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かいぶつのうまれた日 #9

  目次

 その後のヴェステルダークの話を要約すると、二点に絞られる。
 ・探索途中で隊員数名が行方不明になるという事件が発生したこと。
 ・その直後、タヌキ化した住民が一斉に元の体に戻ってしまったこと。
 以上、事件はそれで終わり。皇停『禁龍峡』の正確な位置はつかめぬまま、調査部隊は撤収し、その後政府主導の復興支援が始まったのであった。
 結局、何一つ確かなことは判明しないうちに、この『昭和タヌキ騒動ぽんぽこ事件』は終結を迎えたのである。

 行方不明になった隊員たちは、二度と戻ってはこなかったという。

 ●

「……つまりその、僕のネコ耳も、皇停『禁龍峡』が原因ニャのだと?」
「少なくとも関連を疑うには十分なのかもな」
「ううう……」
「イレギュラーはもうひとつあるのかもな」
「なんですニャン?」
「《楔》とは別に、奇妙なバス停が見つかったのかもな」
「おやおや、」
 タグトゥマダークは肩をすくめて笑った。
「奇妙じゃないバス停なんてあるんですかニャ?」
「なんかうねうねしていた」
「奇妙すぎる!」
「しかも、この地域の〈BUS〉流動網から孤立しているのかもな」
 ……正確には、完全に孤立しているわけではなく、地脈のネットワークからエネルギーをもらうばかりで、自身からは一切エネルギーを吐き出さないという凄まじい寄生虫ぶりらしい。
 当然バスなど通っていない。
 バス停なのに。
「あの、それ、本当にバス停なんですかニャン? なんか聞く限りでは〈BUS〉を食べる宇宙怪獣みたいな感じがするんですが……」
「あながち間違ってないのかもな。少なくとも、そのバス停のせいで朱鷺沢町近郊の〈BUS〉相は秩序だったサイクルを維持しにくくなっているのかもな。《楔》を擁する土地であるにも関わらずド田舎なのはそのせいなのかもな」
 〈BUS〉は単なる破滅的なエネルギー流というだけではない。淀みなく循環していたなら、その地域の自然や文明を活性化させる霊的な作用が働くのだ。《楔》のお膝元の地域ともなれば、超サイバーな未来都市トキサワシティーになっていてもおかしくなかったはずなのである。透明なチューブがうねりまくりである。
 だが、現実にはそうではない。
 謎のバス停によって〈BUS〉を吸い取られ、循環の流れをかき乱され、朱鷺沢町はド田舎との誹りを免れぬほどの過疎ぶりとなっているのである。
「……そのバス停の名は」
「第三級バス停、『腐りゆく唇』」
「なんです、それ? 地名じゃないですニャン?」
「不明かもな。丸看板にそう書いてあったのかもな」
「確かに奇妙なバス停ですニャー」
「うねうねしてるしな」
「だから奇妙すぎる!」

 ●

 いや、さて。
 ここで、篤サイドに目を向ける。
 タグトゥマダークを撃退した後も、篤は自らのウサ耳を誇らしげに揺らしながら学校への道を急いでいた。
 攻牙と射美は、篤の周りをぐるぐる歩きながら、ウサ耳を仔細に観察している。
「射美が思うに、諏訪原センパイはきっとウサ耳たちが平和に暮らす国『ウサミニア』のウサミミ王子なんでごわすよ!」
「そんな国は見たことも聞いたこともないがどうせ城はウサミミ城で王様はウサミミ王で大臣はウサミミ大臣なんだろ!」
「ウサミニア……それはウサ耳たちが平和に暮らす国……国民は全員ウサ耳で、シルバニアファミリーばりのキュートでメルヒェンな騒動が毎日起こってるカンジでごわす♪ そんで三十分枠のラストはいつも『もう○○はこりごりだよぉ~!』『はははは、こいつぅ!』みたいなカンジでみんな笑顔でエンディング突入でごわすよー♪」
「いやに具体的だなオイ」
「末端価格で八万ドルでごわす♪」
「何が!?」
「犠牲もなしにユートピアが築かれるとでも思ってたでごわすかーッ!」
「繁栄の陰で何が行われてるんだウサミニアッ!」
 ――お前たち勝手なことを言っているな。
 篤は二人の応酬を適当に聞き流す。
 それはいいのだが、道中で知り合いに会うたびに、
「ちょっ……諏訪原! 何それ!」
「うむ、起きたら生えていた」
 というやり取りを繰り返すものだから、五回目ぐらいでなんか飽きてきた。

 突然の生徒会長。
「す、諏訪原君……何の冗談だいそれは?」
「うむ、起きたら生えていた」

 突然の不良。
「諏訪原てめえ、気でも違ったか!?」
「うむ、起きたら生えていた」

 突然の風紀委員長。
「こ、こら諏訪原ー! なんなんだ貴様その格好は!」
「うむ、起きたら生えていた」

 突然の後輩。
「あ、あの、諏訪原先輩……よくお似合いだと思いますよ……?」
「うむ、起きたら生えていた」

 突然の変態。
「やあ篤! みんなの股間のソムリエ、闇灯謦司郎だよ! 今日の朝立ち具合はどうかナ?」
「うむ、起きたら生えていた」
「!?」

【続く】

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