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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #33

  目次

 闇市の中央部。自動生成ではなく、明らかにメタルセルを切り出して組み上げたと思しき巨大な建造物があった。
「〈組合〉の運営する酒場だ」
「〈組合〉――この〈栄光〉セフィラを掌握している地方政府だったか」
「つーより、ええと、銀行だな。金刷ってるついでに仕切りもする感じの」
「……行政機関のお膝元に闇市があるのか?」
「違う違う。〈組合〉は〈法務院〉の子分じゃない。闇市やめろっつってんのは〈法務院〉であって〈組合〉じゃない」
 本来万全の情報インフラとなるはずであったメタルセルの電子神経網だが、第三大罪メタ・オブリビオンによる認識阻害のせいでほぼ機能しなくなっていた。ゆえに、ただひとつの政体がこの広大な殻世界すべてを統治することは不可能だったのだろう。
 出入口には、強化装甲服をまとった守衛がいた。
「おう、ギドんとこのガキか」
「あのババアに庇護されてるみたいに言うんじゃねえ殺すぞ」
「はいはい。後ろ向きな」
「チッ」
 口ぶりは荒々しいが、大人しく指示に従うゼグ。
 そのうなじに、装甲に覆われた籠手が当てられる。かすかな電子音。
「よし、通んな。そっちのお前もだ」
「……何を調べているんだ?」
「お前が子供の姿をした〈原罪兵〉じゃないことを確かめてんだよ」
「なるほど。脳幹部のバイオニューロンチップを検知しているのか。了解した」
 灰色の髪をかき上げて、うなじを晒す。ひやりと冷たい装甲の感触。すぐに電子音が複数。
「おいおい……〈原罪兵〉じゃねえようだが……お前その歳でどんだけ体弄り回してんだよ。ちょっとでかくなるたびにパーツ総とっかえする気か?」
「ご心配なく」
 髪を戻し、守衛の横を歩き去る。
「これ以上大きくはならない」
 建物の中に入ると、空気が変わった。
 外の闇市も活気はあったが、人々はどこか項垂れ、歩みや声に力がない印象だった。〈原罪兵〉を憎みながら、〈原罪兵〉の罪業がなくば生存できない因果関係を理解しているが故の、やるせない生きづらさが、人々の目から光を奪っていた。
 だが、ここは違う。獰猛な熱気が、アーカロトを押し包んでいた。
 アルコールの匂い。歓声と嬌声。多数の丸テーブルにはそれぞれ穏やかならざる目つきの老若男女が酒瓶を呷ったりカードに興じたりしている。
 壁には大量の銃器が架けられ、鋼鉄とガンオイルの香りがかすかに漂ってきた。
「おう、こっちこっち」
 ゼグはカウンター席について、ショットグラスを手にしていた。
「……未成年の飲酒は感心しないが」
「は? なんで?」
 火傷の少年は煙草を咥えて火をつけた。
 アーカロトは説得を諦めて隣の席につく。
「それで、ここで罪業変換機関を?」
「あぁ、もうちょっとで〈組合〉の査定が来る。それより、だ」
 カウンターに肘をつけ、身を乗り出し、ねめつけてくる。
「まぁ、なんか頼めや。おごっちゃる」
 なるほど。アーカロトとシアラを信用するかどうか、問答で見定めようというつもりか。
「ここ、ノンアルコールドリンクは?」
「ねえな」
「……ないのか……」
 タフな面接になりそうだった。

【続く】

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