ねた。なるほど、これが暴力で生きる人間か。暗い目の男の記憶は残らず引き継いでいるが、それは知識として知っているだけで、実感の伴ったものではないのだ。
「何か勘違いしてるみたいだから言っておくけどねェ、質問するのはアタシで、質問されるのはお前だよ、ぼうや。そこを勘違いしちゃあいけない」
 アーカロトは口の中の合成たんぱく質を飲み下すと、プラスチックのコップに注がれた水を一口飲む。
 そして、言った。
「あなたの名前は? 〈原罪兵〉を狩ってどうするつもりだ? 後ろの子供たちは暴力で従えているのか? そのライフルに安全装置はないのか? 僕の近くに奇麗なドレスを着た小さな女の子が眠っていたと思うが、彼女はどうなった?」
 凶暴な笑みが、老婆の頬を歪めた。
「……なるほどなるほど。お前、絶罪殺機の繰り手だね・・・・・・・・・・?」
 今度こそアーカロトは驚愕に目を見開いた。

【続く】

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