かいぶつのうまれたひ #13
「それで、鋼原よ」
「はいはい~♪」
射美が両手を挙げて、屈託ない笑顔で答える。
「この町にいる《ブレーズ・パスカルの使徒》は……つまり、当面俺たちと事を構えそうな十二傑は、あと何人いる?」
「射美を含めて四人でごわす~」
「各自の詳細を教えてくれ」
「んん~っと~……」
顎に人差し指を当てて、射美が語る。
一人目、タグトゥマダーク。
「いつもみんなのごはんを作ってくれるイケメンなお兄さんでごわす♪ 地方征圧軍での序列は第八位。超・めっさぽん強いでごわす♪」
二人目、ディルギスダーク。
「いつも独り言をブツブツ言ってる変テコなおっちゃんでごわす♪ 地方征圧軍での序列は第六位。超・めっさぽん・ファンタスティック強いでごわす♪」
三人目、ヴェステルダーク。
「いつも決断がやたら早い射美たちのリーダーでごわす♪ 地方征圧軍での序列は第三位。超絶・めっさぽん・ファンタスティック・エクセレント・ロマンティック強すぎワロタでごわす♪」
「篤くん! 逃げよう!!」
「いきなり何ですか勤さん」
「ヤバいよ! ヴェステルダークって! ちょっとシャレにならないよ! 逃げよう! 今逃げようすぐ逃げようナウ逃げよう!」
「落ち着いてください敗北主義者」
「言い切った!? いやいや、ホントにまずいんだって! 彼は《王》の一人だ! 僕たちとは存在の次元が違う!」
「何ですか《王》とは……いや、だいたいわかります。強いバス停使いなんですね」
「そんなレベルじゃないんだよぉ~!」
言い争う篤と勤を尻目に、攻牙が射美に問いかける。
「そういやお前の序列は何位なんだ?」
「……な、なんと上から数えて十一番目でごわす!」
「……」
嫌な笑みを浮かべる攻牙。
「ムキィーッ! その顔やめてでごわす~! 地方征圧軍十二傑がその名のとおり十二人しかいないなんてことは攻ちゃんは知らなくていいでごわす~!」
「その四人は、現在どう動いている?」
篤が、逃げようとする勤を組み伏せながら言った。
「えっと、確か~」
タグトゥマダーク:ヴェステルダークが借りたボロ借家で料理洗濯掃除に邁進するついでに、篤を抹殺しようと動いている。
ディルギスダーク:あちこち飛び回ってなんかしてる。あんまり家には帰ってこない。なにしてんのか不明。
ヴェステルダーク:ボロ借家の居間でタブレット端末とキーボードを広げてなんかしてる。《楔》がどうとか言ってたけどなんのことかわかんないでごわす~。
「つ、使えねえ……」
攻牙が目頭を押さえながら呟いた。
「えっと、それで射美は~」
「いや、もういい。お前はスパイ活動なのだろう。わかっている」
篤も目頭を押さえながら言った。
というか、味方の行動をあっさりバラすあたり、組織における射美の立ち位置がわかった気がした。
「……ええと、つまり」
篤に普段から兄貴分(笑)として慕われている『亀山前』のポートガーディアン(笑)、布藤勤は腕を組んでシリアス顔(笑)を取り繕った。逃走は諦めたらしい。
「やっぱり、彼らの目的は《楔》なのか……」
「知っているのか勤ーッ!?」
篤が叫んだ。
「なんでいきなりタメ口なの!? ……いやそれはともかく、篤くんはポートガーディアンじゃないから《楔》については知らないんだったね」
……と、いうわけで、ここから布藤勤の《楔》講座が始まるわけだが、すでにヴェステルダークの話の中で説明してしまったのであり、読者的には不要極まりないシーンである。
よって省略。
布藤勤、空気の読めない男である。
「……と、いうわけでこの地域のどこかに、皇停と呼ばれる《楔》が隠されているのさ!」(すごく得意げ)
「ふむ、所在不明のバス停、『禁龍峡』か……」
「あーあー、なんかヴェっさんがそんなこと言ってたような気がするでごわす~」
「どーも話が見えねえな」
攻牙がログテーブルに頬杖を突きながら言った。
「それと篤のウサ耳と何の関係があるんだ?」
「あぁ、それについては、似たような例が五十年ほど前にあったらしいよ」
……と、いうわけで、ここから布藤勤の『昭和タヌキ騒動ぽんぽこ事件』講座が始まるわけだが、すでにヴェステルダークが説明してしまったのであり、読者的には不要極まりないシーンである。
よって省略。
布藤勤、空気の読めない男である(笑)。
「……と、いうわけで、大地震とそれに伴うタヌキ化現象は、皇停『禁龍峡』の暴走が引き起こしたことであると考えられているんだ!」(超得意げ)
「超かわゆい~!」
「ぐぎゃあ!」
なぜか攻牙の頭を抱えて一緒にクルクル回りだす射美。
「離せバカヤロウ! 何なんだよ一体!」
「攻ちゃんがタヌキさんになったトコ想像してうっかり脳内最推しランキングに大幅な変動が来たでごわす~♪」
「ボクをネタに腐った妄想すんな!」
篤が勤に向き直る。
「つまり、この誉れ高きウサ耳も、『禁龍峡』が暴走した結果であるということですか?」
「そうだね、それ以外はちょっと考えづらい。何らかの特殊操作系バス停使いによる攻撃かとも考えたけど……」
「あ、それはないでごわすよ~」
もがく攻牙の頬をムニムニしながら射美は言った。
「タグっちとディルさんは内力操作系だし、ヴェっさんは外力操作系でごわす。射美の能力もそーゆーのじゃないでごわすし」
「いい加減離せコラーッ!」
「あだっ! か、噛むなんてひどいでごわす~!」
向かい合ってフシャーッ! と威嚇しあう射美と攻牙。