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ケイネス先生の聖杯戦争 第二十八局面
「あぁ、そうだったな。すまない。もちろん契約を違える気はないよ」
「小童どもがッ! 貴様らがごとき浅知恵でこの聖杯戦争を――」
「では雁夜、お前のバーサーカーの真名と能力の詳細を語ってもらう」
「はん! 雁夜ごときにランスロットを御せるわけがなかろうよ! さっさと刻印虫に食い殺されるがいいわ!」
「能力値は軒並みAランク以上。宝具は、まず手に触れた武器を己の宝具に変える〈騎士は徒手にて死せず〉。自らの正体を幻惑し、敵マスターにステータスを看破されなくなる〈己が栄光の為でなく〉。そしてランスロットのすべての能力値をワンランク上げ、竜殺しの属性を帯びる魔剣〈無毀なる湖光〉」
「その、最後の宝具は、」
「お前たちとの戦いでは使っていない。というより、魔力消費が重すぎて使えなかったと言うべきだな。もし使えば、俺は多分、ものの数分で死ぬことになる」
「使えばそこのランサーには少なくとも勝てたかもしれんのになァ! この愚鈍がッ! おおかた怖気づいたのであろう? そんな半端な覚悟で桜を救うつもりだったとは――」
「ランサー」
「は」
「間桐臓硯の舌を剪伐しろ」
「わ、我が主よ……あの、それは、〈必滅の黄薔薇〉で、ということでしょうか?」
「当然だろう」
「桜ちゃん! ちょっと他の部屋に行こうか!」
「せんばつ、ってなに…?」
「なんだろうね! 全然わからないね!」
●
「……これ以上、あの子に惨たらしい場面など見せたくないんだ。もう少し配慮してくれないか」
「配慮などお前がしろ。あの子供の情操教育に関して私が行動に制限を受ける謂れなどない」
雁夜とランサーは同時に呻いた。
互いに目を合わせ、幾許かの共感を交換する。
「それで、なんでいきなりこいつを黙らせたりしたんだ」
足元に転がり、血塗れの口で言語にならない呻きを上げるばかりの存在となった臓硯を、爪先でつつく。
「拷問すれば何か聖杯戦争について有益な情報でも吐いたかもしれないだろうに」
「魔術師を凡俗と一緒に考えないほうが良い。時間の無駄だ。それよりも、リスクを最小化するためにいかなる呪文も唱えられないようにしておくべきだろう。そして雁夜――」
ケイネスの傍らに、陰鬱な室内を映し出す流体金属の塊が蠢き始めた。
「バーサーカーの実体化は行えるか?」
「出るだけならどうにか。だが何もできないぞ?」
「構わん。出せ。それからランサー、部屋の家具を脇に寄せろ」
「は……? はい」
ランサーの怪力によって、あっという間に応接間を形作っていたソファとテーブルは壁際に立てかけられた。
こつこつ、と乾いた足音とともに、ケイネスは広くなった部屋の中央に立った。
「Rituale Instruere」
瞬間、銀の流体が瞬時に変形し、無数の細い触手と化して床を這いまわる。
「……魔法陣?」
見習い程度の知識しかない雁夜だが、そのとき展開された銀色にゆらめく図章と秘文字の集合物が、サーヴァント召喚に使用するものと少し似ていることに気づく。
だが、決定的なところでまったく違う。いったいどういう機能を有する駆式なのか。
【続く】
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