絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #81
「御子よ。我々はこれまで誤った信仰のもと、多くの人々を殺めてきました。命乞いをする者らを、何人も何人も黄泉路に導きました。それだけが救いだと、愚かにも疑うことなく」
強化装甲服を外し、平服姿となった重サイバネの男たちは、シアラの前に跪きながら言った。
「お裁きを賜りたく思います。私どもに相応しい報いをお命じ下さい」
「えっと、えっと……」
祭壇めいて積み上げられた瓦礫の上に、手持無沙汰でちょこんと座っていたシアラは、困った。
誰かを裁くなどという発想がない。これからたくさん人を殺しますと言うなら止める手も考えるが、もう悔い改めている人間に対して「抱きしめる」以外の気持ちが浮かばない。かつて罪を犯した程度のことでこの指針が変わることなどありえなかった。
だからシアラは左右の子供たちに目を向ける。
視線を受けたジュジュは、にんまりと笑う。
そしてシアラに耳打ちしてくる。
「さかだちしてごめんなさいしてもらおうよ」
「えぇー……」
シアラは眉尻を下げる。
「そのあとぜんいんですごろくするの!」
そのときめく提案に、シアラの顔がぱっと明るくなる。
そして跪く大の男たちに向き直り、小さな掌を合わせながら、朗らかに命じた。
「ぜんいんさかだちしてごめんなさいしてほしいですわっ!」
聖戦士たちは即座に御子の下知に従った。
●
「テメーなに一人だけ素面こいてんだよフザけんなよ飲めやオラァ!!」
「がぼぼげぼぼ」
「おー、一気にいくねぇ。おっちゃんにももう一杯くれや」
「あまいのと」「にがいのがあるよ!」
レミとレムがそれぞれの瓶を捧げ持ってにっかり笑う。
デイルは相好を崩し、
「そんじゃ、半分ずつ注いでくれや」
「「はぁーい!」」
「おっとっと。はは、ありがとよ」
そこへ、むくつけき男たちが一斉に逆立ちして「ごめんなさい」と叫ぶ大音声が轟き渡り、付近住民らの失笑が低く広がった。
「ごふごふ。……ダリュ。何も言わずにちょっとこっちに来てくれないか」
「? なーに、じじぃ? あっ!」
「むぐむぐ。むぐむぐ」
「あー、ぼくのにくー……」
「おいィィィ!! 何ガキから食いもん奪ってんだお前!!」
「むぐむぐ。若干ちょっと」
「若干ちょっと?」
「むぐむぐ。酔った勢いで」
「今すぐ代わりの肉を取ってこいクソジジィ!!」
「にーちゃんねーちゃん! すごろくやるの! みんなで!」
小さなトトがレミとレムにまとわりついている。
「コマたらないよー?」「おっちゃんもやるー?」
「んあ? 何だなんだ?」
「サイコロふっていろいろするのー」
「お、ギャンブルか? おっちゃん得意中の得意よ?」
「カル。何も言わずにちょっとこっちに来てくれないか。むぐむぐ」
「あー? なんだじじぃ? ……あっ!」
「舌の根も乾かねえうちにまた略奪しやがったコイツ!!」
「じじぃ、それ、もうほねだけだぞ?」
「んぎんぎ」
「聞いちゃいねー……とりあえずもっと飲ますか。オラッ! 口開けろや!」
ゼグに鼻を摘み塞がれ、思わず口呼吸を始めたところにエタノール溶液が容赦なく流し込まれた。
「ごぼぼがぼぼ」
《繰り手の血中アルコール濃度が上昇。意識の酩酊を確認。警告:任務遂行能力が無視しえぬほど低下する恐れあり。可及的速やかに〈接続棺〉へ帰還し、アセトアルデヒドの強制分解措置を受けられたし》
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