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ケイネス先生の聖杯戦争 第四十六局面
「雁夜、バーサーカーは」
「回復した。戦闘可能だ」
「よろしい。では出立する」
「さぁ、桜ちゃん。ちょっとお出かけをしようか」
「おでかけ? どこに……?」
そこで、雁夜の顔は忸怩たる苦みを含む。だが、すぐに笑顔を取り繕った。
「綺麗なお城のあるところだよ」
●
間桐邸がケイネスの牙城となっていることを、すでに衛宮切嗣には知られている以上、間桐桜を一人残していくことには重大なリスクが伴う。
仮に人質に取られた場合、雁夜は誓約によって殺されることを覚悟した上でケイネスの敵に回るであろうことは疑いない。
「もちろん、俺もそんな結末は望まない。かといって安全な預け先など思いつかない」
連れて行くしかないのだ。これより攻め入るセイバー陣営の本拠地。冬木市郊外に隠匿されたアインツベルン城へと。
レンタカーを借り、雁夜の運転で一路北西を目指す。
城の詳細な位置座標と、それを取り巻く結界の範囲と性質は久宇舞弥から供された情報によってすでに詳らかとなっていた。
あらかじめそれらがわかっていれば、ケイネスならば侵入自体は滞りなく可能だろう。
●
ディルムッドは、霊体状態でレンタカーに追随しつつ、すぐ傍らにいる狂騎士の気配を感じとっていた。
アイリスフィール・フォン・アインツベルンは偽装マスターであり、衛宮切嗣こそがアインツベルンの送り出したマスターであること。
そしてそのサーヴァントは〈騎士王アルトリア〉――五世紀から六世紀の境目の時代に、ブリテン島にひとときの安寧をもたらした伝説的君主。
そして――ランスロットの生前の主君である。
無論、バーサーカークラスとして現界した以上、理性的な思考能力は剥奪されている。
それに、ランスロットの宝具〈己が栄光の為でなく〉によって、アーサー王側もランスロットをランスロットと見抜けないと考えられた。
よって大きな問題はないであろうと思われているが――
――ランスロット卿、あなたは今から主君に牙を剥かされようとしているのですよ。
もしもこの聖杯戦争にフィン・マックールが召喚されていた場合、自分は果たしてどうしたであろうか。
考えても、まるでわからない。今生の主に忠誠を誓った以上、ケイネスの命令に従うより他にないが、そもそもディルムッドを聖杯戦争に立たせた動機の根源は、フィンを裏切ってしまったという悔恨である。
できるのか? 戦えるのか?
答えは出ない。
ただ、どうしようもなくランスロットへの憐憫が胸に満ちる。騎士の忠誠の誓いがどれほど重いかを知っているから。
思えば、自分と彼は多くの点で共通している。
共に騎士の道を行き、共にそれぞれの主君に忠誠を誓い、共に主君の伴侶を奪うという罪を背負った。
――そして今、俺は盟を誓った相手がきっと望まぬであろう戦いに赴かされるのを、こうして看過しようとしている。
だが、この苦悩自体が卑劣な逃避に過ぎない。いくら思い悩んだところで、自分はケイネスの意向に逆らってまでランスロットを庇う選択肢など決して取らないのだから。
ならば、せいぜいふてぶてしく傲岸にいよう。
《ランスロット卿。我が主のため、あなたの忠誠を踏みにじらせていただく》
返事は、なかった。
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