第二の錬金登録兵装
〈ソーチャンどの、聞こえますか?〉
〈うむ、問題ない。何かあったかのかな?〉
〈今、非常に危険そうなオークと遭遇したであります。見るからに他のオークとは別格の存在であり、その脅威度は未知数であります〉
〈……了解した。こちらはあらかた片付いておる。すぐにそちらに向かおう。五分ほど耐えてくれたまえ。〉
〈五分!? りょ、了解であります〉
〈死んではならんぞ、フィンくん。〉
〈もちろんであります!〉
「何故だ! どうしてそこまで殺そうとする! 事情を聞かせろ! 我らが何か恨みを買ったのか!?」
「さっきからテメーがなにいってんのかわかんねエ。ひょっとしてあれカ? テメーらはなんか理由がねエと殺しもできねエのカ? イカれてるナ。何が楽しくて生きてンだテメーら。イミフメーだゼ」
「……貴様!」
青白い光とともに、リーネの手の中にハルバードの柄が出現する。
ヴン、と唸りを上げて旋回し、斜めに構えられる。ゆさりと揺れる胸元。
「シュネービッチェンの名にかけて! 貴様らと折り合おうなどと考えたわたしが愚かだった! 今ここでその悪しき魂を断つ!」
「だから最初からそう言ってンだろうがクソしょうもねえやりとりさせやがってよォ」
「魔力操作――身体施呪!」
周囲の精霊力粒子が女騎士の体に吸い込まれ、陽炎めいたオーラとなって立ち上った。
「……フィンどの、殿下を連れてお逃げください。このオークは……なにか……まずい……!」
肩越しに、そう語りかけてくる。
「なに言ってるでありますか! あと五分でソーチャンどのが来てくれるであります! 三人とも生き残ることを考えるべきであります!」
「む……」
「よそ見かよオラァッ!!」
視界が黒く陰った。二条の紅い閃光が交差しながら襲い掛かり、激しい火花と共にリーネを吹き飛ばす。
「おぉ――ッ!」
フィンは冷静に斬伐霊光を展開。オークの周囲に不可視の檻を形成する。
いきなり攻撃は仕掛けない。このオーク個体は故郷で戦ったカイン人の戦士長を明らかに凌駕する戦闘技能を備えている。ただ攻撃を仕掛けても斬り捨てられるだけだろう。
フィンは〈哲学者の卵〉に意識を集中させた。
「あァ? なんだこの糸っキレェ」
オークは無造作に双戦鎌を振るう。
瞬間。
「――白銀錬成・烈光聖箭」
掌の中に錬成文字が乱舞した。モザイク画像が急速に解像度を上げてゆくように、一丁の長銃が出現する。曲面で構成される、優美なライフルだ。装飾的な錬成文字の刻まれた銃床に肩と頬を当て、本体の中に埋め込まれた形の銃把を握りしめる。
照星と照門を一致させ――引き金を引く。
電荷を帯びた重銀粒子がタンデム型起電機によって亜光速に加速され、イオンビームとなって飛翔した。
オークが斬伐霊光を斬り破ろうと動いたその瞬間を狙いすましたように着弾。下顎からそそり立つ巨大な牙を爆砕する。
「ガッ!?」
目を剥いて驚くオークに向けて、フィンは淡々と引き金を引き続けた。斬伐霊光の檻で行動を制限し、烈光聖箭で撃ち抜く。高位のカイン人を仕留めるための基本戦術だった。幾条もの致死の直線がオークに叩き込まれ、荷電粒子を飛散させた。
だが――敵は体のほとんどを黒い鎧で覆っている。
命中した箇所が赤熱するだけで、貫通も破壊もできなかった。フィンは眼を見開く。烈光聖箭は対人火器だ。しかし人間が着込める程度の鎧なら問題なく貫徹するはず。あの黒鎧はフィンの知らない未知の素材で構成されているようだ。
ともかく、露出している顔面や腕の内側などを狙うのだが――
「見え見えだなァ……!」
顔面に至る射線を戦鎌で塞ぎ、こちらに突撃してくる。鈍重そうな巨体からは想像もつかないほどの猛烈な速度だ。
「そちらがな!」
射線を塞いだということは、自らの視界も塞ぐということだ。斬伐霊光の檻に開けられた穴からリーネが銃弾じみた速度で突撃し、ハルバードを叩き込む。オークは反応が遅れた。
巨大な火花が狂い咲き、衝撃がフィンの前髪をなぶる。
砕け散った黒鎧の破片が舞い散る。吹っ飛ばされたオークは、空中で身をひねって姿勢を回復すると、何事もなく着地した。
「おいおい、面白くなってキやがったじゃねえか」
巨大な口を歪めて凶悪に嗤う。
――いける。
フィンは冷静に分析する。見た所、自分とリーネの戦術的相性は極めて良好だ。原理はわからないが、彼女は体重を自在に操れるようだ。オークの攻勢を受け止められる重戦車タイプの前衛がいてくれると、フィンは自由に行動できる。
五分を待たずして、勝負を決められるかもしれない。
フィンとリーネは目配せし合うと、息を合わせて突進した。
だが。
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